ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏

文字の大きさ
上 下
8 / 59
襲撃(始まる前に、襲われた)

08_襲撃か

しおりを挟む
 トオルはうっすらと目を開けた。目の前に白い蚊帳かやが見える。

 せみの声がして、気持ちの良い朝で、ここは山の屋敷だとすぐにわかる。もぞもぞと足を動かして、両手をあげてのびをゆっくりとした。

 昨日の練習はうまくは行った。明日にはアメリカに向かって出発だなとぼんやり思っていると異変いへんがあった。

 ブー子としし丸とミケの声がしているところに突然、悲鳴ひめいが聞こえて飛び起きたのだ。

「ぎゃあ、あんた誰よ!」

 トオルはとっさに自分が男だということがバレたのかと思って、本能的に胸を隠した。身バレか!?

 いや、蚊帳かやの中にも蚊帳かやの外にも、寝ていた部屋にはトオル以外に誰もいない。
 
 トオルはすぐさま蚊帳かやを飛び出し、ふすまを開けて廊下を走った。囲炉裏いろりがある方向で叫び声がしたような気がしてそちらに走った。
 息を切らして囲炉裏いろりがある部屋に飛び込むと、キツネ、たぬき、いのしし、猫、パジャマ姿のミカナがいた。
 
 いや、もう一人誰かいる!

「お前、誰だ!」
 トオルは思わず叫んだ。
 
「秘密がバレたくなかったら、大人しくしなよ。」
 そいつはトオルと、キツネ、たぬき、いのしい、猫、ミカナをゆっくりとネメつけるように見て言った。

 刀を背中にさして持っている。

「昨日の『くノ一』!」
 猫のミケが悔しそうに言った。

「そうよ。」
 女忍びは、ふふっと笑った。
「昨晩から天井に忍び込んでいたのよ。」
 女忍びは、薄い顔つきをしていた。横に鍋のふたを持って構えて立っているパジャマ姿のミカナがハーフだから、対比たいひで顔つきが薄く見えるのかもしれない。でも、とにかく薄い顔つきで、薄い唇に赤口紅あかくちべにを塗っていて、どこかしら妙な迫力があった。

「そしたら、あなたたち、とんでもない秘密を抱えているじゃない。」
 女忍びは、トオルの顔を見て言った。

 トオルは自分が男子だという秘密がバレたのかと一瞬冷や汗がき出た。でも、いやあ、バレるはずがないと思い直した。風呂の天井にでも忍び込んでいない限り、絶対にバレないはずだ。

「バレちゃあ、仕方ないな。」
 さとこさんが、すぐさまタヌキから人の姿に戻った。

「ひえっ!」
 女忍びは、薄い顔に明らに恐怖を感じたようで後ずさった。

「何じゃね。あんたにバレたんとはこの秘密じゃなかと?」
 さとこさんは、ドスをきかせて言った。

「いえ、その秘密です。ですが、しかし、その、目の前で見るとさすがに驚きのあまりに、その、あの・・・」
 女忍びはさっきまでの迫力が消えて、しどろもどろになった。

「これ『くノ一』!」
「われ、何がしたいんじゃ!」
 最年少の猫のミケが、猫パンチを女忍おんなしのびにお見舞いした。

「まあ、まあ、まあ、落ち着いて。」
 トオルはひとまず自分が男子だという秘密の方はバレなかったと踏んで、場をおさめようと思った。

 このまま、猫の戦いとイノシシが本気で「くノ一」と戦うのを見るのは避けたい。
 何より、この「くノ一」は、そんなに悪い奴には見えなかった。タヌキからさとこさんが変わるのを見てたじろぐほどなら、何とか味方につけられるかもしれない。

「痛いって!」
 しかし、猫パンチに「くノ一」は少々カッとしたらしく、思わず膝をグッと立てて身を低くかがめた。

 危ない、危ない。戦闘態勢せんとうたいせいに入った。
 
 ミカナがすかさずなべのフタで、ミケの前をふさいだ。

「ミケ!やめな!」(カタコトの日本語だ)

「そこの女忍び、脅すつもりか?おヌシ、本国の私の一族にわたしたちの秘密をばらす気か?」(ドイツ語だ)
「それとも、世界に私たちの秘密をバラす気か?」(気を取り直したのか、英語だ)

 ミカナはパジャマ姿でなべのフタを構えたまま、ミケをたしなめるように一喝いっかつし、すごい剣幕けんまくでドイツ語で言った後、英語でつめよった。
 トオルが聞き取ったドイツ語なので、多少は違うかもしれない。スラングが入りまくってよくわからなかったが、ミカナが激怒しているのはよくわかった。

 取っ組み合いのバトルが始まった。ミケが猫からツイーテールをしたパジャマ姿になったところで、バトル開始のゴングがなった。

 女忍びは壁をってミケに踊りかかり、ミケも忍びの髪を引きずって投げ飛ばした。どっちが強いのかわからない。床に組みふしたかと思うと、いきなり飛び上がって相手にキックしたり、もうめちゃくちゃだ。

 最後はつかみ合って囲炉裏いろりのそばの板の間をゴロゴロすごい勢いで転がった。

「危ないっ!」
 しし丸はいのしし姿のまま、二人が囲炉裏いろりに落ちないように押し戻していた。

「やめってっ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

エリア51戦線~リカバリー~

島田つき
キャラ文芸
今時のギャル(?)佐藤と、奇妙な特撮オタク鈴木。彼らの日常に迫る異変。本当にあった都市伝説――被害にあう友達――その正体は。 漫画で投稿している「エリア51戦線」の小説版です。 自サイトのものを改稿し、漫画準拠の設定にしてあります。 漫画でまだ投稿していない部分のストーリーが出てくるので、ネタバレ注意です。 また、微妙に漫画版とは流れや台詞が違ったり、心理が掘り下げられていたりするので、これはこれで楽しめる内容となっているかと思います。

薔薇と少年

白亜凛
キャラ文芸
 路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。  夕べ、店の近くで男が刺されたという。  警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。  常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。  ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。  アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。  事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

いざ出陣!! 南相馬高校 野馬追部!

七日町 糸
キャラ文芸
家の都合で福島県立南相馬高校に転入してきた春峰あさひ。 しかし、そこで待っていたのは「野馬追部」という奇妙な部活だった・・・・!

致死量の愛と泡沫に+

藤香いつき
キャラ文芸
近未来の終末世界。 世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。 記憶のない“あなた”は彼らに拾われ、共に暮らしていたが——外の世界に攫われたり、囚われたりしながらも、再び城で平穏な日々を取り戻したところ。 泡沫(うたかた)の物語を終えたあとの、日常のお話を中心に。 ※致死量シリーズ 【致死量の愛と泡沫に】その後のエピソード。 表紙はJohn William Waterhous【The Siren】より。

処理中です...