ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏

文字の大きさ
上 下
15 / 59
襲撃(始まる前に、襲われた)

15_女忍びメロンの心の中

しおりを挟む
 ひどい気分だった。
 彼らが襲われるのを見るのは、耐えられなかった。

 ミカナの前に暴漢が現れる前までは、わたしは最高の気分にひたっていた。ファーストクラスに生まれて初めて乗り、わたしは文字通り完全に舞い上がっていた。

 隣にさとこタヌキが寝ている。毛布の下では完全にタヌキの姿であろう。

 その隣にトオルが座っていて、クジャクのようなオーラを放ち、静かに寝入っていた。

 そして、その隣には、ミケ猫が眠っているはずだ。わたしは彼らの呼吸音が聞こえるような気がして(タヌキの呼吸音は聞こえた)、幸せの絶頂にいた。

 それが、突然、ミカナの所にガタイの良い男たちが現れた。16歳の彼女を脅し始めた。

 わたしが薄い顔だからか、彼らはわたしが誰だか分からないようだった。
 奴らは、動物の尊さなんて踏み躙るはずだ。人であるミカナの存在も踏み躙るのだから。

 わたしの中で、ゆっくりと何かがもたげた。それはむかつき以上の、わたしも今まで存在を知り得なかった、わたしの中の凶暴さかもしれない。

 わたしは初めて人を殺めようと思ってしまった。

 わたしが自分の中の感覚に戸惑っているうちに、目を覚ましたトオルが天使のような雰囲気のまま、ツカツカと歩いてきて素早くガタイの良い男たちの間に体を入れようとした。

 わたしは何が起きるのか瞬時に予想ができた。

 わたしのクジャクさまが汚される!

 わたしはとっさに奴らに飛びかかる衝動を抑え込み、トオルに被害がでないように頸動脈チョップで奴らを仕留めた。

 トオルはそのお姿だけで、わたしの中の凶暴さを奥深くに沈めてくれた。

 伊賀の血なのかなんなのか、わたしの中のそいつは、クジャクさまのおかげで心の中から見事に消え去ってくれた。
 
 わたしはボディーガードとして、正当な行動を行えた自分にホッとしていた。変な動物オタクが殺人鬼になるのは、自分としても絶対に嫌なことだ。

 わたしの顔は真っ赤だったかもしれない。
 わたしの天使は、わたしの中の何か悪しき感情まで浄化してくれた。

 ただ、トオルは長い髪をふわっと揺らして、わたしの顔を見つめて後ずさった。美しいお顔が少しとまどいを感じているように見える。

 トオルのこの反応はなんだろう?

 そう思っていたら、声をかけられた。

「やあ、姉ちゃん。久しぶり。」
 わたしは懐かしい声にギョッとして振り向いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

エリア51戦線~リカバリー~

島田つき
キャラ文芸
今時のギャル(?)佐藤と、奇妙な特撮オタク鈴木。彼らの日常に迫る異変。本当にあった都市伝説――被害にあう友達――その正体は。 漫画で投稿している「エリア51戦線」の小説版です。 自サイトのものを改稿し、漫画準拠の設定にしてあります。 漫画でまだ投稿していない部分のストーリーが出てくるので、ネタバレ注意です。 また、微妙に漫画版とは流れや台詞が違ったり、心理が掘り下げられていたりするので、これはこれで楽しめる内容となっているかと思います。

薔薇と少年

白亜凛
キャラ文芸
 路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。  夕べ、店の近くで男が刺されたという。  警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。  常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。  ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。  アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。  事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

致死量の愛と泡沫に+

藤香いつき
キャラ文芸
近未来の終末世界。 世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。 記憶のない“あなた”は彼らに拾われ、共に暮らしていたが——外の世界に攫われたり、囚われたりしながらも、再び城で平穏な日々を取り戻したところ。 泡沫(うたかた)の物語を終えたあとの、日常のお話を中心に。 ※致死量シリーズ 【致死量の愛と泡沫に】その後のエピソード。 表紙はJohn William Waterhous【The Siren】より。

忍チューバー 竹島奪還!!……する気はなかったんです~

ma-no
キャラ文芸
 某有名動画サイトで100億ビューを達成した忍チューバーこと田中半荘が漂流生活の末、行き着いた島は日本の島ではあるが、韓国が実効支配している「竹島」。  日本人がそんな島に漂着したからには騒動勃発。両国の軍隊、政治家を……いや、世界中のファンを巻き込んだ騒動となるのだ。  どうする忍チューバ―? 生きて日本に帰れるのか!? 注 この物語は、コメディーでフィクションでファンタジーです。登場する人物、団体、名称、歴史等は架空であり、実在のものとは関係ありません。  ですので、歴史認識に関する質問、意見等には一切お答えしませんのであしからず。 ❓第3回キャラ文芸大賞にエントリーしました❓ よろしければ一票を入れてください! よろしくお願いします。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

処理中です...