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襲撃(始まる前に、襲われた)
07_山の朝(ミカナ)(マンガかよ)
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わたしは伸びをして、ゆっくりと目を開けた。
何かに見られているような気がしたが、気のせいだと思い直す。
山の屋敷の空気はとても新鮮で美味しい。蝉の声がうるさいが、とにかく涼しい。きっと、朝方の山の景色も最高であろう。私は心の中で想像する。
十二畳の部屋に大きな白い蚊帳が貼られていて、皆で川の字になって寝るのが山合宿時の習慣だった。日本に来て初めて蚊帳の存在を知ったが、私は幻想的で結構気に入っている。
蚊取り線香が、畳の部屋の隅っこや、縁側、あちこちに置かれていて、かすかに匂いが残っていた。この匂いも何だか慣れると落ち着く不思議な匂いだ。
うん?
天井を見上げたわたしは、何かの視線を感じたような気がしてじっと天井を見つめた。え?何か目のようなものがこちらを見つめてまばたきしたような気がした。
いやいやいや。ホラーだ。そうだったら完全にホラー映画だ。こんなのどかな山奥で、そんなゾッとする展開が待ち受けているわけがない。
わたしは心の中で、ホラー的想像を打ち消した。わたしの気のせいだ。
右隣を見ると、寝る前は人の姿をして抱き枕を抱えていたブー子が、抱き枕にしがみついて寝ている可愛いキツネになっていた。
キツネに戻ったブー子の可愛い寝姿を見ていると、本当に幸せを感じる。
バンドの広告塔として、最年長のブー子は頑張っていた。バンドの知名度向上のために、グラビアになったり、ドラマに出たり、バラエティに出たりと文字通り体を張って頑張って来たのはブー子だ。
つい、数ヶ月前は全世界配信のドラマに出てくれて、アジア全域でブー子は人気者になった。おかげでバンドの注目度も一層上がり、ワールドツアーまで開催できるようになったというわけだ。
左隣を見ると、寝る前は人の姿をして抱き枕を抱えていたミケが、抱き枕に埋もれるように頭をもたせかけて気持ちよさそうに寝ているネコになっていた。ミケ猫だ。
キツネとネコに挟まれて目覚めることができるのが、合宿の醍醐味だ。
昨晩は、キツネ姿のブー子とネコ姿のミケと一緒に屋敷のお風呂に入った。ブー子の祖父は風呂が大好きだったらしく、山の景色が一望できる、そりゃあ素敵な風呂だ。そこに、キツネとネコと一緒に入るなんてとても贅沢だ。
私はカタコトの日本語で、キツネとネコは、私にはよく分からない「山言葉」で話しながら、湯船にゆっくり使った。
「ごっつああうまかあ、☆◇▲を食ったがあ。」
何かそんなことを言っていた。意味がわからなかったが、二人がとても嬉しそうに話しているので私も微笑ましく笑って眺めていた。
ミケの父親は、その昔プロの格闘家だったらしい。今は小さなジムを経営している。
十五歳のミケは父親に教わった格闘技で、いろんな敵を倒すことができた。ネコ科の敏捷性にかなう人科の者はいない。おかげで、私は時折現れる色んな嫌がらせに屈することなくミケに守られて、日本で無事に生きてこれた。
ミケの向こうには、トオルがやはり抱き枕を抱きしめて背中をこちらに向けて眠っている。長い髪が背中半分まであり、二千年に一度と噂されてバンド一の美貌を誇るトオルは、美意識が高く、寝る時もナイトブラとやらをつけて寝ていた。わたしは、トオルはホモ・サピエンス一の美女だと思う。
トオルはおしゃれ番長だ。私に美に対するいろんな知識を授けてくれる。日焼け止めなんてめんどうくさくて塗らない私に対し、厳しく小姑のように指導してくれるのはトオルだ。
ドラムのリズムの取り方についても、私がブー子とミケの獣グルーヴに入るのに苦労する瞬間は、いつもトオルがさりげなくフォローしてくれる。
このバンドでは私以外の全員が、抱き枕がないと眠れなかった。私はただただ大の字になって寝る癖がある。
きっと隣の八畳の和室では、たぬき姿で社長のさとこさんが、枕を蹴飛ばしてぐうすか寝ているのであろう。
しし丸は、いつものようにきっと玄関上り口にテントのような蚊帳を貼って、涼しげな暗いところで気持ちよさそうにイノシシ姿で寝ているはずだ。
このブー子の祖父の山の中の一軒家は、とても素敵なところだった。
まもなく、キツネとネコとたぬきとイノシシが、それぞれ山言葉で喋りながら食事の支度を始めるはずだ。
「おはよ、よう寝れたかね。」
その言葉を皆口々に言いながら、いそいそと食事の支度をしてくれる。人科の二人は怠け者だ。私とトオルは寝坊の常習犯だった。
私は寝たふりをして、みんなが美味しい朝食を準備してくれるのを待とう。
トオルは両親が日本人なので、オーストラリア育ちでも日本食は何でも食べれた。でも、私は日本に来てから初めて寿司以外の日本食を食べたので、まだ正直なれない食べ物がある。多分、さとこさんがドイツ式食事を準備してくれると聞いている。
何だろう。たぬきが用意するドイツ式食事って・・・・!?
私は足がもぞもぞしてきて、思わず身悶える。
わくわくが過ぎるではないか。ああ、待ち遠しい!
え?やっぱり、何かの視線を天井から感じるのは気のせい?
何かに見られているような気がしたが、気のせいだと思い直す。
山の屋敷の空気はとても新鮮で美味しい。蝉の声がうるさいが、とにかく涼しい。きっと、朝方の山の景色も最高であろう。私は心の中で想像する。
十二畳の部屋に大きな白い蚊帳が貼られていて、皆で川の字になって寝るのが山合宿時の習慣だった。日本に来て初めて蚊帳の存在を知ったが、私は幻想的で結構気に入っている。
蚊取り線香が、畳の部屋の隅っこや、縁側、あちこちに置かれていて、かすかに匂いが残っていた。この匂いも何だか慣れると落ち着く不思議な匂いだ。
うん?
天井を見上げたわたしは、何かの視線を感じたような気がしてじっと天井を見つめた。え?何か目のようなものがこちらを見つめてまばたきしたような気がした。
いやいやいや。ホラーだ。そうだったら完全にホラー映画だ。こんなのどかな山奥で、そんなゾッとする展開が待ち受けているわけがない。
わたしは心の中で、ホラー的想像を打ち消した。わたしの気のせいだ。
右隣を見ると、寝る前は人の姿をして抱き枕を抱えていたブー子が、抱き枕にしがみついて寝ている可愛いキツネになっていた。
キツネに戻ったブー子の可愛い寝姿を見ていると、本当に幸せを感じる。
バンドの広告塔として、最年長のブー子は頑張っていた。バンドの知名度向上のために、グラビアになったり、ドラマに出たり、バラエティに出たりと文字通り体を張って頑張って来たのはブー子だ。
つい、数ヶ月前は全世界配信のドラマに出てくれて、アジア全域でブー子は人気者になった。おかげでバンドの注目度も一層上がり、ワールドツアーまで開催できるようになったというわけだ。
左隣を見ると、寝る前は人の姿をして抱き枕を抱えていたミケが、抱き枕に埋もれるように頭をもたせかけて気持ちよさそうに寝ているネコになっていた。ミケ猫だ。
キツネとネコに挟まれて目覚めることができるのが、合宿の醍醐味だ。
昨晩は、キツネ姿のブー子とネコ姿のミケと一緒に屋敷のお風呂に入った。ブー子の祖父は風呂が大好きだったらしく、山の景色が一望できる、そりゃあ素敵な風呂だ。そこに、キツネとネコと一緒に入るなんてとても贅沢だ。
私はカタコトの日本語で、キツネとネコは、私にはよく分からない「山言葉」で話しながら、湯船にゆっくり使った。
「ごっつああうまかあ、☆◇▲を食ったがあ。」
何かそんなことを言っていた。意味がわからなかったが、二人がとても嬉しそうに話しているので私も微笑ましく笑って眺めていた。
ミケの父親は、その昔プロの格闘家だったらしい。今は小さなジムを経営している。
十五歳のミケは父親に教わった格闘技で、いろんな敵を倒すことができた。ネコ科の敏捷性にかなう人科の者はいない。おかげで、私は時折現れる色んな嫌がらせに屈することなくミケに守られて、日本で無事に生きてこれた。
ミケの向こうには、トオルがやはり抱き枕を抱きしめて背中をこちらに向けて眠っている。長い髪が背中半分まであり、二千年に一度と噂されてバンド一の美貌を誇るトオルは、美意識が高く、寝る時もナイトブラとやらをつけて寝ていた。わたしは、トオルはホモ・サピエンス一の美女だと思う。
トオルはおしゃれ番長だ。私に美に対するいろんな知識を授けてくれる。日焼け止めなんてめんどうくさくて塗らない私に対し、厳しく小姑のように指導してくれるのはトオルだ。
ドラムのリズムの取り方についても、私がブー子とミケの獣グルーヴに入るのに苦労する瞬間は、いつもトオルがさりげなくフォローしてくれる。
このバンドでは私以外の全員が、抱き枕がないと眠れなかった。私はただただ大の字になって寝る癖がある。
きっと隣の八畳の和室では、たぬき姿で社長のさとこさんが、枕を蹴飛ばしてぐうすか寝ているのであろう。
しし丸は、いつものようにきっと玄関上り口にテントのような蚊帳を貼って、涼しげな暗いところで気持ちよさそうにイノシシ姿で寝ているはずだ。
このブー子の祖父の山の中の一軒家は、とても素敵なところだった。
まもなく、キツネとネコとたぬきとイノシシが、それぞれ山言葉で喋りながら食事の支度を始めるはずだ。
「おはよ、よう寝れたかね。」
その言葉を皆口々に言いながら、いそいそと食事の支度をしてくれる。人科の二人は怠け者だ。私とトオルは寝坊の常習犯だった。
私は寝たふりをして、みんなが美味しい朝食を準備してくれるのを待とう。
トオルは両親が日本人なので、オーストラリア育ちでも日本食は何でも食べれた。でも、私は日本に来てから初めて寿司以外の日本食を食べたので、まだ正直なれない食べ物がある。多分、さとこさんがドイツ式食事を準備してくれると聞いている。
何だろう。たぬきが用意するドイツ式食事って・・・・!?
私は足がもぞもぞしてきて、思わず身悶える。
わくわくが過ぎるではないか。ああ、待ち遠しい!
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