【完結】没落令嬢のやり直しは、皇太子と再び恋に落ちる所からで、1000%無理目な恋は、魔力持ち令嬢と婚約破棄させる所から。前より溺愛される

西野歌夏

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第1章 死に戻りからのあり得ない恋

12 婚約者であるパトリシア令嬢

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「結婚かぁ」

 天を仰いで、アンドレア皇太子はつぶやいた。

 ――そうそう。

 ――今のあなたは、そうは簡単には「私はジェニファーと結婚します」とはいかない状態ですわね。知っておりますわ。


 私は死に戻ったので、アンドレア皇太子の婚約者パトリシアをよく知っている。

 メガネをかけた偏屈魔女。
 美しいパトリシア。
 全てをアンドレアに奪われることを夢見ている恋に一途な令嬢。

 情熱的に一心にアンドレアを思う令嬢。
 普段はメガネをかけたガリ勉魔女。
 特殊能力はなし。
 ひたすら基礎魔力を積み上げてくる彼女のような美しい女性が、実は一番怖い。

 『女の敵は女』を絵に描いたような思考回路の持ち主だ。

 没落令嬢に負けるわけがないと思い、日夜熱心に努力を重ねる令嬢。
 
 火を生み出し、
 風を生み出し、
 水を生み出し、
 辺りを暴風雨にも雪にもできる令嬢。

 本の影からアンドレアの様子を伺う、見事なナイスバディの持ち主で、妄想と嫉妬でどうにかなりそうな令嬢。

 それがパトリシアだ。

 私も夫である美しい皇太子に振られた時は、「あぁ、パトリシア……やっぱり奪い返しに来たのね」と半ば予知できていたことだけに、それほど驚きはなかった。

 ただ、私と子供たち3人をすっぱり捨てた夫には、猛烈にがっかりして悲しかった。

 前回の婚約破棄騒ぎの時は、私は何も分かっていないただの没落令嬢だったので、相当な覚悟を持って「この美しい男」が私との結婚を決行したことに気づいていなかった。

 あれよあれよという間に私は皇太子の妻になったが、婚約破棄されたパトリシアが暴風を起こして私を吹き飛ばしてしまおうとした事件、私の一張羅ドレスがビリビリ裂ける事件、盗人女狐呼ばわりされて(それはある意味事実だが)サロンで嘲笑われる事件、エトセトラ、エトセトラ、色々あった。

 またあの暴風雨のようなパトリシアの劣情を引き起こすと考えると、ゴクリと生唾を飲み込み、本当にもう一度やる必要があるのか?と逡巡してしまう。

 ちなみに、暴風雨を起こして私を風で吹き飛ばそうとした時は、アンドレア皇太子は「やめろ!」と叫んでパトリシアの腕を捻じ上げていた。それでも「なんで止めるの!」と泣きながらパトリシアは術をやめなかった。アンドレア皇太子も半泣きで必死で止めていた。

 ただ風を起こしているだけの術だが、それはもはや呪いの術だ。呪詛。
 

 その時の美しい男、アンドレア皇太子の言い分はこうだ。

***
 パトリシア。
 君の気持ちはわかっている。
 君は美しいし、
 君の才能は素晴らしいし、
 君の努力も凄まじいことを知っているし、
 君が皇帝の妻に一番ふさわしい。

 だから、やめてくれ。
 君にふさわしいのは、僕ではない。
 君にはもっと素晴らしい男性がいる。

 他の女性に目移りをしない素晴らしい男性がいる。

***
 
 そして、5年後に、私は夫であるアンドレア皇太子をパトリシアにあっさりと奪い返された。

 これだけ見ると、悪者は完全に私の方だ。
 黒髪のダンディなクイーンズマディーノモベリー伯爵が頭に浮かぶ。彼の姪のパトリシアは完璧な未来の皇太子妃だった。

 そこへ突然、どこの馬の骨とも知らない(ジェニファー・メッツロイトンという鉱石マニアの娘で没落令嬢)が、美しい皇太子をかっさらったのだ。

 良くない、良くない。
 完璧な悪役令嬢の立場が私だ。
 
 ただ、私があの子たちに再会するには、どうしてももう一度アンドレア皇太子と結婚をしなければならない。

 つまり、もう一度、烈女、メガネをかけた美しい偏屈魔女、由緒正しい皇太子の婚約者であるパトリシアを、突然婚約破棄されるという運命に陥れなければならない。

 私と子供たちを未来で殺すのは、動機の面ではパトリシアが第一容疑者になってしまうのだが、それは私にも問題があるのは知っている。

 

 今は幽霊屋敷の実家にいる私たちだ。
 私は母が落として壊した容器の片付けをした後、無事だったワインのボトルを空けてもらった。無言で天を仰ぐアンドレア皇太子の横で、美味しいワインを飲んだ。

 一番星が輝く夜空は、いつの間にか満点の星空に変わっている。

「今宵、従者の皆様も宿泊なさってはいかがでしょうか。大したことはできませんが」

 母がそうアンドレア皇太子に話しかけるのを、私は横でぼーっと聞いていた。最後に残っていた貴重なワインの銘柄を、私は見つめていた。

 前回、このワインはどこであけたのだろう?
 前回は開けなかったワインのボトルではないだろうか。


 そんなことをぼんやり考えていた。
 パトリシアとの対決は迫っていた。

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