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第二章 恋(もうあなたに騙されません)
仕返し ディアーナSide(1)
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「アルベルトさま、待って。きゃあっ!」
私は揉み合う二人の間に割って入ろうとした。そのままアルベルト王太子はルイを離さなかったので、アリス・スペンサー邸宅の暖炉に向かって体が吹き飛んだ。私の力が無意識に働いてしまったようだ。
「なっ……なんという力だ……今のは君の力か?それとも……ディアーナ、君かぁ?」
私は唇を噛み締めて、暖炉の前で尻餅をついているアルベルト王太子を見つめた。氷の貴公子と呼ばれるブロンドの髪に青い瞳のアルベルト王太子は、今だって素晴らしい美貌に違いない。それなのに、私の心は恋心より、切ない悔しさの方が勝っているように思う。
「……ルイに手を出さないで」
私はアルベルト王太子に静かに告げた。尻餅をついても氷の貴公子の美しい風貌は変わらない。でも、私の心の中では、私の隣で怒りを含んだ瞳でアルベルト王太子を睨んでいる18歳のルイの方に怪我があってはならないという思いでいっぱいだった。
騒ぎが聞こえてしまったらしく、執事のレイトンとメイドのテレサとミラがアリス・スペンサー邸宅の書斎の前に駆けつけてきた。彼らは心配そうな声をあげて書斎の扉を激しくノックした。
「お嬢様っ!ご無事ですか?」
「何事でしょう?すごい物音とお嬢様の悲鳴が聞こえましたが!」
「ここを開けていただけますでしょうか、お嬢様っ!」
私は深呼吸をして、さも何気ない様子で、レイトンたちに教えた。
「なんでもないのよ。ルイと長椅子で飛ぶ練習をしていたの」
「まあ、ほどほどにしてくださいましね」
「そうでございます、ルイ様にどうぞよろしくお伝え頂きたのですが、夜分もう遅いですので、紳士はお帰りになる時間かと思います」
レイトンたちは口々に安堵の滲み出る声音で、扉の向こうから私に声をかけてきた。
「ありがとう、大丈夫なのだから、あなたたちは今日はもう休んで大丈夫よ」
私は穏やかな声でそう伝えた。魔力で書斎の声が外に漏れないように封じ込めた。アルベルト王太子は尻餅をついた状態で、私を呆然と見つめている。
「ディアーナ……?君は本当に……この若造に?うそだっ!君は俺に惚れていたはずだろう?君は最高の女性だ。俺が間違っていたんだ。だから本当に謝る。俺は君のことを愛していて、結婚するなら君しかいないと思っていた。俺のしたことは……その……本当に最低だった。二度としない」
『君は俺に惚れていたはずだろう?』
その言葉で身を切られるような切なさが溢れた。目の奥から熱い涙が込み上げてきて、私は唇が震えるのを感じた。
――ダメだ。だめだめ。泣いてはだめ!
私は拳をぎゅっと握りしめて耐えようとしたが、小さな嗚咽が漏れて、後ろを振り返って、アルベルト王太子から顔が見えないように隠そうとした。
――私が自分に心底惚れていると知っていながら、私の親友のエミリーをあんな風に嬉しそうに抱いたのね。あの侍女とあんなことをして積極的に激しく楽しんだのね。私が……私があなたのことを愛しているのを知っていながら……。
私は情けなくて、あまりの侮辱に、思わずそのまま死にたいと思った。
「俺がこれからたっぷり抱いてあげるから。もし、他の女性にしたことで君が激怒しているなら……俺がやったことは本当に最低だけれど、君を大切にするから。これからは君だけを抱くから」
その言葉を聞いた私は、思わず氷の貴公子と呼ばれるアルベルト王太子が前髪をかきあげて立ち上がった所に駆け寄って、往復ビンタをくらわそうとした。だが、ルイの方が早かった。ルイはアルベルト王太子の胸ぐらを左手で掴んで、右手でパンチをした。
「お前ごときに抱けると思うなっ!彼女は遥かに尊い存在だ。彼女が相手を決めることだっ!」
ルイはそう冷たく言い放った。ギラギラとした碧い瞳が殺意を抱いたように鋭く光っている。
私はそのままルイを抱きしめた。そして、ルイにパンチを受けた頬を押さえてかがみ込んで呻いているアルベルト王太子を振り返り、彼を魔力で壁際に押しやって壁から動けなくした。
「私が愛しているのはルイよ。あなたではないわ」
私はルイを抱きしめたまま、アルベルト王太子に言った。
「私はあなたのものではないの。諦めてくださる?」
そのまま、私はアルベルト王太子が絶叫したくなることをやろうと決めた。
仕返しだ。
「ルイ、婚約の指輪を受け取るわ。なるべく早く式をあげたいの」
私はそうルイに囁いて、煌めくルイの瞳にうなずいた。私たちは口付けを交わした。ルイはポケットから婚約指輪を取り出した。南アフリカで発見された美しいダイヤの中の一つだろう。ルイが私のワイン色の髪を撫で付け、キスをして、私の指にダイヤが煌めく指輪をはめた。
「ディアーナ、結婚しよう。生涯君一人を愛し続けるよ」
ルイは私を抱き締めて誓った。
私も「あなたを愛し続けるわ」と囁いた。
私は揉み合う二人の間に割って入ろうとした。そのままアルベルト王太子はルイを離さなかったので、アリス・スペンサー邸宅の暖炉に向かって体が吹き飛んだ。私の力が無意識に働いてしまったようだ。
「なっ……なんという力だ……今のは君の力か?それとも……ディアーナ、君かぁ?」
私は唇を噛み締めて、暖炉の前で尻餅をついているアルベルト王太子を見つめた。氷の貴公子と呼ばれるブロンドの髪に青い瞳のアルベルト王太子は、今だって素晴らしい美貌に違いない。それなのに、私の心は恋心より、切ない悔しさの方が勝っているように思う。
「……ルイに手を出さないで」
私はアルベルト王太子に静かに告げた。尻餅をついても氷の貴公子の美しい風貌は変わらない。でも、私の心の中では、私の隣で怒りを含んだ瞳でアルベルト王太子を睨んでいる18歳のルイの方に怪我があってはならないという思いでいっぱいだった。
騒ぎが聞こえてしまったらしく、執事のレイトンとメイドのテレサとミラがアリス・スペンサー邸宅の書斎の前に駆けつけてきた。彼らは心配そうな声をあげて書斎の扉を激しくノックした。
「お嬢様っ!ご無事ですか?」
「何事でしょう?すごい物音とお嬢様の悲鳴が聞こえましたが!」
「ここを開けていただけますでしょうか、お嬢様っ!」
私は深呼吸をして、さも何気ない様子で、レイトンたちに教えた。
「なんでもないのよ。ルイと長椅子で飛ぶ練習をしていたの」
「まあ、ほどほどにしてくださいましね」
「そうでございます、ルイ様にどうぞよろしくお伝え頂きたのですが、夜分もう遅いですので、紳士はお帰りになる時間かと思います」
レイトンたちは口々に安堵の滲み出る声音で、扉の向こうから私に声をかけてきた。
「ありがとう、大丈夫なのだから、あなたたちは今日はもう休んで大丈夫よ」
私は穏やかな声でそう伝えた。魔力で書斎の声が外に漏れないように封じ込めた。アルベルト王太子は尻餅をついた状態で、私を呆然と見つめている。
「ディアーナ……?君は本当に……この若造に?うそだっ!君は俺に惚れていたはずだろう?君は最高の女性だ。俺が間違っていたんだ。だから本当に謝る。俺は君のことを愛していて、結婚するなら君しかいないと思っていた。俺のしたことは……その……本当に最低だった。二度としない」
『君は俺に惚れていたはずだろう?』
その言葉で身を切られるような切なさが溢れた。目の奥から熱い涙が込み上げてきて、私は唇が震えるのを感じた。
――ダメだ。だめだめ。泣いてはだめ!
私は拳をぎゅっと握りしめて耐えようとしたが、小さな嗚咽が漏れて、後ろを振り返って、アルベルト王太子から顔が見えないように隠そうとした。
――私が自分に心底惚れていると知っていながら、私の親友のエミリーをあんな風に嬉しそうに抱いたのね。あの侍女とあんなことをして積極的に激しく楽しんだのね。私が……私があなたのことを愛しているのを知っていながら……。
私は情けなくて、あまりの侮辱に、思わずそのまま死にたいと思った。
「俺がこれからたっぷり抱いてあげるから。もし、他の女性にしたことで君が激怒しているなら……俺がやったことは本当に最低だけれど、君を大切にするから。これからは君だけを抱くから」
その言葉を聞いた私は、思わず氷の貴公子と呼ばれるアルベルト王太子が前髪をかきあげて立ち上がった所に駆け寄って、往復ビンタをくらわそうとした。だが、ルイの方が早かった。ルイはアルベルト王太子の胸ぐらを左手で掴んで、右手でパンチをした。
「お前ごときに抱けると思うなっ!彼女は遥かに尊い存在だ。彼女が相手を決めることだっ!」
ルイはそう冷たく言い放った。ギラギラとした碧い瞳が殺意を抱いたように鋭く光っている。
私はそのままルイを抱きしめた。そして、ルイにパンチを受けた頬を押さえてかがみ込んで呻いているアルベルト王太子を振り返り、彼を魔力で壁際に押しやって壁から動けなくした。
「私が愛しているのはルイよ。あなたではないわ」
私はルイを抱きしめたまま、アルベルト王太子に言った。
「私はあなたのものではないの。諦めてくださる?」
そのまま、私はアルベルト王太子が絶叫したくなることをやろうと決めた。
仕返しだ。
「ルイ、婚約の指輪を受け取るわ。なるべく早く式をあげたいの」
私はそうルイに囁いて、煌めくルイの瞳にうなずいた。私たちは口付けを交わした。ルイはポケットから婚約指輪を取り出した。南アフリカで発見された美しいダイヤの中の一つだろう。ルイが私のワイン色の髪を撫で付け、キスをして、私の指にダイヤが煌めく指輪をはめた。
「ディアーナ、結婚しよう。生涯君一人を愛し続けるよ」
ルイは私を抱き締めて誓った。
私も「あなたを愛し続けるわ」と囁いた。
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