上 下
5 / 59
襲撃(始まる前に、襲われた)

05_ギタリストのミケ15歳(山オーディション優勝者)

しおりを挟む
 わたしはギターをミカナのドラムに合わせる。
 ブー子の即興そっきょうのピアノに、不思議なグルーヴ感が加わり、きつねのばかしの術よりより重厚なが生まれる。

「いいよっ!ミケ!」
 ブー子が言う。ミカナもウィンクしてくれた。トオルはまだ準備中でチェロを構えようとしていた。

 私はミケ。一応15歳の中学生だ。私はギター教室に6歳から通っていた。

 ネコ科だが、小さな頃から家にギターがあって先生について習っていた。大きくなるにつれて、ギターの魅力に取りかれた。ただ、私の感覚と会う演奏者に出会ったことは、山のオーディションに参加するまではなかった。

「はい、14歳のミケさん!優勝でございますっ!」

 さとこエンタープライズのさとこ社長に名前を呼ばれたとき、わたしは震えた。人に完璧に化けられるだけでなく、楽器もプロとしてやっていける可能性があると、わたしは評価されたのだ。そう、山をあげてのオーディションで、私は勝ち上がった。
 近隣の山々だけでなく、日本全国から我こそはと思う獣たちが集まっての世紀の一大イベントだった。優勝したのも最高だったが、もう一つ、忘れ難い感動があった。

「あれ、最高だ!」

 ブー子と初めて合わせてみた時に、身震みぶるいした感動が忘れられない。
 そして、その感動は練習している時も、しょっちゅう味わうことができた。

 私のギターとブー子のキーボードやピアノの音はなぜかピッタリハマった。それにドイツ育ちの人科ひとかのミカナのドラムが加わる。

 オーストラリア育ちの人科ひとかのトオルのチェロが加わり、一層の不思議な音源になる。私は内心、動物的なグルーヴ感だと思う。

「おはよう!」
「ミケ、おはよう!」
「オッス、ミケ!」
「ミケ!今晩の生放送出るんでしょ?楽しみにしているからね。」
 中学3年生の私は、人に化けて毎朝普通の15歳と同じく中学に通っていた。学校中のみんながわたしがバンドを組んでいることを知っている。わたしは1日の大半を女子中学生として生活する。そしてときどき、プロとしてテレビにも出るし、コンサートにも出演する。

 わたしは、人科の男の子が普通に気になる。でも、私の恋は決して成就じょうじゅしない。

「ミケ!あんた今、3ーAの男子にラブレターもらったでしょう?」
「もらったけど。でも、うちは当分彼氏は要らないから。」
「本当に?」
「うん、本当。興味がない。」
 わたしはうまく自分の気持ちを隠している。

 今年に入って告白された数は余裕で100回を超えた。中学や高校生の人科ひとか男子からのものだ。ファンレターのようなものだと思うことにしている。

 でも、わたしの正体は決してあかせない。私の恋は決して成就しないのだから。そういうのを『ミプロトルス恋』というらしい。その昔から、決して成就しない恋は、芸術分野では魔力のような人を惹きつける魅力を生み出すらしい。あと、『ミプロトルス恋』という言葉にはもう一つ意味があるらしいが、それが何かはまだわたしは知らない。

 ブー子も、マネージャーのしし丸もさとこ社長も仲間だ。私たちの恋は決して成就じょうじゅしない。その切なさが、ギターにうまく出ていると指摘したのはマネージャーのしし丸だ。

 この切なさがバンドに生きるのであれば、私は報われる。

 高校には行くつもりだ。得意科目の一つは英語だ。

 ミカナがアメリカの大学を狙っているのを私たちメンバー全員は知っている。ならば、私は大陸にわたる猫になろう。ブー子だって、そこは覚悟はできているはずだ。私たちは大陸に渡る獣になるのだ。

 さあ、気合を入れるのだ。この初めてのワールドツアーは何が何でも成功させるのだ。世界唯一の音源を世界のファンに直接届けるのだ。

「私の心はバンドに捧げるよ!」
 わたしは思わずシャウトした。
 他の三人は、いきなりのことにへえ?という反応したが、練習の演奏は続けてくれた。

 そこへ、ブー子が私たちのバンドの歌を弾き始め、歌を歌い出した。ドラムのミカナが声を合わせ、チェロのトオルが低い声で合わせ始める。さとこ社長の声が隣の部屋から合流した。

 15歳の女子中学生の姿をしたネコ科の切ない私の声が合わさる。ほら、不思議なグルーヴ感が生まれた。

 私たちはときおり、目をつぶって演奏しながら、音を合わせていく。

 ガールズバンド「ミッチェリアル」の声が山間やまあいに響く。出国前の最終音合さいしゅうおとあわせは夜まで続いた。

 私の心はこのバンドに捧げるのだ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

大陸鉄道の死神 〜【二重人格】で【一時間しか動けない】異世界諜報員は復讐のために暗躍する〜

佐渡の鹿
ファンタジー
ー 勇者が魔王を滅ぼす代償にこの世界から魔力が消滅した ー 異世界の大陸にある『霧江大陸鉄道社』。そこで働く優しい少年「三船春ニ」には本人も知らない秘密がある。 それは彼に二つの魂が宿っている=【二重人格】と言うこと。もう一つの魂は「三船雪一」彼の双子の兄であり、【死神】と呼ばれる大陸最強の諜報員だった。 失ったはずの兄弟が一つの体に宿る奇妙で歪な肉体、その原因を作った男に復讐するために暗躍する。 〜チート無し・転生無しの異世界大正ロマン風スパイファンタジー開幕〜

ガールズバンドクラッシュ

みらいつりびと
恋愛
音楽百合小説。全7話。 「伝説の」というほどではないが、10年代に鮮烈な印象を残したガールズバンド『ブラック・マジック・オーシャン』は2011年に活動を開始し、2016年に内紛を起こして解散した。被災地出身の時計坂カナエとその恋人海野シズクが創始したBMOは当初から鎮魂をテーマを孕んでいたが、抽象的な歌詞をメロディアスなロックにくるんでその全貌は容易にはわからなかった。この記事は代表曲『走れ!』が2023年に映画の主題歌になり再評価されているBMOの軌跡を追い、彼女たちが何者だったかを明らかにしようとする試みである……。 ガールズバントをつくったふたりの恋愛を描こうと思って書き始めましたが、思いがけず時計坂と海野以外のバンドメンバーの関係性も描くこととなりました。ガールズロックバンドの内情をお楽しみください。文章は音楽記事を模しています。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜

紫音@キャラ文芸大賞参加中!
キャラ文芸
【キャラ文芸大賞に参加中です。投票よろしくお願いします!】 やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。 *あらすじ*  人には見えない『あやかし』の姿が見える女子高生・桜はある日、道端で泣いているあやかしの子どもを見つける。 「”ねこがみさま”のところへ行きたいんだ……」  どうやら迷子らしい。桜は道案内を引き受けたものの、”猫神様”の居場所はわからない。  迷いに迷った末に彼女たちが辿り着いたのは、京都先斗町の奥にある不思議なお店(?)だった。  そこにいたのは、美しい青年の姿をした猫又の神様。  彼は現世(うつしよ)に迷い込んだあやかしを幽世(かくりよ)へ送り帰す案内人である。

処理中です...