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1幕 フラれて出世階段を登り始める

第19話 剣を使ってみた

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「泣きながら、毎日魔神にいじめられて帰ってきていた、キラ坊ちゃまが、こんなに立派になりなさって・・・」

 私を弟は、行く店の店主や店子たちに口々にそう言われた。弟は姉の私を店主や店子たちに紹介してくれたのだ。私は、今更ながら、弟の綺羅介は異世界では努力の人だったことを思い知った。

 私はマテキで成り上がるのに必死で、弟が努力の人だったことを全く知らなかった。

 冴衞門がボソッと私にささやいてきた。
「姉さんの本物の弟さんは、すごいっすね。俺なんか、姉さんと呼んではいけなかったって恥ずかしいっすよ。」

 いや、恥ずかしいのは、姉の方だ。

 大通りを歩いていると、ある団子屋の前で、支配者貧乏大魔神と弟の足がピタッと止まった。

「これ?試す?由莉子ちゃん?」
 支配者貧乏大魔神が悪戯っぽい笑みを浮かべて私に聞いてきた。

「試すってなにを?団子は普通に食べたいけど。」
「あ、俺も食べたい!」
「私も!」
「俺も食べたいっす!」
 人間界からやってきたマテキとゼニキバの4人は、完全に職務を忘れて、都に初めてきたおのぼりさん状態だった。

「これねー、姉貴、すごいんだよ。食べると飛べるんだよ。」
「は?」

「ま、食べてみなさい。」
 支配者貧乏大魔神が団子屋で団子を買って、私たちに振る舞ってくれた。

「美味しいね。」
 その言葉を言った瞬間、私は、宙に浮いた。
「ひえっ!」
 冴衞門も、冴子も、タクローも宙に浮いた。

「ね?すごいだろ?ここに姉貴を連れて来たいって、いっつも思っていたんだよ。」
 弟も宙に浮き、ニッコニコの顔で私に言った。

「あんたたち、目的地までは、飛んで行けば?」
 支配者貧乏大魔神は、団子の力を借りずに自力で飛んできて行った。

「それいい!」
「サイコー!」
 というわけで、私たちは「大魔神長の館」まで、飛んで行くことになった。

「文字通り天女じゃん」
 タクローにそう言われて、私もまんざらではない。

 が、私たちの出現を快く思わないやつはやっぱりいた。
 飛んで大通りの上空を楽しげに進み始めた瞬間に、それは思い知った。

 黒いウニのようなものが大量に私たちに向かって飛んできた。
「呪い!」
 
 綺羅介はそう言うと、背中の剣を抜いて勢いよくウニのようなものをぶった斬った。

 えー、、魔神にいじめられて帰って来ていた子が、こんな剣さばきも麗しい若武者になるんだ・・・

 しかし、そんな感慨に耽っている場合ではなかった。
 
 大量の黒いウニが襲い、あたりの空が真っ黒になった。
「姉貴!姉貴も剣を抜いて!」
 弟がそう叫んだ。

 支配者貧乏大魔神が何かの術で追い払おうとしているが、相手がしつこい。どうやら苦戦しているようだ。

「え、、、えい!」
 咄嗟に私も背中の剣を抜いて、空高く襲ってきた黒いウニの大群に向かって思わず剣を放り投げてしまった。

「あー、しまった。」
 私は思わず剣を放り投げてしまって、自分でもう終わったと思った。マテキの華取火鳥のはずが、不甲斐ない。

 しかし、私の投げた剣は猛烈な勢いで黒いウニの大群の中に分け入り、ウニをぶった斬って、ブーメランのようにこちらに戻ってきた。

「うわー!」
「逃げろ!」
「きゃー!」
 冴衞門も、冴子も、タクローも逃げ惑った。

 私は恐怖にかたまり、自分の放り投げた剣がこちらにブーメランのように戻ってくるのを見た。そして、気づくと地面に降りていた。

 私の足元に剣がブンを大きくしなって、勢いよく刺さった。

「おお!」
「すごいな!」
「さっすが大桜家のお嬢様だな。」
 あちこちで、魔神たちがそう言うのが聞こえた。

 皮肉がすぎるんようですが。
 
「姉貴、よくやったよ!」
「由莉子ちゃん、さっすがよ!」
 空から降りてきた弟と支配者貧乏大魔神にまでそう言われて、ぽかんとした。

「ほら、呪いの黒いウニみたいなのが、全部消えた。」
 後から空から降りてきたタクローに指さされて、私も初めて気づいた。
 なんだか変な黒い大群はあとかたもなく消えていた。

「え?なんで?」
 私は思わず冴衛門に聞いた。

 代わりに、綺羅介が答えてくれた。
「姉貴、あの剣を使えるのは一握りなんだよ。大桜家の家宝のようなものだけど、金を積んで手に入れたけど、使いこなせるのは今まで誰もいなかったんだよ。」

「すごい。」
「フラれて、マテキで頑張ってきて、姉さん良かったじゃないですか。なんか、すごい力を見せてもらえました。」
 冴衛門に素直な声でそう言われて、私はキョトンとした。
 今ので、使いこなせていると言えただろうか。


「やっぱ、姉貴はすげーな。根性だけはあるって思ってたけど、それに関係しているのかな・・・」
 弟の綺羅介にそんなことを言われた。

 根性だけは、確かに負けませんけれども。でも、今のが剣を使いこなせたというレベルか判断に苦しむ。
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