ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏

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襲撃(始まる前に、襲われた)

06_チェリストのトオル 女子大生18歳(その秘密、誰にも言わないで)

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 僕はポニーテールを揺らしてドラムを叩いているミカナを見た。そしてブー子のピアノに合わせてチェロを弾く。

 僕の名前はトオルだ。オーストラリア育ち。

 正真正銘の男子だが、皆の前では女子で通っている。大学にも女子として通っている。
 
 メンバーも、マネージャーですら僕のことを女子だと思っている。僕の本当の性別を知っているのはさとこ社長だけだ。

 髪を伸ばしていて普段は眼鏡をかけているが、バンドとして皆の前に出る時はコンタクトに変えている。今、レーシック手術を受けるべきか迷っている最中だ。

「トオル?ちょっとテンポ気をつけて!」
「オーケー!」
「ミカナ、そこはもっとスローダウンして!」
「もっとスロー?なんでよ?」
「いいから試して!」
「気持ちミケに合わせてみてよ。」
「オーケー。」

 バンド仲間が互いに声をかけあって、練習を繰り返している。

 僕はあまり勉強が好きではない。でも、大学に行くことは親との約束だったので、日本でのバンド活動を許してもらうために昨年は頑張って勉強した。

 晴れて、今年から大学に通っている。といっても頑張って学費は何とか全部自分で払っている。いざとなれば、いつでも辞められるようにだ。

 音大に行くと練習量が相当に必要とされる。バンド活動との両立は難しいと思ったので、苦手な勉強で一般の大学に入った。

 バンドが売れる前は、引っ越し屋のバイトをしていた。男性の格好でやった。名前も「トオル」だし、バイト仲間は皆が僕のことを男性だと信じて疑っていなかった。

 オーストラリア育ちでも親が日本人なので、日本語には困らない。バンド仲間のミカナとは英語で話している。

 ガールズバンドなので、僕の性別は絶対の秘密だ。そもそもこのバンドにはもう一つ大きな秘密があるが(バンドメンバーに人科ひとかでないものが混ざっているからね)、僕のことだって大きな秘密だと思っている。

 決してバレてはいけないので、トイレだって女子トレイに行くが、僕は犯罪者ではない。女の子に興味は1ミリもない。生きづらい世の中というだけだ。

 このバンドを成功させて、拠点をアメリカに移したい。僕の思いと、十六歳のミカナの思いは完全に一致している。それに僕の気になる人もアメリカにいる。

 とにかく、僕が男だろうと女だろうと関係ない次元まで、このバンドを成功させてやるのだ。

 そのためには僕の努力が絶対的に必要だ。

 僕は弦楽器なら何でも弾ける。バイオリンも小さな頃から練習を繰り返してきたので、相当なレベルで弾けた。

 ただ、バンドとして成功するには個々の努力と、バンドとしての力を合わせて皆が求める姿を演じ切ることが大切で、それにはさらなる努力が必要だ。

 僕の低い中性的な声がこのバンドの声に合わさると、バンドとしての音域に良い意味で変化が起こるが分かる。

 足でリズムを取る。体を揺らしてグルーヴ感を共有しながら音合わせをしていく。体に仕込みませて、何が起きてもどんな場所でもガールズバンド「ミッチェリアル」としての音が出せるようにするのだ。

 メンバーに中学生と高校生がいるので、普段の練習時間は限られていた。

 今年の夏休みは、今までにない努力で皆の力を振り絞って、初めてのワールドツアーを成功させるのだ。僕は気合を入れなおした。

 さあ、一つ一つの音に集中するのだ!
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