28 / 37
第一章 波乱と契約婚の花嫁生活幕開け
死と希望(2)
しおりを挟む
私は二番手の聖女かもしれないが、私にはまだ方法が残っているはずだ。考えるのだ。
ニーズベリー城は突然の王妃の訪問に騒然となった。しかし、王の振る舞いは知られていたことなので、私が夫の浮気に頭に来て飛び出したというのを皆同情の目を持って温かく受け入れてくれた。
「リジー、あとでパンを焼いてあげるわ」
「お母様が?」
私がうなずくと、リジーは目を輝かせた。侍女に目配せをしてリジーを部屋まで連れて行ってもらうと、私は素早く当たりを見渡して、東屋まで走った。まだただ美しい薔薇や花々が咲き誇る庭園のままだ。このあと、庭も着飾ることが大流行するが、まだその時代は来ていない。私は東屋を見つけるとほっとした。果樹園の手前に位置しているのは同じだった。
そっと当たりを見渡して、スティーブン王子がやったように東屋の地下通路を出現させて、そこに入って行った。
スキルで炎を出して、松明につけた。
そして、壁に皮袋がしまえるだけの穴を出現させて、そこに隠した。
「伝言よ。次に私がスティーブン王子とここを通った時、皮袋が落ちてきて、私に秘密のメッセージを告げて欲しいの」
私は皮袋から一枚の羊皮紙を取り出して、裏にスキルで文字を書いた。
『法曹院の外でゾフィー令嬢を見かけた時、ゾフィー令嬢を狙う者に剣で襲われて、長弓で射られる。避けるべし』
全ての仕掛けをスキルで封じ込め、私は未来の自分にメッセージが届くことを祈って秘密通路を後にした。
ニーズベリー城の料理室は知っている。王子に解毒するための薬草を煎じる時に使わせてもらったからだ。
私はそこにリジーも連れてきてもらって、パンを作った。発酵にスキルを使っているが、誰も気づいていない。王妃がスキルを使えるなんて、誰も知らないのだから。
できたパンをリジーと一緒に小さく丸めて並べて、パン焼きがまに入れると、私はそこで歌を歌いながらリジーとパンが焼き上がるまで待った。
「これからどんなに辛いことがあっても、最後にあなたは勝つわ。いい?リジー?自分を信じるのよ」
私はリジーにそんな話を小声でしながら、歌を歌っていた。私がそんなことをしなくても、この2歳か3歳の娘は大きな人になるのは事実だ。でも、そう言わざるを得なかった。これからジットウィンド枢機卿と彼女の父親が何をするのか私は知っているのだから。
すぐに焼き上がったパンをリジーは美味しそうに、幸せそうに食べてくれた。
「お母様、何があっても大丈夫だわ」
幼いリジーは私の瞳をのぞき込んでそうささやいた。
「そうね、あなたはすごいわ」
私は思った。
「お母様も、こんなパンを作れてすごいわ。誰にも負けてない」
3歳のリジーはそう言って微笑んでくれた。私は思わず涙がこぼれた。そのまま、目を瞑ってリジーを抱きしめた。小さな体はふわふわで温かった。
「フランソワーズ、うまく交わしたな!さすがだ!」
私の目の前には心配そうにのぞきこむ、褐色の髪のとても美しい人がいた。すぐに赤毛の髪の毛に寝癖がついた若い男性が駆け寄ってきた。サラサラ金髪の若い男性と一緒に、周りの群衆の中から長弓の男と短剣を持っていた荒くれ男を捕まえた。
「私は聖女ですから」
私は小さくつぶやいた。
「そうだ、君は誰にも負けない聖女だ。よくやった」
スティーブン王子は煌めく瞳で私を見つめて、そっと私を抱きしめてくれた。
――愛のない結婚でもいいわ。このお方のそばにまた入れるなら。生きてまた会えて、本当に嬉しい。
私はところ構わず泣いた。スティーブン王子の胸は温かだった。王子の唇が私の唇に重なって、私は思わず応えた。
あぁっんっ
ニーズベリー城は突然の王妃の訪問に騒然となった。しかし、王の振る舞いは知られていたことなので、私が夫の浮気に頭に来て飛び出したというのを皆同情の目を持って温かく受け入れてくれた。
「リジー、あとでパンを焼いてあげるわ」
「お母様が?」
私がうなずくと、リジーは目を輝かせた。侍女に目配せをしてリジーを部屋まで連れて行ってもらうと、私は素早く当たりを見渡して、東屋まで走った。まだただ美しい薔薇や花々が咲き誇る庭園のままだ。このあと、庭も着飾ることが大流行するが、まだその時代は来ていない。私は東屋を見つけるとほっとした。果樹園の手前に位置しているのは同じだった。
そっと当たりを見渡して、スティーブン王子がやったように東屋の地下通路を出現させて、そこに入って行った。
スキルで炎を出して、松明につけた。
そして、壁に皮袋がしまえるだけの穴を出現させて、そこに隠した。
「伝言よ。次に私がスティーブン王子とここを通った時、皮袋が落ちてきて、私に秘密のメッセージを告げて欲しいの」
私は皮袋から一枚の羊皮紙を取り出して、裏にスキルで文字を書いた。
『法曹院の外でゾフィー令嬢を見かけた時、ゾフィー令嬢を狙う者に剣で襲われて、長弓で射られる。避けるべし』
全ての仕掛けをスキルで封じ込め、私は未来の自分にメッセージが届くことを祈って秘密通路を後にした。
ニーズベリー城の料理室は知っている。王子に解毒するための薬草を煎じる時に使わせてもらったからだ。
私はそこにリジーも連れてきてもらって、パンを作った。発酵にスキルを使っているが、誰も気づいていない。王妃がスキルを使えるなんて、誰も知らないのだから。
できたパンをリジーと一緒に小さく丸めて並べて、パン焼きがまに入れると、私はそこで歌を歌いながらリジーとパンが焼き上がるまで待った。
「これからどんなに辛いことがあっても、最後にあなたは勝つわ。いい?リジー?自分を信じるのよ」
私はリジーにそんな話を小声でしながら、歌を歌っていた。私がそんなことをしなくても、この2歳か3歳の娘は大きな人になるのは事実だ。でも、そう言わざるを得なかった。これからジットウィンド枢機卿と彼女の父親が何をするのか私は知っているのだから。
すぐに焼き上がったパンをリジーは美味しそうに、幸せそうに食べてくれた。
「お母様、何があっても大丈夫だわ」
幼いリジーは私の瞳をのぞき込んでそうささやいた。
「そうね、あなたはすごいわ」
私は思った。
「お母様も、こんなパンを作れてすごいわ。誰にも負けてない」
3歳のリジーはそう言って微笑んでくれた。私は思わず涙がこぼれた。そのまま、目を瞑ってリジーを抱きしめた。小さな体はふわふわで温かった。
「フランソワーズ、うまく交わしたな!さすがだ!」
私の目の前には心配そうにのぞきこむ、褐色の髪のとても美しい人がいた。すぐに赤毛の髪の毛に寝癖がついた若い男性が駆け寄ってきた。サラサラ金髪の若い男性と一緒に、周りの群衆の中から長弓の男と短剣を持っていた荒くれ男を捕まえた。
「私は聖女ですから」
私は小さくつぶやいた。
「そうだ、君は誰にも負けない聖女だ。よくやった」
スティーブン王子は煌めく瞳で私を見つめて、そっと私を抱きしめてくれた。
――愛のない結婚でもいいわ。このお方のそばにまた入れるなら。生きてまた会えて、本当に嬉しい。
私はところ構わず泣いた。スティーブン王子の胸は温かだった。王子の唇が私の唇に重なって、私は思わず応えた。
あぁっんっ
70
お気に入りに追加
447
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる