ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏

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全世界の諸君に告ぐ

52_最終作戦開始

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「大統領、彼です。」
 大統領補佐官が大統領に声をかけた。
 部屋の隅には、犬のロムも大人しく伏せの姿勢で寝転んでいた。
 
 テレビ画面にはぱっと一人の男性が映った。白い歯を見せて、爽やかな笑顔を浮かべている。
 これが世界中の武器を牛耳って動かすという噂のアンジェロか?
 大統領の顔はひきつった。
 想像と違ってかなり若い。三十代中盤の若造じゃないか。

「こんにちは。大統領初めまして。早速ですが、本題に入ります。」
 アンジェロという武器商人はテキパキと話し始めた。
 あなたの軍が所有している武器の数ですが、使えるものは銃二百五十二丁、戦車かろうじて一台、ドローンはゼロ、機関銃ゼロ、戦闘機ゼロ、ミサイルゼロ、・・・・」
 気の遠くなるようなゼロのオンパレードだ。
 だが、事実ではある。
 先日の不可思議な天候被害で武器が全滅した。どうしたらそんなことが起きるのかさっぱり理解できないが、実際にそうなのだから仕方がない。

「わかった。」
 大統領はアンジェロのゼロ宣告を途中でさえぎった。
「さえぎって申し訳ないが、それは私も把握している。」
 大統領は苦渋の顔でアンジェロに言った。

「では、話が早い。今後、あなたの国の軍が武器を手にいれるには条件があります。」
 アンジェロは大統領の目をしっかりと見て言った。

「その条件はなんだ?」
 大統領も大統領補佐官も息を呑んで答えを見守った。
 金か?
 いくらの金か?
 それとも、何かのポジションを要求するのか?
 見返りはなんだ?

「平和協定です。それをX国と結ばない限り、二度と武器は手に入らない。」
 アンジェロはあっさりと言った。

「チャンスは一度。場所はパリ。日程は4日後。」
 アンジェロはそう言って、ああ、と思い出したように付け加えた。

「ちなみに四日後のパリでは、大統領のお好きなミッチェリアルのコンサートをやっていますよ。初のワールドツアーの真っ最中なので。よろしければチケットを手配しますよ。」
 アンジェロはニッコリと笑って言った。

 大統領は思わず身を乗り出した。
 パリか。
 ミッチェリアルのコンサートか。初ワールドツアーで、彼女たちは初パリのはずだ。先日のアメリカ公園は大成功だったと聞いている。行きたい。行きたい。
 でも・・・?


 逡巡する大統領をよそに、アンジェロはあっさりキッパリと言い放った。
「では、大統領。パリで会いましょう。このチャンスは一度きりです。条件を飲まない限り、今後は武器は一つとして手に入りません。」

 それだけ言うとプツッと回線が切れたようで、テレビ画面は真っ暗になった。

「なんと。」
 大統領はよろよろと椅子に腰掛けた。
 そばにあるコップの水を飲んだ。

 そして、あくびをして、こう言った。
「大変なことになった。だが、ちょっと休ませてもらうよ。心労で疲れたようだ。」
 それだけ言うと、仮眠をとりに執務室を大統領はでた。
 
 ロムがコップの水に入れた睡眠薬が原因だ。しかし、犬が仕込むとは誰も思っていないので、永遠にバレないだろう。とにっかく、大統領は眠気に耐えられずに今は寝ているということだ。

 
 やがて、執務室から誰もいなくなると、食堂からオウムのドキロを連れて、犬のロムがやってきた。ロムは寝ている大統領からまたもやスマホを奪い、ロック解除してもってきていた。

「じゃあ、始めようか。」
 オウムのドキロはそう言うと、ロムはスマホを操作して電話をかけ始めた。
 前もって連携されてきていたエールフランスの便名と時間を確認して、ドキロに見せた。

 ドキロは完璧に大統領の声真似ができた。

「内密に緊急手配をしてほしい。明日の夜、隣国のS空港から出発するエールフランス○○便でパリに向かうつもりだ。シークレットサービスにも私が誰だか伏せて、ついてくるよう手配をしてくれ。これは極秘作戦だ。決して漏れてはならないぞ。頼んだぞ。」

「内密に緊急手配をしてほしい。二日後のパリのRホテルのスイートを抑えてくれ。シークレットサ―ビス含めて9人のチームで移動する。宿泊は3泊抑えてくれ。他の誰にも言うな。シークレットサービスにも私の正体を明かしてはならない。これは極秘作戦だ。頼んだぞ。」

 こうして、ドキロは大統領そっくりの声で次々に指示を出した。電話をかけ終わると、ロムはスマホの使用履歴を消して、速やかに寝ている大統領のもとにスマホを無事に返した。

 そして、執務室の電話から敵国の大統領執務室にかけた。
 いつものように、敵国の大統領が飼っている猫が電話にすぐにでた。
「こっちも準備OKだ。」
 電話の向こうで猫は素早くロムにささやいた。
「OK。こちらも準備OKだ。」
 こうして、アンジェロと動物たちによって作戦は開始されたのだ。

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