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襲撃(始まる前に、襲われた)
10_メロンという名の女忍び
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トオルは「くノ一」に、もしも自分が男であることがバレていたらと思うと、目の前が暗くなるような絶望を感じた。
「くノ一」の様子を何気ない様子で辛抱強く見守る。
薄い顔立ちをした彼女の名前は、メロンといった。メロンで「くノ一」だなんて偽名に違いない。本名を探ってやると思った人、この指止まれだ。
ツインテールをしたミケが無邪気に「くノ一」に攻撃の型の話を繰りひろげている間に、ミケ以外のメンバーはこっそり屋敷裏の納屋に集合した。
納屋に集まった理由は、出発の準備のための荷物確認とした。
荷物なんてとっくにまとまっている。ミカナのドラムは現地で準備されているし、キーボードはさとこさんの豪邸にある。トオルのチェロもミケのギターも持ち歩いているのだから、特別な準備なんて必要なかった。
「メロンが偽名だと思う人。」(トオルは英語でも言い直した)
素早くトオルが言って指を差し出すと、その場にいた全員がトオルの人差し指を次から次につかんだ。タヌキのさとこさん、イノシシのしし丸、キツネのブー子、ミカナだ。
これは素早く意思確認をする時に、メンバー内でやる方法だ。
「スパイで間違いない。そう私は思う。」
カタコトの日本語で、ミカナがポニーテールにした髪の毛の先っぽを揺らしながら言った。
ふんっ!と鼻すらならした。
内心快く思っていないのがダダ漏れだ。
トオルは、色素が少し薄いミカナの髪の毛が自分の鼻先をかすめたので、思わずあとずさった。ミカナはぶっきらぼうで血の気が多いところがあり、少々心配だ。
「まあ、うちのネットワークで調べてみるけど、しっかしドイツの仕事を請け負う『くノ一』じゃろ。マフィアのネットワークではヒットせん気がするなあ。」
サングラスをかけて綺麗なグレーヘアをなで付けて、すっかりマフィアのボス然としたさとこさんは腕組みをして言った。
「皆、用心するということでいいですね。」
しし丸が、一同を見渡して言った。トオルは小声でずっとミカナに通訳していた。でも、大体今の話はミカナにも理解できていたようだ。
一同はメロンに用心することで、気持ちを改めて、縁側に戻った。縁側でミケが「くの一」のメロンに攻撃型を実演していたのだ。
「スイカでも食べましょう。」
「くノ一」のメロンは、戻ってきた一同をみると、朝、冷蔵庫で見かけたらしいスイカをいそいそと切ってくれて、皆に出してくれた。
まるで自分が買ってきたような勢いだが、買ってきたのはしし丸だ。
メロンはおあずけ状態のペットのように、皆が食べるのを眺めていた。
見かねて、トオルは思わず言ってしまった。
「メロンさんも、食べたらどうですか?」
そう言われた「くノ一」メロンは、さっと顔を赤らめて、おずおずと言った。
「私も良いのでしょうか。」
「良いに決まっとるがな。あんたは奴隷ちゃうでえ。」
さとこさんが、スイカの種をぷっと口から縁側から庭に飛ばしながら言った。
「ありがとうございます!」
「くノ一」メロンはそう言うと、自分の分のスイカを小さく切り取ってお皿に乗せて、上品に食べ始めた。
調子狂うなあと内心メンバー全員が思っていたが、敵かもしれない人には味方のフリをしておくのが一番だ。
スマホも取り上げたし、盗聴器も持っていないようだし、身一つで転がり込んできたのは間違いなさそうだった。
スイカを食べ終わると、無言で皆が自分のことを伺っているのに気づいたらしいメロンは、小さな声で言った。
「うるさいパパラッチから、あなたたちを守ります。」(ドイツ語でも繰り返した)
え?と言った様子で、トオルもミカナもさとこさんも、しし丸もブー子もまじまじと「くノ一」メロンを見つめた。
薄い顔を赤らめて、彼女は続けた。
「昨晩、あなたたちが練習しているのをのぞいて、ファンになったのです。」
いやいや、いやいや。騙されちゃいけない。
トオルは内心、心の中で首を振った。
「ドイツ本国の、ミカナさんを狙う金の亡者たちからも、ミカナさんのご両親からも、ミカナさんをお守りします。」(ドイツ語でも言った。)
ミカナが、まあるい目をしばたかせて、「くノ一」メロンを見つめた。
信じで良いのかどうかわからないと言った表情だろう。
「ライバルレコード会社からの妨害からも、バンドをお守りします。」(ドイツ語でも言った。)
組の抗争でもあるまいし、そんな今時「妨害」とかがあるのかな。
トオルは内心思った。
さとこ社長の顔をチラッと皆が見た。
そんな話聞いたことないぞ。
しし丸はそう思っているように見えた。
少なくともさとこ社長は、マフィアのボス感全開で、サングラスの奥の目が全く読み取れない。
というか、「サングラスかけて、縁側でスイカ食べてスイカの種を飛ばす人」を初めて見ました、と全員が思った。
いや、このバンドは敵が多くないか?
トオルとミカナは内心思った。
そうなのか?敵が多い状況なのか。このガールズバンドは!?
いやいや。いや?
「くノ一」メロン自身が絶対的な敵ではないのか。メンバー全員がそう思った。十五歳のミケですら、そう疑った。
「くノ一」の様子を何気ない様子で辛抱強く見守る。
薄い顔立ちをした彼女の名前は、メロンといった。メロンで「くノ一」だなんて偽名に違いない。本名を探ってやると思った人、この指止まれだ。
ツインテールをしたミケが無邪気に「くノ一」に攻撃の型の話を繰りひろげている間に、ミケ以外のメンバーはこっそり屋敷裏の納屋に集合した。
納屋に集まった理由は、出発の準備のための荷物確認とした。
荷物なんてとっくにまとまっている。ミカナのドラムは現地で準備されているし、キーボードはさとこさんの豪邸にある。トオルのチェロもミケのギターも持ち歩いているのだから、特別な準備なんて必要なかった。
「メロンが偽名だと思う人。」(トオルは英語でも言い直した)
素早くトオルが言って指を差し出すと、その場にいた全員がトオルの人差し指を次から次につかんだ。タヌキのさとこさん、イノシシのしし丸、キツネのブー子、ミカナだ。
これは素早く意思確認をする時に、メンバー内でやる方法だ。
「スパイで間違いない。そう私は思う。」
カタコトの日本語で、ミカナがポニーテールにした髪の毛の先っぽを揺らしながら言った。
ふんっ!と鼻すらならした。
内心快く思っていないのがダダ漏れだ。
トオルは、色素が少し薄いミカナの髪の毛が自分の鼻先をかすめたので、思わずあとずさった。ミカナはぶっきらぼうで血の気が多いところがあり、少々心配だ。
「まあ、うちのネットワークで調べてみるけど、しっかしドイツの仕事を請け負う『くノ一』じゃろ。マフィアのネットワークではヒットせん気がするなあ。」
サングラスをかけて綺麗なグレーヘアをなで付けて、すっかりマフィアのボス然としたさとこさんは腕組みをして言った。
「皆、用心するということでいいですね。」
しし丸が、一同を見渡して言った。トオルは小声でずっとミカナに通訳していた。でも、大体今の話はミカナにも理解できていたようだ。
一同はメロンに用心することで、気持ちを改めて、縁側に戻った。縁側でミケが「くの一」のメロンに攻撃型を実演していたのだ。
「スイカでも食べましょう。」
「くノ一」のメロンは、戻ってきた一同をみると、朝、冷蔵庫で見かけたらしいスイカをいそいそと切ってくれて、皆に出してくれた。
まるで自分が買ってきたような勢いだが、買ってきたのはしし丸だ。
メロンはおあずけ状態のペットのように、皆が食べるのを眺めていた。
見かねて、トオルは思わず言ってしまった。
「メロンさんも、食べたらどうですか?」
そう言われた「くノ一」メロンは、さっと顔を赤らめて、おずおずと言った。
「私も良いのでしょうか。」
「良いに決まっとるがな。あんたは奴隷ちゃうでえ。」
さとこさんが、スイカの種をぷっと口から縁側から庭に飛ばしながら言った。
「ありがとうございます!」
「くノ一」メロンはそう言うと、自分の分のスイカを小さく切り取ってお皿に乗せて、上品に食べ始めた。
調子狂うなあと内心メンバー全員が思っていたが、敵かもしれない人には味方のフリをしておくのが一番だ。
スマホも取り上げたし、盗聴器も持っていないようだし、身一つで転がり込んできたのは間違いなさそうだった。
スイカを食べ終わると、無言で皆が自分のことを伺っているのに気づいたらしいメロンは、小さな声で言った。
「うるさいパパラッチから、あなたたちを守ります。」(ドイツ語でも繰り返した)
え?と言った様子で、トオルもミカナもさとこさんも、しし丸もブー子もまじまじと「くノ一」メロンを見つめた。
薄い顔を赤らめて、彼女は続けた。
「昨晩、あなたたちが練習しているのをのぞいて、ファンになったのです。」
いやいや、いやいや。騙されちゃいけない。
トオルは内心、心の中で首を振った。
「ドイツ本国の、ミカナさんを狙う金の亡者たちからも、ミカナさんのご両親からも、ミカナさんをお守りします。」(ドイツ語でも言った。)
ミカナが、まあるい目をしばたかせて、「くノ一」メロンを見つめた。
信じで良いのかどうかわからないと言った表情だろう。
「ライバルレコード会社からの妨害からも、バンドをお守りします。」(ドイツ語でも言った。)
組の抗争でもあるまいし、そんな今時「妨害」とかがあるのかな。
トオルは内心思った。
さとこ社長の顔をチラッと皆が見た。
そんな話聞いたことないぞ。
しし丸はそう思っているように見えた。
少なくともさとこ社長は、マフィアのボス感全開で、サングラスの奥の目が全く読み取れない。
というか、「サングラスかけて、縁側でスイカ食べてスイカの種を飛ばす人」を初めて見ました、と全員が思った。
いや、このバンドは敵が多くないか?
トオルとミカナは内心思った。
そうなのか?敵が多い状況なのか。このガールズバンドは!?
いやいや。いや?
「くノ一」メロン自身が絶対的な敵ではないのか。メンバー全員がそう思った。十五歳のミケですら、そう疑った。
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