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きっかけ ※

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 確かに。

 確かに、獣がスティーブン王子に襲いかかるたびに私は幾度も飛び出して彼と獣の前に立ちはだかっては獣を追い払い、スティーブン王子をお守りした。

 それはこれまでにも何度も何度もあった。



 でも、こんなことは今まで想像すらしたことがない。

 私は初恋の人にもフラれていて、スティーブン王子に至っては私など見向きもされない存在だったはずだ。

 彼は地味で冴えない私など見つめることなく、美しい第一聖女にゾッコンだったのだから。私が彼の命を守るのは職務だからで、仕事上は当たり前の事だからだと皆は思っている。私が彼に夢中という理由からではないと、皆は思い込んでいる。

 私はスティーブン王子にそういう目線で見られることはないはずだ。


 それなのに、地味で冴えないはずの22歳の私は24歳のスティーブン王子に襲われている。

 正確には、
 スティーブン王子に命を奪われるような襲われ方ではなく、お慕い申し上げている人に抱かれるというやり方で襲われていた。

 待ってくださいっあんっいやっ殿下っあんっんっ 

 私、フランソワーズ・ボーズ・ラヴォイアは甘く吐息をついた。

 スティーブン殿下は私のドレスを脱がしてしまい、何も身につけていない状態の私に、その温かな唇を押し付けて私を離してくれない。

 優しく強く吸って、
 繰り返し愛撫される。

 有無を言わさずとまでは言わない。
 私が拒否をすることはできたはずだ。
 私の心がそう願えば。

 でも、私の心は拒否したいと思っていなかったのが問題かもしれない。

 スティーブン王子は私の胸を見つめて頬を赤く染め上げていて、煌めく瞳には私の顔が確かに映っているはずなのだ。顔を赤らめて快感に身悶えする私の顔が。

 私は初めてスティーブン王子のことををよく分からないと思った。

「待って……待って……あぁんっあんっあぁぁっあっ」
 
 愛を失ってそれを心の奥に隠して泣き崩れていた美しい彼は、この日、獣だったのかもしれない。

 そしてそれに応えた私は、彼に対する愛を隠しているだけのただの一人の若い女性だった。

 私たちはその日、自分たちの運命を変えたのだ。



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