【完結】最愛の王子様。未来が予知できたので、今日、公爵令嬢の私はあなたにフラれに行きます。理由は私に魔力がありすぎまして、あなたは要らない。

西野歌夏

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第二章 恋(もうあなたに騙されません)

恋の成就 ルイSide(1)

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 空から舞い降りたのは「闇の禁書の封印を解いた者、限界を超えし」と書かれた白い紙の札だった。崩れ落ちたディアーナの体の上に触れるとその紙は光を放って消えた。

 俺はその文字を見たし、アルベルト王太子もジャックもロミィもアダムも見た。アルベルトの弟のフェリクスは、宮殿で待っていたら急に俺たちが現れてディアーナが地面に崩れ落ちたので、無我夢中でディアーナを介抱しようとしていて全く気づいていなかった。ダニエルもディアーナを抱えようと必死だったので、見逃したと思う。

「アダム、戻らなかったら王座は頼む。ロティ、いいな?」

 俺は素早く弟と妹に告げた。アダムとロミィは真っ青な顔になっていたが、唇を噛み締めてうなずいた。俺たちはディアーナを巻き込んだ。今すぐにディアーナを救い出せるとしたら、俺しかいない。

「どういう意味だ?」

 アルベルトは俺に聞いてきたが、キッパリ言った。

「俺が救いに行く。勝率は低いから俺が戻らなければ、次期皇帝の座はアダムが担う」

「ブルクトゥアタは長椅子が飛べるだけじゃないんだ。8代ぶりに現れたブルクトゥアタは飛ぶ以外のことができるんだよ」

 俺はアルベルトに教えた。

「君はディアーナを頼む。宮殿の客間に君が運んでくれないか。彼女をまだ愛しているんだろう?」

 ディアーナはフェリクスとアルベルトが二人で抱き上げていた。

「ハニー、戻って来い。もう君を困らせないから。何もかも俺が悪かった」

 アルベルトは美しい顔に影を滲ませる優しい顔で、ディアーナに言った。

「君が何を心配しているか、俺には分かる。レイトンとテレサとミラだろう?彼らが砂漠の家に閉じ込められた。俺が3人のところに行ってやる。元はと言えば、俺がしでかしたことが原因だからな」

 アルベルトは抱き上げたディアーナにささやいた。ディアーナはぴくりとも動かず、意識を失っている。おそらく死に近づいているのだ。

「俺は宮殿の客間に彼女を運んだら、すぐに寝台車に乗る。フェリクス、何かあればエイトレンスの王太子の座はお前に任せたぞ。彼女は俺一人に運ばせてくれ」

 アルベルトはそう言うと、俺にうなずき、ディアーナを抱いて宮殿の中に入って行った。ジャックとフェリクスが慌てて後を追った。

「ダニエル、ディアーナに部屋を用意してやって欲しい。ブルクトゥアタを信じてくれ。ああ言う風にアルベルトには言ったが、成功率は高いはずだ」

 ダニエルはじっと俺の顔を見たが、瞬時にアダムとロミィの様子を見て頷いた。俺以外のブルクトゥアタの二人は顔色は悪いものの、長い付き合いのダニエルにはそれほど心配するに足りないと言った空気を感じとったようだ。

「戻ったら、全部説明してもらいますからね」

 ――あぁ、説教は全部受けてやる。

 ダニエルは踵を返して、ディアーナを抱き抱えて運んで行ったアルベルトの後を追った。彼は完璧に部屋の手配を指示するだろう。

「ロミィ、お前がわざとアルベルトを連れてきたんだな?」
「ごめんなさい。早く挙式の日取りが決まると思ったの」

 ロミィが反省して謝ったので、俺はうなずいた。

「まぁ、助かった。来週に決まった挙式のチャンスをみすみす逃すわけにはいかないからな」

「大きくは変えられない点を、有効活用するんだね。ブルクトゥアタの力は過去を大きく変えることは許されないから」

「そうだ。一種の賭けだ。だが、いいな?父上には挙式の準備は進めてくれと言ってくれ。明け方には戻る」

 俺はロミィとアダムにうなずいて見せた。そのまま俺の長椅子にまたがって、姿を消した。




***
 1日ちょっと前の夜に戻った。

 目の前でディアーナがパッと手を振りかざし、アルベルトがアリス・スペンサー邸宅の書斎から消えた所だた。ディアーナがゴーニュの森にアルベルトを送り返したのだ。彼が潜んでいた元の場所に戻してあげた所から、一日先の未来を経験した俺に変わった。

「ディアーナ、大胆過ぎるよ」
 
 俺はディアーナにささやいた。アルベルトがディアーナの親友エミリーと何をしているのかをディアーナに見せたのは俺だ。最初に出会った日にブルクトゥアタの力を彼女に見せた。

 その結果、ディアーナがアルベルトに決別することがより強烈に確定的になった。

「嬉しいのだけれど、こういう仕返しは良くないよ。彼のハートにますます火がついたかもしれないよ?嫉妬心で狂うほどディアーナを求めるかもしれない」

 俺の言葉に、ディアーナはハッとした表情で俺を見つめた。

「アルベルトはここにはいない。このまま二人だけで話がしたいんだ」

 俺の言葉にディアーナは真っ赤になった。

 ――あれ?もしかして、さっきのソファの上で見せてくれたことの続きをしたいと言っているように聞こえた?
 ――それは本音ではあるんだけれど。

 今はもっと大事なことをディアーナに告げなければならない。これから起きることについて、だ。

 俺はソファに並んで座って、ディアーナをしっかりと抱きしめた。

「落ち着いて聞いてくれる?今の俺は、少し先の未来から来たんだ。ほら、最初に出会った日に、長椅子に君を乗せて日付を変えて過去に君を連れて行ったよね。エイトレンスの宮殿と別邸のシーンをそれぞれ君に見せた」

 ディアーナはあっけに取られた表情で、俺を見つめ返した。そしてあの嫌なシーンを思い出したらしく、顔を顰めてうなずいた。

 俺はワイン色の彼女の髪をそっと撫でた。

「今、君は闇の禁書を使ったせいで、限界を超えて死んだんだ。残念ながら、ブルクトゥアタは過去を大きくは変えられない。ほら、あの時も君に事実を見せただけだったでしょう?」

 ディアーナは目を見開いた。

「私はいつ死んだの?」
「明日の夜。もう、明け方になっていたから、明後日の未明だ」

 ディアーナは真っ青な顔になった。

「俺たちは君に『時を操る闇の禁書』の解読をお願いした。それがまず間違っていたんだ。明日、俺たちの結婚式は1週間後に行われると決まる。そして、ここにやってきて、みんなで過去に行った。君は呪文を間違えて1億年前のゴビンタン砂漠の状態を僕たちに見せてくれた。でも、戻った時の位置が違った。アリス・スペンサー邸宅の客間から出発した俺たちを、君がザックリードハルトの宮殿に戻してくれたんだ。俺が違和感を覚えたのはその点が1つ」

 ディアーナは俺の言葉を聞きながら、何か思い当たった様子で顎に手を当てて目を伏せて考え込んだ。

「開始と終了地点が違う。マカバスターを無視しているわね」

「そうだ。そこまでの大掛かりな移動の場合、八芒星は開始と終了地点の両方にあるべきなのじゃないか?」

「そうよ。1億年前に戻る時に八芒星を描いたのね。そしてザックリードハルトに移動した。でも、ザックリードハルトの宮殿にあったのは、五芒星だわ!」
「そうだ。君はザックリードハルトの宮殿とアリス・スペンサー邸宅の移動に使っていたのは、五芒星だったんだ」

「そうよ。そのレベルで人の移動だと、五芒星でいいの。でも、時間軸を大きく移動するなら私は八芒星を使うはずだわ。そうでなければ私を守りきれないわ……」

 俺はディアーナのエメラルドの瞳を見つめた。

「君が亡くなった時に空から白い紙が舞い降りてきて、それには『闇の禁書の封印を解いた者、限界を超えし』と書かれてあった。君の体に触れると、その紙は光の中に舞うようにして消えたんだ」

「私は3つ誤った。まず1つ目は、呪文のパラメーターを上手く使えていないから、時間軸が太古の昔まで大幅に戻った。そして2つ目の誤りは、そこまでの移動の場合は、開始と終了を同じ場所にしなければならないのに、帰りの地点をいきなり変えた。そして、3つ目の誤りが、帰着点を変えたことで、五芒星と八芒星のバランスの違いが発生したこと。2点目と3点目は修正すべき点だわ。呪文のパラメータの欠落は死に関係ないと思う」

 俺はうなずいた。

「ブルクトゥアタ的に見て、この3つの修正点は過去を大きく変えることになるかしら?」

「ならない。君が闇の禁書を使うことをやめたら、過去を大きく変えることになるかもしれない。でも、君自身が少しの改良を加えるなら、大丈夫のはずだと思う」

 ディアーナは自信なげに言う俺にそっと唇を重ねた。俺が確信が持てない点が彼女に伝わったのだ。

「私が変えなければ、私は二度とあなたに会えない。私が変え方を誤ると、あなたを失うことになる」

 ディアーナは危険なほど艶っぽい瞳で俺を見つめて、儚げにため息をついた。

「切ないわ。1週間後に挙式を上げることが決まるのに、その先の未来が私たちにないなんて」

 ――いい?

 ディアーナに声を出さずにそう聞かれた気がした。俺は彼女を見つめてうなずいた。そしてディアーナに手を取られ、アリス・スペンサー邸宅の書斎を出た。

 音もなく歩く彼女の後ろに従って、手を引かれて歩いた。2階への階段をのぼる時に少し床が軋んだが、執事のレイトンもテレサもミラも姿を見せなかった。

 俺は最初に出会った時に、気絶した彼女を運んだ客間のベッドに彼女に導かれた。

「音が漏れないように魔力を使っているわ」

 彼女のささやきが俺の耳元でして、そのまま俺はベッドに押し倒されて、ディアーナに馬乗りにされた。そして、彼女はもう一度首の後ろのリボンを取り、ぷるんと体を明らかにした。

「ホルターネックドレスって言うのよ」
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