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襲撃(始まる前に、襲われた)
24_爆買いツアー(しし丸)
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レコード会社が用意したバスは、動物園から無事にメンバーをホテルに連れ帰ってくれた。
俺は心底ほっとした。昼食を食べたら、すぐにリハのためにコンサート会場に向かうことができる。
ホテルでカンカンになって待ち構えていたカマジリに、俺はこっぴどく怒られた。マネージャーが変装もなしにメンバーを連れ歩くなんて、自覚がなさすぎる!というわけだ。
「なーにやってんすかっ!」
「今大事な時だって、しし丸さんだってわかっているでしょうっ!」
「ワールドツアーの初日は明日なんですよ!」
「何かあったらどうするんですか!」
「熱狂的なファンが襲ってきたら?」
「熱狂的なファンが暴走して、怪我でもしたら?」
カマジリは、一人で興奮して俺を責め立てて、マネージャーの俺にしゃべり続けていた。
薄い顔の女メロンは、動物園で渡されたスマホをわざと近くに置いて、カマジリの声をスマホに聴かせていた。
こういうのは聴かせておいた方が信憑性が増すので良いと判断したのだろう。カマジリはバンドの秘密は一切知らないので、どんなに話そうとも秘密を漏らしようがない。
カマジリが俺に文句を言っている点については、俺も自分のミスを痛感していたので反論できなかった。
「今のバンドメンバーの状態からすると、アメリカ国内を変装もなしに、お忍びでどこかに行こうなんて、無理な話なんですね。」
俺はしおらしく言った。本当に実感したのだ。
「そーですよっ!」
「マネージャーがそれを分かっていないで、どうするんですかっ!」
「さと子社長もだめですよ。自らメンバーをリスクにさらしてどうするんですか。」
カマジリの責めはさと子さんにも及んだ。
「いやー。すまんかった。」
さと子さんは丁寧にカマジリに頭を下げた。
「自分としては、今後もこのようなことがあると、皆さんをお守りし切れるかわかりません!」
「そや。そや。本当や。身にしみたわー。」
さと子さんは、何を言われてもカマジリに相槌をうって、謝った。
動物園に行ったことで、例のやばいボスから盗聴器とGPS付きのスマホをメロンが渡されてしまったので、色々と面倒なことになった。
メロンの弟のミカエルは、「姉のメロンはバンドをうまく騙して、ちょっとしたボディーガードとして雇われた」とボスに報告したらしい。あながち嘘ではないので良いだろう。
ただ、一つだけはっきりしたことがある。
財産を受け継ぐ気がないと言っても、メロンとミカエルのボスは引き下がらないということがはっきりした。
スマホをカマジリの近くに置いて、カマジリに好きなだけ俺に対する文句を言わせ続けたところで、十六歳のミカナはある作戦を思いついた。
「聴いてくださいよ。メロンさん。僕はね、このバンドはね、ゆくゆくはね・・・」
そこから先は、カマジリの愚痴の相手をメロンが引き受けた。
メロンは、さと子さんに食い下がるカマジリもブロックする気らしく、一手に苦情を引き受けた。
俺の見立てだと、カマジリはメロンのことをだいぶ気に入っているように思う。
メロン相手だと、カマジリは心なしか口調が穏やかになった。いくらか怒りが静まるようだ。
というわけで、メンバーはカマジリをメロンに任せて、そっとカマジリの前から退散した。代わりに、皆でさと子さんの泊まっているスイートルームに集まった。
「大きな財産があるから、争いになるのじゃないかしら?資源と同じね。」
ミカナが急に言い出した。(カタコトの日本語だ。)
「なんや、つまり、どういうことや。」
さと子さんがミカナに聞いた。
「爆買いツアーよ。」(カタコトの日本語で、覚えたての言葉をミカナは言った。)
「1日で百万くらい、使っちゃうバラエティ番組っちゃね?」
ブー子が言った。
「そう、そう。それ!」
ミカナが言った。
「今年の夏のワールドツアー中に、ぜーんぶ使いきっちゃおう。」
ミカナが言った。(カタコトの日本語だ)
「ね、ミカナ。いくら相続したのか知っているの?」
ミケが聞いた。15歳のミケにでも、使い切れる額なら命を狙われるはずがないということぐらい分かる。
「知らなーい。」
ミカナは言った。
「メロンの弟のミカエル君の話だと、君はロシア皇帝の隠し財産を受け継いだらしいよ。莫大だという話だ。」
俺は声をひそめて、ミカナに告げた。
「それっていくら?命を狙われるほどだーかーら、使い甲斐があるんじゃないの?」
ミカナはあっけらかんと言った。(カタコトの日本語だ)
「ミカナ、ミカエルに聞いたんだけど、メロンのボスの職業は武器商人なのよ。」
ブー子が言った。
「ああ、つまり、メロンのボスを懲らしめるために、ミカナが武器を買い占めるってこと?」
トオルがいきなり怖いことを言い出した。
「そう、それそれ!私、財産を全て投じて武器を買い占めます!」
ミカナは手を叩いて嬉しそうに言った。イキイキとした表情をしている。
話がでかくなりすぎるのではないかと俺は冷や汗がでた。
「世界中の武器がなくなるとどうなる?」
ブー子が目をキラキラさせて言った。
「戦争できないんじゃない?」
ミケが言った。
「ふふっ、アンジェロのやつ、よーく見てな。私が相続したロシア皇帝の隠し財産は、平和のために振り切って使い切ってやるわ。」
ミカナは宣言するようにカタコトの日本語で言い切った。
「平和のための爆買いツアーか。じゃあ、争っている地域、貧しい地域、豊かな地域、世界中どこにでも猫や犬はいるよね。世界中にいる彼らに協力を仰ぐ?」
トオルは眼鏡をきっと掛け直して、鋭い目をしていった。素早く英語でもミカナに言った。
「うん。全世界の動物諸君に告ぐ。我らがミッチェリアルは、平和のための爆買いツアーを開催する。」
ミケが芝居がかった様子で言った。トオルは小さな声でミカナ向けに英語で訳した。
「それだ。」
ミカナは満足そうに言った。
「コンサートの動画をTikTokに上げるよね。その中に、動物にしか伝わらない言葉で秘密のメッセージを入れる?」
ブー子は腕組みをして考え込みながら言った。
「そうしよう。決まった。初日コンサートの中に仕込もう。」
さと子さんは言った。
「それにしてもな。どう金をばら撒くか、よーく考えないと。こうなったら、とことん世界の役にたつ使い方をしようや。」
さと子さんがボソボソと言った。
「どうやって使い果たすか、よーく考えないとね。キャットフードやドックフードを買ってばら撒くのだけでも、結構使うよね?」
ミケはワクワクした様子で言った。
「うん。」
俺はうなずいたが、食料は買うのはできても、配る方法を編み出すことが大変だと内心思った。
特に紛争地域への配達は困難だろう。
ここまで話したところで、スイートルームの部屋をノックして、メロンが入ってきた。やっと落ち着いたカマジリから解放されたメロンが話に合流してきたのだ。
俺たちはスマホに盗聴器が仕掛けられているのを意識して、「午後のリハを頑張ろう」などと話して、昼食をルームサービスで頼んだ。
そして、さと子さんのスイートルームで昼食を食べて、リハーサルのためにコンサート会場に向かった。
俺は心底ほっとした。昼食を食べたら、すぐにリハのためにコンサート会場に向かうことができる。
ホテルでカンカンになって待ち構えていたカマジリに、俺はこっぴどく怒られた。マネージャーが変装もなしにメンバーを連れ歩くなんて、自覚がなさすぎる!というわけだ。
「なーにやってんすかっ!」
「今大事な時だって、しし丸さんだってわかっているでしょうっ!」
「ワールドツアーの初日は明日なんですよ!」
「何かあったらどうするんですか!」
「熱狂的なファンが襲ってきたら?」
「熱狂的なファンが暴走して、怪我でもしたら?」
カマジリは、一人で興奮して俺を責め立てて、マネージャーの俺にしゃべり続けていた。
薄い顔の女メロンは、動物園で渡されたスマホをわざと近くに置いて、カマジリの声をスマホに聴かせていた。
こういうのは聴かせておいた方が信憑性が増すので良いと判断したのだろう。カマジリはバンドの秘密は一切知らないので、どんなに話そうとも秘密を漏らしようがない。
カマジリが俺に文句を言っている点については、俺も自分のミスを痛感していたので反論できなかった。
「今のバンドメンバーの状態からすると、アメリカ国内を変装もなしに、お忍びでどこかに行こうなんて、無理な話なんですね。」
俺はしおらしく言った。本当に実感したのだ。
「そーですよっ!」
「マネージャーがそれを分かっていないで、どうするんですかっ!」
「さと子社長もだめですよ。自らメンバーをリスクにさらしてどうするんですか。」
カマジリの責めはさと子さんにも及んだ。
「いやー。すまんかった。」
さと子さんは丁寧にカマジリに頭を下げた。
「自分としては、今後もこのようなことがあると、皆さんをお守りし切れるかわかりません!」
「そや。そや。本当や。身にしみたわー。」
さと子さんは、何を言われてもカマジリに相槌をうって、謝った。
動物園に行ったことで、例のやばいボスから盗聴器とGPS付きのスマホをメロンが渡されてしまったので、色々と面倒なことになった。
メロンの弟のミカエルは、「姉のメロンはバンドをうまく騙して、ちょっとしたボディーガードとして雇われた」とボスに報告したらしい。あながち嘘ではないので良いだろう。
ただ、一つだけはっきりしたことがある。
財産を受け継ぐ気がないと言っても、メロンとミカエルのボスは引き下がらないということがはっきりした。
スマホをカマジリの近くに置いて、カマジリに好きなだけ俺に対する文句を言わせ続けたところで、十六歳のミカナはある作戦を思いついた。
「聴いてくださいよ。メロンさん。僕はね、このバンドはね、ゆくゆくはね・・・」
そこから先は、カマジリの愚痴の相手をメロンが引き受けた。
メロンは、さと子さんに食い下がるカマジリもブロックする気らしく、一手に苦情を引き受けた。
俺の見立てだと、カマジリはメロンのことをだいぶ気に入っているように思う。
メロン相手だと、カマジリは心なしか口調が穏やかになった。いくらか怒りが静まるようだ。
というわけで、メンバーはカマジリをメロンに任せて、そっとカマジリの前から退散した。代わりに、皆でさと子さんの泊まっているスイートルームに集まった。
「大きな財産があるから、争いになるのじゃないかしら?資源と同じね。」
ミカナが急に言い出した。(カタコトの日本語だ。)
「なんや、つまり、どういうことや。」
さと子さんがミカナに聞いた。
「爆買いツアーよ。」(カタコトの日本語で、覚えたての言葉をミカナは言った。)
「1日で百万くらい、使っちゃうバラエティ番組っちゃね?」
ブー子が言った。
「そう、そう。それ!」
ミカナが言った。
「今年の夏のワールドツアー中に、ぜーんぶ使いきっちゃおう。」
ミカナが言った。(カタコトの日本語だ)
「ね、ミカナ。いくら相続したのか知っているの?」
ミケが聞いた。15歳のミケにでも、使い切れる額なら命を狙われるはずがないということぐらい分かる。
「知らなーい。」
ミカナは言った。
「メロンの弟のミカエル君の話だと、君はロシア皇帝の隠し財産を受け継いだらしいよ。莫大だという話だ。」
俺は声をひそめて、ミカナに告げた。
「それっていくら?命を狙われるほどだーかーら、使い甲斐があるんじゃないの?」
ミカナはあっけらかんと言った。(カタコトの日本語だ)
「ミカナ、ミカエルに聞いたんだけど、メロンのボスの職業は武器商人なのよ。」
ブー子が言った。
「ああ、つまり、メロンのボスを懲らしめるために、ミカナが武器を買い占めるってこと?」
トオルがいきなり怖いことを言い出した。
「そう、それそれ!私、財産を全て投じて武器を買い占めます!」
ミカナは手を叩いて嬉しそうに言った。イキイキとした表情をしている。
話がでかくなりすぎるのではないかと俺は冷や汗がでた。
「世界中の武器がなくなるとどうなる?」
ブー子が目をキラキラさせて言った。
「戦争できないんじゃない?」
ミケが言った。
「ふふっ、アンジェロのやつ、よーく見てな。私が相続したロシア皇帝の隠し財産は、平和のために振り切って使い切ってやるわ。」
ミカナは宣言するようにカタコトの日本語で言い切った。
「平和のための爆買いツアーか。じゃあ、争っている地域、貧しい地域、豊かな地域、世界中どこにでも猫や犬はいるよね。世界中にいる彼らに協力を仰ぐ?」
トオルは眼鏡をきっと掛け直して、鋭い目をしていった。素早く英語でもミカナに言った。
「うん。全世界の動物諸君に告ぐ。我らがミッチェリアルは、平和のための爆買いツアーを開催する。」
ミケが芝居がかった様子で言った。トオルは小さな声でミカナ向けに英語で訳した。
「それだ。」
ミカナは満足そうに言った。
「コンサートの動画をTikTokに上げるよね。その中に、動物にしか伝わらない言葉で秘密のメッセージを入れる?」
ブー子は腕組みをして考え込みながら言った。
「そうしよう。決まった。初日コンサートの中に仕込もう。」
さと子さんは言った。
「それにしてもな。どう金をばら撒くか、よーく考えないと。こうなったら、とことん世界の役にたつ使い方をしようや。」
さと子さんがボソボソと言った。
「どうやって使い果たすか、よーく考えないとね。キャットフードやドックフードを買ってばら撒くのだけでも、結構使うよね?」
ミケはワクワクした様子で言った。
「うん。」
俺はうなずいたが、食料は買うのはできても、配る方法を編み出すことが大変だと内心思った。
特に紛争地域への配達は困難だろう。
ここまで話したところで、スイートルームの部屋をノックして、メロンが入ってきた。やっと落ち着いたカマジリから解放されたメロンが話に合流してきたのだ。
俺たちはスマホに盗聴器が仕掛けられているのを意識して、「午後のリハを頑張ろう」などと話して、昼食をルームサービスで頼んだ。
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