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1幕 フラれて出世階段を登り始める

第9話 マテキの組長とエース大桜華取火鳥

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 私の仕事場は、会社といっても通称マテキの大本部だ。

 マテキ。それは、魔剣鬼天組の略称だ。泣く子も黙るマテキ。この世界で最大勢力を誇る組だ。

 私が会社のビルのロビーに着くと、早速、数人が私を見かけて駆け寄ってきた。

「大桜華取火鳥(オオザクラ カトリカチョウ)!」と口々に言って駆け寄ってきた。

 私は組で、華取火鳥を務めていた。これも通称だ。正式には、華基盤取締火長だ。火のおさと書くので、文字通り、ガス等も担当している。華となる基盤とは、水や電気やNW回線や電話回線も担当している。総じてインフラ基盤の課長と言った位置付けだ。

 火の鳥と読み替えて通称になっているのは、そんな感じの役職だからで、深い意味はないと思う。

「由莉子ちゃん!大変だよ。」
 そう言って駆け寄ってきたのは、先輩の峰やんこと、峰卓郎だ。タクロー先輩と私は呼んでいるが、結構な頻度でタクローと呼び捨てにしている。他の先輩方々は、峰やんと呼んでいるけど。

 タクローは、いつものダンディな服装が少しだけ乱れていた。家でくつろいでいたところ、緊急呼び出しがかかって慌てて服を着たのだろう。

「この前のリハは、失敗してなかったと思うけど。」
 私はタクローに素早く囁いた。私はしでかしていなかった、つもりだ。

「僕もそう思うんだけどねー」
 タクローはちょっと浮かない顔で言って、私が早足でエレベーターに向かうのに一緒についてきた。

「大桜由莉子華取火鳥(オオザクラ ユリコ カトリカチョウ)」
 いきなりフルネームと役職で呼ばれて、私は振り返った。

 誰ですか?私の名前をフルネームで呼ぶのは。

 重鎮がいらっしゃった。空気がピリッとそこだけ締まったかのような緊張感が走った。白髪の威厳のある男性が、高級そうなスーツを着て足早にこちらに歩いてきていた。

 おっと組長だ。
 組長も呼び出しか。
 となるとーーーーー?

 私の頭は高速回転した。これは、出世のきっかけとなる大事件勃発か。

 私はマテキのエースだ。
 泣く子も黙るマテキのエースである私に与えられた華取火鳥のポジションには、相当な裁量が与えられていた。

 ここで失敗すれば失脚、目的の成り上がりからは少し遠ざかる。ここで成功すれば大幅昇進も夢ではないという、一大事件が勃発したに違いない。

「おはようございます、組長。」
 私は爽やかに切り替えした。あいつに満開の桜の木の下で再開するために、今日は相当に気合を入れておしゃれをしてきていたが、もうおしゃれなんかどうでもいい。

 これは、出世のチャンスじゃー!

 私は腹をくくった。
 どんな大事件が起きようと、成敗してみせるわ。一気に成り上がるために。

 2000万世帯で全てが止る事態が起きようとしているー。タクローにそう聞かされたのは、組長とエレベーターを降りて執務室に足早に向かっている時だった。

 え?

   それって地震?
 戦争レベルじゃないか。
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