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全世界の諸君に告ぐ
32_ロシア皇帝の隠し財産相続(ミカナ)
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ホテルのスイートルームに、ミカナは弁護士を招き入れた。
メロンもトオルも、ミケも同席していた。
「お嬢さま、お初にお目にかかります。」
ミカナはロシア語でその弁護士が言うのを聞いていた。
トオルはロシア語は分からない。
ここにいる誰も私以外にロシア語はわからない。私がロシア語が少しできるのは秘密だ。
ロシア語は母が話せたのだ。ただ、母は私が幼い頃に亡くなったので、私は少ししか分からない。
「私はお祖父様の弁護士を長年務めてまいりました。」
弁護士はメガネをかけて白髪だらけの相当な老人だった。
ただ、その老人の弁護士には、屈強なボディーガードが三人もついていた。
「ちょっと待って。ゆっくりね。私、ロシア語はほとんど覚えていないから。」
私はゆっくりとロシア語でお願いした。
「承知しました。お母さまが亡くなられた後、お祖父様は、お嬢様の存在をしばらく存じておりませんでした。」
弁護士はそこで言葉を切った。私が理解したのを確かめているようだ。
「分かったわ。」
私はうなずいた。
「しばらくして、お嬢様の存在を知ったお祖父様は大変な喜びようで。」
そこでまた弁護士は言葉を切った。
「分かったわ。」
私はうなずいた。
「遺言書を全て書き換えたのです。その時点であなたが全財産を継ぐことになりました。」
弁護士はそこでまた言葉を切った。
「分かったわ。」
私はうなずいた。「遺言書」という言葉は昨晩、辞書で調べておいた。「財産」も調べておいたので、意味がなんとなく理解できた。
「一切の手続きは、この私が執り行います。」
弁護士はそこでまた言葉を切った。
「分かったわ。」
私はうなずいた。
「こちらの口座に全ての財産があります。名義は全てお嬢様になっております。」
弁護士はそう言って、私の所に近づいてきた。
そして、メモを取り出すと、かがみこんであらゆる方角から見えないようにして、小さな文字を書いた。
「こちらどうぞ。覚えましたら、破棄してください。」
弁護士はメモを私に渡した。
私はそのメモを一瞥した。全部暗記した。
「ライターある?」
私は弁護士に聞いた。
弁護士が素早くライターを取り出した。
私はメモに火をつけて、水を入れたコップの上に置いた。火は燃え移り、燃え盛って、灰になった。コップの中の水の上に灰が散らばった。
私は16歳。ガールズバンド「ミッチェリアル」のドラマー。
でも、ただの高校生ではない。母方の遺産は莫大だった。記憶力が抜群という遺伝的な力だけでなく、文字通りの金も譲り受けた。
スイスの貸金庫、スイスの銀行の口座番号、暗証番号、全てを一気に私は覚えた。
アンジェロ、さあ、覚えていなさい。これを全部使い切ってやるわ。
「ありがと。大事にするわ。」
私は年老いた弁護士とボディガードにカタコトのロシア語で言って、微笑んだ。
こうして、私は金の亡者を慌てふためさせる計画に着手した。
メロンもトオルも、ミケも同席していた。
「お嬢さま、お初にお目にかかります。」
ミカナはロシア語でその弁護士が言うのを聞いていた。
トオルはロシア語は分からない。
ここにいる誰も私以外にロシア語はわからない。私がロシア語が少しできるのは秘密だ。
ロシア語は母が話せたのだ。ただ、母は私が幼い頃に亡くなったので、私は少ししか分からない。
「私はお祖父様の弁護士を長年務めてまいりました。」
弁護士はメガネをかけて白髪だらけの相当な老人だった。
ただ、その老人の弁護士には、屈強なボディーガードが三人もついていた。
「ちょっと待って。ゆっくりね。私、ロシア語はほとんど覚えていないから。」
私はゆっくりとロシア語でお願いした。
「承知しました。お母さまが亡くなられた後、お祖父様は、お嬢様の存在をしばらく存じておりませんでした。」
弁護士はそこで言葉を切った。私が理解したのを確かめているようだ。
「分かったわ。」
私はうなずいた。
「しばらくして、お嬢様の存在を知ったお祖父様は大変な喜びようで。」
そこでまた弁護士は言葉を切った。
「分かったわ。」
私はうなずいた。
「遺言書を全て書き換えたのです。その時点であなたが全財産を継ぐことになりました。」
弁護士はそこでまた言葉を切った。
「分かったわ。」
私はうなずいた。「遺言書」という言葉は昨晩、辞書で調べておいた。「財産」も調べておいたので、意味がなんとなく理解できた。
「一切の手続きは、この私が執り行います。」
弁護士はそこでまた言葉を切った。
「分かったわ。」
私はうなずいた。
「こちらの口座に全ての財産があります。名義は全てお嬢様になっております。」
弁護士はそう言って、私の所に近づいてきた。
そして、メモを取り出すと、かがみこんであらゆる方角から見えないようにして、小さな文字を書いた。
「こちらどうぞ。覚えましたら、破棄してください。」
弁護士はメモを私に渡した。
私はそのメモを一瞥した。全部暗記した。
「ライターある?」
私は弁護士に聞いた。
弁護士が素早くライターを取り出した。
私はメモに火をつけて、水を入れたコップの上に置いた。火は燃え移り、燃え盛って、灰になった。コップの中の水の上に灰が散らばった。
私は16歳。ガールズバンド「ミッチェリアル」のドラマー。
でも、ただの高校生ではない。母方の遺産は莫大だった。記憶力が抜群という遺伝的な力だけでなく、文字通りの金も譲り受けた。
スイスの貸金庫、スイスの銀行の口座番号、暗証番号、全てを一気に私は覚えた。
アンジェロ、さあ、覚えていなさい。これを全部使い切ってやるわ。
「ありがと。大事にするわ。」
私は年老いた弁護士とボディガードにカタコトのロシア語で言って、微笑んだ。
こうして、私は金の亡者を慌てふためさせる計画に着手した。
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