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1. 標的の選別 時は数億年先の地球

第9話 五重塔の周りを飛び交う翼竜プテラノドン(沙織)

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 嫁入よめいりの話で、突然、自分を取りまく世界が変わってしまったように思える。

 そもそも、私は姉のように美人でもないし、姉のように優秀な忍びでもない。ただのオタクだ。得意の術で上司をごまかそうとするくらいの不届ふとどきものだったりする。

 帝のお妃候補に私が選ばれるはずがないのだ。これが陰謀いんぼうでなかったらなんなのだと言いたい。

 昼になり、太陽が真上まうえにきている。私は奉行所ぶぎょうしょ昼時間ひるじかんに外にでてきていた。

 天高くそびえる五重塔ごじゅうのとうのいただきの辺りを見つめて、私は深いため息をつく。朱色しゅいろ内屋根うちやねのあたりを、翼竜よくりゅうのプテラノドンが飛び回っている。私は、昨日のゲームのなかで、五重の塔ごじゅうのとうのいただきより高いところを散々飛さんざんとんだ。

 辺りには、たい焼き屋のこおばしい匂いがただよっている。

「たい焼きはいかが?」
 にぎやかな大通りの前に、若い売り子うりこが行きかう人に聞こえるように声を張っている。

 あそこのたい焼きは美味おいしいのだ。朝食がのどを通らなかったせいで、私は急にお腹がすいてきているのに気づいた。



 今朝は、だいぶ朝方早くに目がさめてしまった。

 なぜ、突然とつぜん、私が帝のお妃候補きさきこうほになるのか。
 ゲームに参加してやらかしてしまったことが、関係しているのだろうか。家族の誰にも言えないくら秘密ひみつを抱えてしまい、私の心はしずんだ。

 夢見ゆめみひどく悪かった。

 そんなことを考えていたら、朝食の準備を手伝うのに間にあわなかった。
 
 間宮家では、由緒正しい代々続く武家地主ぶけじぬしであったけれども、朝食の準備はみなで行う決まりだ。

 寺子屋てらごやにかよっている幼き頃より、父の鷹蔵たかぞう、母の麻子あさこ、兄の実行さねゆき、姉の琴乃ことのさおり織と、使用人のおもだった者と一緒に準備をするならわしである。権太ごんたもその一人だ。

「沙織さん、今朝はたいそう疲れたご様子ですね。」

 何も知らない権太はそう言って、朝食の準備に間にあわなかった私を気遣きづかってくれた。

 家族は状況を知っているので、私の様子を見て何も言わなかった。ときおり、心配そうな目線を感じるものの、そっとしてくれていた。

 朝食はほとんどのどを通らなかった。味がせず、自分のはしを持つ手が、気苦労きぐろうのあまり、いつもと違うように感じた。

 これでは家族に言えない借金しゃっきんでも抱えてしまった方がまだマシだ。そう私は思うのであった。借金しゃっきんは頑張って返せば良い。
 けれども、ゲームに参加してしまったことは違う次元じげんおかしたようなものだ。
 
 というわけで、その日、私はクタクタで奉行所勤ぶぎょうしょつとめにでていた。得意の人をあやつる術を使って、上司をまどわす気力もおきない。

 ノロノロと、だが着実に仕事を片付けて行く。心を無にして、手と頭は慣性かんせいの法則にしたがって次々にタスクを処理していった。術の一つだ。


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