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全世界の諸君に告ぐ
36_伊賀ウオーターメロンのひらめき
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私は、バンドが後に引けない状況に追い込まれたことに吐き気がした。
気付け薬にさと子さんのスイートルームに置いてあったスパークリングワインを飲んだが、全然、気付け薬にならなかった。
頭を振る。いや、お酒を飲んだのに振ったらダメだった。
私はクラクラする頭を抱えて、フラフラとプールサイドの木陰を歩き回っていた。
自分でも、どこに行こうとしているのか分からない。
ボスの所にいたソフィが、猫のモーリーと同一生物であり、ボスを裏切る行動をとったと知った衝撃に耐えられなかった。
ソフィは殺し屋の異名を持つ、とてつもない女だ。
ソフィは、だからあんなに敏捷に動けたのか?
プールサイド脇の木の木陰で、ミケの格闘技好きの動きを思い出して、私はハタと腑に落ちた。
そうか、ソフィが伊賀の血に負けない動きをするのは、そういうことだったのか!
私は、急に不気味に思えたソフィの敏捷性について、納得がいって、思わず手を叩いた。
いや、待てよ。私は考え込んだ。
ソフィはボスを裏切った。とてつもない裏切り方だ。私の裏切りより数千倍まずいことをした。
ソフィは、世界中の武器証人に連絡を取って、ボスの名前で武器を買い占めて、それを全てミカナ名義に変えた。
ミカナとソフィは協力して、金を先ほどミカナの口座からボスの口座にスライドしたので、ボスの口座の金はまたプラスに転じている。
ただし、だ。
あのボスは、それに気づかないほどそんなに愚か者ではない。
それは、ソフィが一番よく知っているはずだ。
私は頭上を飛ぶ蜂に気づいた。
プールサイドに蜂はまずいだろう。
思わず、パラソルの下でくつろぐ薄着の顧客に給仕しているウェイターやウェイトレスを目で探した。
うん?何か今、頭に閃いたぞ。
「伊賀スイカさん!」
突然、私はその名前で呼ばれて、思わずビクッとして振り返った。
思った通り、レコード会社営業のカマジリだった。
ロスでみんなで動物園に出かけて説教を食らったのを、私が聞いてあげたとき以来だった。
「やっぱり、メロンさんだったんですね!」
呼び方をどれかに統一してくれないのかと、内心私は心の中で思った。
今、私はとても大事なことを思いついた気がしている所で、あなたに話しかけられたくない。
けれども、そんなことを本人に言えない。
「はあ、そうです。」
私はぼんやりとした笑顔を浮かべて言った。
「いやあ、後ろから見て、メロンさんじゃないかと思って、追いかけてきたんですよ。」
カマジリは頬を染めて私に言った。
「はあ。」
私は気のない返事をした。
正直、この人がなぜ私に興味を示すのか、さっぱり分からない。
伊賀忍者が好きとか?まさかあ・・・
私はさっき頭に閃いたことの続きを早く考えたくて、イライラしそうな自分を抑えた。
ボスの所の猫のモーリーが危険な橋を渡っているんだよ!
私の心の中に、ふと本音が浮かんだ。
そうか、私はモーリーを助けたいんだな。
私はそこで、ようやく自分の気持ちを認識した。
「うわっ!蜂がいます!」
「こっちに行きましょう、メロンさん!」
カマジリは頭上のハチに気づいて、私の腕を取って抱き寄せるような行動をした。
「キャッ!」
私は突然腕を取って男性に引き寄せられたので、思わずびっくりして声をあげた。
「そうそう、蜂なんです!」
カマジリは、私が蜂に驚いて叫んだと勘違いして、なおさら私を引き寄せて抱きしめた。
不思議なことに、伊賀の血は、いつもの「なめんなよ!」という感情を呼び覚まさなかった。
は?
私はおとなしくカマジリに抱き寄せられたままになっている自分に甘んじた。
なんで、こうなる?
私は自分の態度に自分でびっくりした。
「いやいやいやいや!そうじゃなくてっ!」
私は思わずそう言って、カマジリを突き放した。
「あの!私、今急いでいるので、また今度!」
私はそう言って、あっけに取られて立ち尽くすカマジリを木陰に置き去りにして、ホテルの方に走り去った。
「あら?フラれたんちゃう?」
さと子さんがカマジリにそう言うのがちらっと聞こえた。
どこからさと子さんは見ていたんだろう、私は一瞬そう思ったが、そんなことより私は今できることが確実にある!という思いで、すぐに私の頭の中はいっぱいになった。
そこに、できることがあるということに、まず集中しよう!
モーリーを救おう。
いや、救うというより、私もガールズバンドのクジャクさまや、キツネさまやタヌキさまやネコさまの手伝いをしよう。
私が受けてきた教育とノウハウは、今回の軍事行動にもきっと役立つ。
私は生命科学を学んでからのNASA職員になり、弟のミカエルはハーバードで応用工学をやっていた。
私の知っている限り、私の周りには賢くて正義感に溢れて、金に困ったやつならわんさかいた(アメリカの奨学金返済は地獄のようなものだ)。
その中で、今回の軍事行動にぴったりの裏技を使える人物を私は一人知っている。
そいつは、私に金曜日になると実験とレポートを押し付けていたやつだ。そいつの携帯番号だって知っている。
我が伊賀兄弟のノウハウと、そいつの力を合わせれば、ガールズバンドがやり始めてしまったことと、ソフィがやったことを、本当の意味で効果のあるものに迅速に仕立てあげられる。
私はプール側の出入り口から、ホテルのフロントに飛び込んだ。
そして、走るのをやめて、不審に思われぬよう足早に歩いた。みんなが集まるスイートルームの部屋に向かうのだ。私は澄ました顔で足早にフロントを通り抜けて、上階に上がるエレベーターのボタンを押した。
気付け薬にさと子さんのスイートルームに置いてあったスパークリングワインを飲んだが、全然、気付け薬にならなかった。
頭を振る。いや、お酒を飲んだのに振ったらダメだった。
私はクラクラする頭を抱えて、フラフラとプールサイドの木陰を歩き回っていた。
自分でも、どこに行こうとしているのか分からない。
ボスの所にいたソフィが、猫のモーリーと同一生物であり、ボスを裏切る行動をとったと知った衝撃に耐えられなかった。
ソフィは殺し屋の異名を持つ、とてつもない女だ。
ソフィは、だからあんなに敏捷に動けたのか?
プールサイド脇の木の木陰で、ミケの格闘技好きの動きを思い出して、私はハタと腑に落ちた。
そうか、ソフィが伊賀の血に負けない動きをするのは、そういうことだったのか!
私は、急に不気味に思えたソフィの敏捷性について、納得がいって、思わず手を叩いた。
いや、待てよ。私は考え込んだ。
ソフィはボスを裏切った。とてつもない裏切り方だ。私の裏切りより数千倍まずいことをした。
ソフィは、世界中の武器証人に連絡を取って、ボスの名前で武器を買い占めて、それを全てミカナ名義に変えた。
ミカナとソフィは協力して、金を先ほどミカナの口座からボスの口座にスライドしたので、ボスの口座の金はまたプラスに転じている。
ただし、だ。
あのボスは、それに気づかないほどそんなに愚か者ではない。
それは、ソフィが一番よく知っているはずだ。
私は頭上を飛ぶ蜂に気づいた。
プールサイドに蜂はまずいだろう。
思わず、パラソルの下でくつろぐ薄着の顧客に給仕しているウェイターやウェイトレスを目で探した。
うん?何か今、頭に閃いたぞ。
「伊賀スイカさん!」
突然、私はその名前で呼ばれて、思わずビクッとして振り返った。
思った通り、レコード会社営業のカマジリだった。
ロスでみんなで動物園に出かけて説教を食らったのを、私が聞いてあげたとき以来だった。
「やっぱり、メロンさんだったんですね!」
呼び方をどれかに統一してくれないのかと、内心私は心の中で思った。
今、私はとても大事なことを思いついた気がしている所で、あなたに話しかけられたくない。
けれども、そんなことを本人に言えない。
「はあ、そうです。」
私はぼんやりとした笑顔を浮かべて言った。
「いやあ、後ろから見て、メロンさんじゃないかと思って、追いかけてきたんですよ。」
カマジリは頬を染めて私に言った。
「はあ。」
私は気のない返事をした。
正直、この人がなぜ私に興味を示すのか、さっぱり分からない。
伊賀忍者が好きとか?まさかあ・・・
私はさっき頭に閃いたことの続きを早く考えたくて、イライラしそうな自分を抑えた。
ボスの所の猫のモーリーが危険な橋を渡っているんだよ!
私の心の中に、ふと本音が浮かんだ。
そうか、私はモーリーを助けたいんだな。
私はそこで、ようやく自分の気持ちを認識した。
「うわっ!蜂がいます!」
「こっちに行きましょう、メロンさん!」
カマジリは頭上のハチに気づいて、私の腕を取って抱き寄せるような行動をした。
「キャッ!」
私は突然腕を取って男性に引き寄せられたので、思わずびっくりして声をあげた。
「そうそう、蜂なんです!」
カマジリは、私が蜂に驚いて叫んだと勘違いして、なおさら私を引き寄せて抱きしめた。
不思議なことに、伊賀の血は、いつもの「なめんなよ!」という感情を呼び覚まさなかった。
は?
私はおとなしくカマジリに抱き寄せられたままになっている自分に甘んじた。
なんで、こうなる?
私は自分の態度に自分でびっくりした。
「いやいやいやいや!そうじゃなくてっ!」
私は思わずそう言って、カマジリを突き放した。
「あの!私、今急いでいるので、また今度!」
私はそう言って、あっけに取られて立ち尽くすカマジリを木陰に置き去りにして、ホテルの方に走り去った。
「あら?フラれたんちゃう?」
さと子さんがカマジリにそう言うのがちらっと聞こえた。
どこからさと子さんは見ていたんだろう、私は一瞬そう思ったが、そんなことより私は今できることが確実にある!という思いで、すぐに私の頭の中はいっぱいになった。
そこに、できることがあるということに、まず集中しよう!
モーリーを救おう。
いや、救うというより、私もガールズバンドのクジャクさまや、キツネさまやタヌキさまやネコさまの手伝いをしよう。
私が受けてきた教育とノウハウは、今回の軍事行動にもきっと役立つ。
私は生命科学を学んでからのNASA職員になり、弟のミカエルはハーバードで応用工学をやっていた。
私の知っている限り、私の周りには賢くて正義感に溢れて、金に困ったやつならわんさかいた(アメリカの奨学金返済は地獄のようなものだ)。
その中で、今回の軍事行動にぴったりの裏技を使える人物を私は一人知っている。
そいつは、私に金曜日になると実験とレポートを押し付けていたやつだ。そいつの携帯番号だって知っている。
我が伊賀兄弟のノウハウと、そいつの力を合わせれば、ガールズバンドがやり始めてしまったことと、ソフィがやったことを、本当の意味で効果のあるものに迅速に仕立てあげられる。
私はプール側の出入り口から、ホテルのフロントに飛び込んだ。
そして、走るのをやめて、不審に思われぬよう足早に歩いた。みんなが集まるスイートルームの部屋に向かうのだ。私は澄ました顔で足早にフロントを通り抜けて、上階に上がるエレベーターのボタンを押した。
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