上 下
11 / 43
1幕 フラれて出世階段を登り始める

第11話 マテキ大桜華取火鳥と、冴衛門廉長(レンチョー)

しおりを挟む
 組長室は奥まった所にあるが、非常に豪勢な部屋だ。

 右側には数世紀前のヨーロッパ洋館へ通じる扉があるし、左側には江戸城に通じる扉があった。
 私は洋館にも江戸城の扉にも入ったことがあった。

 私は緊張して番頭の後に従って、組長室に入った。

「失礼します。大桜華取火鳥です。」
 私がそう言うと、窓から外を眺めていた組長が振り返った。

「久しぶり、姉さん。」
 私は、思わぬ先客がいたことに心底驚いたが、顔には出さなかった。

 ゼニキバの冴衛門(ザエモン)ではないか。

 顔や姿に似合わぬ、非常に低いバリトンボイスで冴衛門は、私に言った。

「あんたの姉貴になった覚えはないわよっ。」
「冷たいなー姉さん。そんなこと言わないでよ。」

 イケメンでどちらかと言うと可愛らしい顔立ちで、背も低い冴衛門は、またまた渋いバリトンボイスで私に言った。

「これ、二人ともやめなさい。」
 組長が険しい顔で私たち二人を見て言った。

 私も冴衛門もピタッと小競り合いをやめた。

 通称ゼニキバ、それは泣く子も黙る一大勢力のマテキのライバル組だ。

 正式名称は文字通り、金融を司る銭奇錬金場組(ゼニキレンキンバ グミ)だ。冴衛門(ザエモン)は、その組の自称エースの廉年勘定長、通称レンチョーだ。いわゆる組の課長だ。

 ま、マテキの大桜カトリカチョーと、ゼニキバの冴衛門レンチョーは犬猿の仲で有名だ。

 私が一大勢力のマテキで這い上がって出世を重ねる中で、ザエモンもゼニキバで這いあがろうとしており、その過程で色々あったのだ。

 私がなぜ過剰に出世にこだわるか、こいつは知っている。最悪だ。
 ニヤニヤしながら「姉さん」と親しげに言ってくるが、それすら最悪だ。

 二番目呼ばわりされた私が躍起になって、根性入れて、出世階段を駆け上がるのをコヤツはそばで見ていた。笑いながらな。

 組長は事情は知らないので、私たちの小競り合いにうんざりしているだろう。

「我がマテキと、ゼニキバは、今回の危機で協定を結んだ。協力し合うのだ。」
 組長は私たち二人を見据えて静かに言った。

「危機の内容は番頭から詳しく伝える。だが、最初に言っておく。」

 組長はそこで息を吸って一呼吸おいた。芝居がかっているとも言えるが、組長の威厳のせいで、私の耳には恐ろしく聞こえた。

「大魔神も殺せるような奴が敵だ。大桜華取火鳥、君の攻撃力は700。大魔神を殺すには1億近くもの攻撃力が必要だ。知っているな?」

「二人とも、心して取り掛かりなさい。」

「はい!」
「はい!」

 こうして犬猿の仲のゼニキバの冴衛門と私は、手を組むことになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎町に住んでいたロボット好きの宮本荒人は、交通事故に巻き込まれたことにより異世界に転生する。 転生した先は、古代魔法文明の遺跡を探索する探索者の集団……クランに所属する夫婦の子供、アラン。 ただし、アランには武器や魔法の才能はほとんどなく、努力に努力を重ねてもどうにか平均に届くかどうかといった程度でしかなかった。 だがそんな中、古代魔法文明の遺跡に潜った時に強制的に転移させられた先にあったのは、心核。 使用者の根源とも言うべきものをその身に纏うマジックアイテム。 この世界においては稀少で、同時に極めて強力な武器の一つとして知られているそれを、アランは生き延びるために使う。……だが、何故か身に纏ったのはファンタジー世界なのにロボット!? 剣と魔法のファンタジー世界において、何故か全高十八メートルもある人型機動兵器を手に入れた主人公。 当然そのような特別な存在が放っておかれるはずもなく……? 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

処理中です...