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襲撃(始まる前に、襲われた)
19_ホテルで同室で(メロン)
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報告書:
ミカナは遺産に興味なし。相続を放棄する可能性高し。
バンドの世界的成功は目前であり、ミカナは自力で財を築けるところまで到達しようとしている。
したがって、ミカナは遺産に興味なし。
わたしは短いレポートをボスに送った。
「オーケー。送っていいよ。」
ミカナもしし丸もこの報告書にGOサインを出した。
わたしは雇い主のボスを裏切ってはいないし、ミカナをまだ監視している、ということを明確に伝えるためだ。
状況的にはわたしがバンドメンバーに監視されているのだが、わたしが裏切ったとあれば弟にも危害が及ぶ。当然、ボスを裏切ったわたしは太平洋に死体で浮かぶ羽目になるだろう。
おお、コワ・・・
考えただけで、身震いしてしまう。
取るべき道は一つ。どっちにも良い方向に向かって、状況をコントロールするのだ。
弟の話によると、祖父と祖母が残したホテルが廃墟となり、崩壊の危機にあるという。
取り壊し費用の請求額を見たが、とてもじゃないが、貯金全部叩いても間に合わない額だった。こんなことになるなら、早くに相続放棄しておくのだった。
崩壊寸前まで行くと、それが出来ないらしい。となると解体費用を捻出しなければならない。貯金ゼロになるまでつぎ込んで、プラスして次のボーナスを全てをつぎ込んでも、マイナスにしかならない額だ。
弟はこの解体費用の請求額を見て、大学を休学して荒稼ぎしようと思ったらしい。
それでわたしの後を追って、危ないボスのところに就職したのだという。ただし、ボスは、わたしたち姉弟が考える以上のワルだったのだが。
弟とわたしは、文字通り、飛んで火に入る夏の虫状態だ。
わたしは頭を抱えた。
もとより、ガールズバンド「ミッチェリアル」の秘密は墓まで持っていくつもりだ。秘密を売って金にするとは言語道断だ。当然ながら、わたしは借金でマイナスになることを選んだ。
この祖父祖母の経営していたホテルの解体費用の話はみんなには内緒だった。
余計な心配ごとはいろいろ話さないことに尽きる。
それに、知り合ったばかりの、そもそも完全に信用を勝ち取っていない相手に、こんな話をするべきではない。
わたしは雇い主のボスから引き続き給料をもらい続ける。そこは騙してごめん。
ただ、報告書に偽りはないので、ボスに対する良心の呵責はなかった。
さらに、ボディガード費用をさと子さんが出してくれることになった。少しだが。
ただ、わたしにとってはバンドと一緒に移動する費用もさと子さんが出すし、ホテルの寝食もさと子さんに保証されたも同然だったので、生活費を切り詰めて少しでもお金を貯めたい身にとっては、死ぬほどありがたかった。
ホテルはブー子と同室になった。
ホテルの特上の部屋に案内されて、二人きりになると、ブー子は言った。
「さっきはありがとね。」
「少しは信用することにしたっちゃ。言葉はやまん言葉でよか?」
ブー子は綺麗な顔をふんわり笑顔にして、わたしに話しかけてくれた。
キツネさま・・・
わたしは膝から崩れ落ちそうなほどの幸せを感じて、ただうなずいた。
「あんたん前では、きばらんでよかっちゃね。」
そう言って、アイドルアイドルした幻想的な美しさのブー子は、フッとキツネの姿に戻った。そのままふかふかのベッドにきつねはダイブして、飛び跳ねた。
「明日の朝は、布団に着いた毛をとらなきゃなあ。」
それだけ言うと、ブー子はきつね姿のまま、くうくうと静かな寝息を立てて寝入った。
おお。
おお。
尊いお姿・・・
わたしはブー子が思ったより心を許してくれたことに、感激して、そのままふかふかの絨毯に座り込んだ。
借金のことも、怖いボスのことも、失敗したら太平洋に浮かぶ死体になってしまう恐怖のことも、心配な弟のことも、全てを忘れて、幸せな感情が全身に満ちることに感謝した。
ミカナは遺産に興味なし。相続を放棄する可能性高し。
バンドの世界的成功は目前であり、ミカナは自力で財を築けるところまで到達しようとしている。
したがって、ミカナは遺産に興味なし。
わたしは短いレポートをボスに送った。
「オーケー。送っていいよ。」
ミカナもしし丸もこの報告書にGOサインを出した。
わたしは雇い主のボスを裏切ってはいないし、ミカナをまだ監視している、ということを明確に伝えるためだ。
状況的にはわたしがバンドメンバーに監視されているのだが、わたしが裏切ったとあれば弟にも危害が及ぶ。当然、ボスを裏切ったわたしは太平洋に死体で浮かぶ羽目になるだろう。
おお、コワ・・・
考えただけで、身震いしてしまう。
取るべき道は一つ。どっちにも良い方向に向かって、状況をコントロールするのだ。
弟の話によると、祖父と祖母が残したホテルが廃墟となり、崩壊の危機にあるという。
取り壊し費用の請求額を見たが、とてもじゃないが、貯金全部叩いても間に合わない額だった。こんなことになるなら、早くに相続放棄しておくのだった。
崩壊寸前まで行くと、それが出来ないらしい。となると解体費用を捻出しなければならない。貯金ゼロになるまでつぎ込んで、プラスして次のボーナスを全てをつぎ込んでも、マイナスにしかならない額だ。
弟はこの解体費用の請求額を見て、大学を休学して荒稼ぎしようと思ったらしい。
それでわたしの後を追って、危ないボスのところに就職したのだという。ただし、ボスは、わたしたち姉弟が考える以上のワルだったのだが。
弟とわたしは、文字通り、飛んで火に入る夏の虫状態だ。
わたしは頭を抱えた。
もとより、ガールズバンド「ミッチェリアル」の秘密は墓まで持っていくつもりだ。秘密を売って金にするとは言語道断だ。当然ながら、わたしは借金でマイナスになることを選んだ。
この祖父祖母の経営していたホテルの解体費用の話はみんなには内緒だった。
余計な心配ごとはいろいろ話さないことに尽きる。
それに、知り合ったばかりの、そもそも完全に信用を勝ち取っていない相手に、こんな話をするべきではない。
わたしは雇い主のボスから引き続き給料をもらい続ける。そこは騙してごめん。
ただ、報告書に偽りはないので、ボスに対する良心の呵責はなかった。
さらに、ボディガード費用をさと子さんが出してくれることになった。少しだが。
ただ、わたしにとってはバンドと一緒に移動する費用もさと子さんが出すし、ホテルの寝食もさと子さんに保証されたも同然だったので、生活費を切り詰めて少しでもお金を貯めたい身にとっては、死ぬほどありがたかった。
ホテルはブー子と同室になった。
ホテルの特上の部屋に案内されて、二人きりになると、ブー子は言った。
「さっきはありがとね。」
「少しは信用することにしたっちゃ。言葉はやまん言葉でよか?」
ブー子は綺麗な顔をふんわり笑顔にして、わたしに話しかけてくれた。
キツネさま・・・
わたしは膝から崩れ落ちそうなほどの幸せを感じて、ただうなずいた。
「あんたん前では、きばらんでよかっちゃね。」
そう言って、アイドルアイドルした幻想的な美しさのブー子は、フッとキツネの姿に戻った。そのままふかふかのベッドにきつねはダイブして、飛び跳ねた。
「明日の朝は、布団に着いた毛をとらなきゃなあ。」
それだけ言うと、ブー子はきつね姿のまま、くうくうと静かな寝息を立てて寝入った。
おお。
おお。
尊いお姿・・・
わたしはブー子が思ったより心を許してくれたことに、感激して、そのままふかふかの絨毯に座り込んだ。
借金のことも、怖いボスのことも、失敗したら太平洋に浮かぶ死体になってしまう恐怖のことも、心配な弟のことも、全てを忘れて、幸せな感情が全身に満ちることに感謝した。
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