ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏

文字の大きさ
上 下
19 / 59
襲撃(始まる前に、襲われた)

19_ホテルで同室で(メロン)

しおりを挟む
報告書:

 ミカナは遺産に興味なし。相続を放棄する可能性高し。
 バンドの世界的成功は目前であり、ミカナは自力で財を築けるところまで到達しようとしている。
 したがって、ミカナは遺産に興味なし。

 
 
 わたしは短いレポートをボスに送った。
 
「オーケー。送っていいよ。」
 ミカナもしし丸もこの報告書にGOサインを出した。

 わたしは雇い主のボスを裏切ってはいないし、ミカナをまだ監視している、ということを明確に伝えるためだ。

 状況的にはわたしがバンドメンバーに監視されているのだが、わたしが裏切ったとあれば弟にも危害が及ぶ。当然、ボスを裏切ったわたしは太平洋に死体で浮かぶ羽目になるだろう。

 おお、コワ・・・
 考えただけで、身震いしてしまう。

 取るべき道は一つ。どっちにも良い方向に向かって、状況をコントロールするのだ。

 弟の話によると、祖父と祖母が残したホテルが廃墟となり、崩壊の危機にあるという。

 取り壊し費用の請求額を見たが、とてもじゃないが、貯金全部叩いても間に合わない額だった。こんなことになるなら、早くに相続放棄しておくのだった。

 崩壊寸前まで行くと、それが出来ないらしい。となると解体費用を捻出しなければならない。貯金ゼロになるまでつぎ込んで、プラスして次のボーナスを全てをつぎ込んでも、マイナスにしかならない額だ。

 弟はこの解体費用の請求額を見て、大学を休学して荒稼ぎしようと思ったらしい。

 それでわたしの後を追って、危ないボスのところに就職したのだという。ただし、ボスは、わたしたち姉弟が考える以上のワルだったのだが。

 弟とわたしは、文字通り、飛んで火に入る夏の虫状態だ。

 わたしは頭を抱えた。

 もとより、ガールズバンド「ミッチェリアル」の秘密は墓まで持っていくつもりだ。秘密を売って金にするとは言語道断だ。当然ながら、わたしは借金でマイナスになることを選んだ。

 この祖父祖母の経営していたホテルの解体費用の話はみんなには内緒だった。

 余計な心配ごとはいろいろ話さないことに尽きる。

 それに、知り合ったばかりの、そもそも完全に信用を勝ち取っていない相手に、こんな話をするべきではない。

 わたしは雇い主のボスから引き続き給料をもらい続ける。そこは騙してごめん。
 ただ、報告書に偽りはないので、ボスに対する良心の呵責はなかった。

 さらに、ボディガード費用をさと子さんが出してくれることになった。少しだが。
 
 ただ、わたしにとってはバンドと一緒に移動する費用もさと子さんが出すし、ホテルの寝食もさと子さんに保証されたも同然だったので、生活費を切り詰めて少しでもお金を貯めたい身にとっては、死ぬほどありがたかった。

 ホテルはブー子と同室になった。

 ホテルの特上の部屋に案内されて、二人きりになると、ブー子は言った。

「さっきはありがとね。」
「少しは信用することにしたっちゃ。言葉はやまん言葉でよか?」

 ブー子は綺麗な顔をふんわり笑顔にして、わたしに話しかけてくれた。

 キツネさま・・・

 わたしは膝から崩れ落ちそうなほどの幸せを感じて、ただうなずいた。

「あんたん前では、きばらんでよかっちゃね。」

 そう言って、アイドルアイドルした幻想的な美しさのブー子は、フッとキツネの姿に戻った。そのままふかふかのベッドにきつねはダイブして、飛び跳ねた。

「明日の朝は、布団に着いた毛をとらなきゃなあ。」

 それだけ言うと、ブー子はきつね姿のまま、くうくうと静かな寝息を立てて寝入った。

 おお。
 おお。
 尊いお姿・・・

 わたしはブー子が思ったより心を許してくれたことに、感激して、そのままふかふかの絨毯に座り込んだ。


 借金のことも、怖いボスのことも、失敗したら太平洋に浮かぶ死体になってしまう恐怖のことも、心配な弟のことも、全てを忘れて、幸せな感情が全身に満ちることに感謝した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

続・歴史改変戦記「北のまほろば」

高木一優
SF
この物語は『歴史改変戦記「信長、中国を攻めるってよ」』の続編になります。正編のあらすじは序章で説明されますので、続編から読み始めても問題ありません。 タイム・マシンが実用化された近未来、歴史学者である私の論文が中国政府に採用され歴史改変実験「碧海作戦」が発動される。私の秘書官・戸部典子は歴女の知識を活用して戦国武将たちを支援する。歴史改変により織田信長は中国本土に攻め入り中華帝国を築き上げたのだが、日本国は帝国に飲み込まれて消滅してしまった。信長の中華帝国は殷賑を極め、世界の富を集める経済大国へと成長する。やがて西欧の勢力が帝国を襲い、私と戸部典子は真田信繁と伊達政宗を助けて西欧艦隊の攻撃を退け、ローマ教皇の領土的野心を砕く。平和が訪れたのもつかの間、十七世紀の帝国の北方では再び戦乱が巻き起ころうとしていた。歴史を思考実験するポリティカル歴史改変コメディー。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...