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襲撃(始まる前に、襲われた)
08_襲撃か
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トオルはうっすらと目を開けた。目の前に白い蚊帳が見える。
蝉の声がして、気持ちの良い朝で、ここは山の屋敷だとすぐにわかる。もぞもぞと足を動かして、両手をあげてのびをゆっくりとした。
昨日の練習はうまくは行った。明日にはアメリカに向かって出発だなとぼんやり思っていると異変があった。
ブー子としし丸とミケの声がしているところに突然、悲鳴が聞こえて飛び起きたのだ。
「ぎゃあ、あんた誰よ!」
トオルはとっさに自分が男だということがバレたのかと思って、本能的に胸を隠した。身バレか!?
いや、蚊帳の中にも蚊帳の外にも、寝ていた部屋にはトオル以外に誰もいない。
トオルはすぐさま蚊帳を飛び出し、ふすまを開けて廊下を走った。囲炉裏がある方向で叫び声がしたような気がしてそちらに走った。
息を切らして囲炉裏がある部屋に飛び込むと、キツネ、たぬき、いのしし、猫、パジャマ姿のミカナがいた。
いや、もう一人誰かいる!
「お前、誰だ!」
トオルは思わず叫んだ。
「秘密がバレたくなかったら、大人しくしなよ。」
そいつはトオルと、キツネ、たぬき、いのしい、猫、ミカナをゆっくりとネメつけるように見て言った。
刀を背中にさして持っている。
「昨日の『くノ一』!」
猫のミケが悔しそうに言った。
「そうよ。」
女忍びは、ふふっと笑った。
「昨晩から天井に忍び込んでいたのよ。」
女忍びは、薄い顔つきをしていた。横に鍋の蓋を持って構えて立っているパジャマ姿のミカナがハーフだから、対比で顔つきが薄く見えるのかもしれない。でも、とにかく薄い顔つきで、薄い唇に赤口紅を塗っていて、どこかしら妙な迫力があった。
「そしたら、あなたたち、とんでもない秘密を抱えているじゃない。」
女忍びは、トオルの顔を見て言った。
トオルは自分が男子だという秘密がバレたのかと一瞬冷や汗が噴き出た。でも、いやあ、バレるはずがないと思い直した。風呂の天井にでも忍び込んでいない限り、絶対にバレないはずだ。
「バレちゃあ、仕方ないな。」
さとこさんが、すぐさまタヌキから人の姿に戻った。
「ひえっ!」
女忍びは、薄い顔に明らに恐怖を感じたようで後ずさった。
「何じゃね。あんたにバレたんとはこの秘密じゃなかと?」
さとこさんは、ドスをきかせて言った。
「いえ、その秘密です。ですが、しかし、その、目の前で見るとさすがに驚きのあまりに、その、あの・・・」
女忍びはさっきまでの迫力が消えて、しどろもどろになった。
「これ『くノ一』!」
「われ、何がしたいんじゃ!」
最年少の猫のミケが、猫パンチを女忍びにお見舞いした。
「まあ、まあ、まあ、落ち着いて。」
トオルはひとまず自分が男子だという秘密の方はバレなかったと踏んで、場をおさめようと思った。
このまま、猫の戦いとイノシシが本気で「くノ一」と戦うのを見るのは避けたい。
何より、この「くノ一」は、そんなに悪い奴には見えなかった。タヌキからさとこさんが変わるのを見てたじろぐほどなら、何とか味方につけられるかもしれない。
「痛いって!」
しかし、猫パンチに「くノ一」は少々カッとしたらしく、思わず膝をグッと立てて身を低くかがめた。
危ない、危ない。戦闘態勢に入った。
ミカナがすかさず鍋のフタで、ミケの前をふさいだ。
「ミケ!やめな!」(カタコトの日本語だ)
「そこの女忍び、脅すつもりか?おヌシ、本国の私の一族にわたしたちの秘密をばらす気か?」(ドイツ語だ)
「それとも、世界に私たちの秘密をバラす気か?」(気を取り直したのか、英語だ)
ミカナはパジャマ姿で鍋のフタを構えたまま、ミケをたしなめるように一喝し、すごい剣幕でドイツ語で言った後、英語でつめよった。
トオルが聞き取ったドイツ語なので、多少は違うかもしれない。スラングが入りまくってよくわからなかったが、ミカナが激怒しているのはよくわかった。
取っ組み合いのバトルが始まった。ミケが猫からツイーテールをしたパジャマ姿になったところで、バトル開始のゴングがなった。
女忍びは壁を蹴ってミケに踊りかかり、ミケも忍びの髪を引きずって投げ飛ばした。どっちが強いのかわからない。床に組みふしたかと思うと、いきなり飛び上がって相手にキックしたり、もうめちゃくちゃだ。
最後はつかみ合って囲炉裏のそばの板の間をゴロゴロすごい勢いで転がった。
「危ないっ!」
しし丸はいのしし姿のまま、二人が囲炉裏に落ちないように押し戻していた。
「やめってっ!」
蝉の声がして、気持ちの良い朝で、ここは山の屋敷だとすぐにわかる。もぞもぞと足を動かして、両手をあげてのびをゆっくりとした。
昨日の練習はうまくは行った。明日にはアメリカに向かって出発だなとぼんやり思っていると異変があった。
ブー子としし丸とミケの声がしているところに突然、悲鳴が聞こえて飛び起きたのだ。
「ぎゃあ、あんた誰よ!」
トオルはとっさに自分が男だということがバレたのかと思って、本能的に胸を隠した。身バレか!?
いや、蚊帳の中にも蚊帳の外にも、寝ていた部屋にはトオル以外に誰もいない。
トオルはすぐさま蚊帳を飛び出し、ふすまを開けて廊下を走った。囲炉裏がある方向で叫び声がしたような気がしてそちらに走った。
息を切らして囲炉裏がある部屋に飛び込むと、キツネ、たぬき、いのしし、猫、パジャマ姿のミカナがいた。
いや、もう一人誰かいる!
「お前、誰だ!」
トオルは思わず叫んだ。
「秘密がバレたくなかったら、大人しくしなよ。」
そいつはトオルと、キツネ、たぬき、いのしい、猫、ミカナをゆっくりとネメつけるように見て言った。
刀を背中にさして持っている。
「昨日の『くノ一』!」
猫のミケが悔しそうに言った。
「そうよ。」
女忍びは、ふふっと笑った。
「昨晩から天井に忍び込んでいたのよ。」
女忍びは、薄い顔つきをしていた。横に鍋の蓋を持って構えて立っているパジャマ姿のミカナがハーフだから、対比で顔つきが薄く見えるのかもしれない。でも、とにかく薄い顔つきで、薄い唇に赤口紅を塗っていて、どこかしら妙な迫力があった。
「そしたら、あなたたち、とんでもない秘密を抱えているじゃない。」
女忍びは、トオルの顔を見て言った。
トオルは自分が男子だという秘密がバレたのかと一瞬冷や汗が噴き出た。でも、いやあ、バレるはずがないと思い直した。風呂の天井にでも忍び込んでいない限り、絶対にバレないはずだ。
「バレちゃあ、仕方ないな。」
さとこさんが、すぐさまタヌキから人の姿に戻った。
「ひえっ!」
女忍びは、薄い顔に明らに恐怖を感じたようで後ずさった。
「何じゃね。あんたにバレたんとはこの秘密じゃなかと?」
さとこさんは、ドスをきかせて言った。
「いえ、その秘密です。ですが、しかし、その、目の前で見るとさすがに驚きのあまりに、その、あの・・・」
女忍びはさっきまでの迫力が消えて、しどろもどろになった。
「これ『くノ一』!」
「われ、何がしたいんじゃ!」
最年少の猫のミケが、猫パンチを女忍びにお見舞いした。
「まあ、まあ、まあ、落ち着いて。」
トオルはひとまず自分が男子だという秘密の方はバレなかったと踏んで、場をおさめようと思った。
このまま、猫の戦いとイノシシが本気で「くノ一」と戦うのを見るのは避けたい。
何より、この「くノ一」は、そんなに悪い奴には見えなかった。タヌキからさとこさんが変わるのを見てたじろぐほどなら、何とか味方につけられるかもしれない。
「痛いって!」
しかし、猫パンチに「くノ一」は少々カッとしたらしく、思わず膝をグッと立てて身を低くかがめた。
危ない、危ない。戦闘態勢に入った。
ミカナがすかさず鍋のフタで、ミケの前をふさいだ。
「ミケ!やめな!」(カタコトの日本語だ)
「そこの女忍び、脅すつもりか?おヌシ、本国の私の一族にわたしたちの秘密をばらす気か?」(ドイツ語だ)
「それとも、世界に私たちの秘密をバラす気か?」(気を取り直したのか、英語だ)
ミカナはパジャマ姿で鍋のフタを構えたまま、ミケをたしなめるように一喝し、すごい剣幕でドイツ語で言った後、英語でつめよった。
トオルが聞き取ったドイツ語なので、多少は違うかもしれない。スラングが入りまくってよくわからなかったが、ミカナが激怒しているのはよくわかった。
取っ組み合いのバトルが始まった。ミケが猫からツイーテールをしたパジャマ姿になったところで、バトル開始のゴングがなった。
女忍びは壁を蹴ってミケに踊りかかり、ミケも忍びの髪を引きずって投げ飛ばした。どっちが強いのかわからない。床に組みふしたかと思うと、いきなり飛び上がって相手にキックしたり、もうめちゃくちゃだ。
最後はつかみ合って囲炉裏のそばの板の間をゴロゴロすごい勢いで転がった。
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しし丸はいのしし姿のまま、二人が囲炉裏に落ちないように押し戻していた。
「やめってっ!」
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