【完結】最愛の王子様。未来が予知できたので、今日、公爵令嬢の私はあなたにフラれに行きます。理由は私に魔力がありすぎまして、あなたは要らない。

西野歌夏

文字の大きさ
上 下
19 / 64
第二章 恋(もうあなたに騙されません)

自称頭脳派 ロミィSide

しおりを挟む
ゴビンタン砂漠のアリス・スペンサー邸宅の図書室、1967年6月21日夜。ロミィ・ロクセンハンナ11歳の心の内。
**********


 小学校では、揃いのセーラーハットにジム・チュニックを着てクロッケーやアーチェリーをする体育の授業が今日はあったはずだ。

 今日、サボった代償は大きいかもしれない。私はクロッケーもアーチェリーも得意で、ライバルのイボンヌを打ち負かすために毎回体育の授業は張り切って受けていた。実に惜しい。今日は、イボンヌの天下だっただろう。

 ――それにしても。兄様ったら、女神さまに夢中だわ。

 『時を操る闇の書』と言う物騒な本を手に入れようと考えついたのは、私だ。私はロミィ、ザックリードハルトの11歳の皇女だ。ロクセンハンナ家の末裔としては最年少だ。母を死ななかったことにしたいと言う危険な野望を持つ。周りの皆は私のことを無害な11歳だと思っているが、断じてそんなことはない。

 私はロクセンハンナ一族の中ではダントツの危険な思考の持ち主だ。

 私の計画に、一つ上の兄である12歳のアダムが乗ってきたのは二ヶ月前だ。私とアダムが決死の覚悟でやると計画を打ち明けたら、18歳の皇太子である兄のルイも話に乗ってきた。

 エイノトリートフロレンス、略してエイトレンスのブランドン公爵令嬢のディアーナ姉様に、命からがら逃げてきたところを救われたから良かったものの、おそらく今日、ロクセンハンナ家の滅亡が確定するところだったはずだ。

 ――ディアーナ姉様が助けてくれなければ、多分、私たち兄妹は死んでいたわ。
 
 助けてもらったのだから、感謝はしている。だが、死者を甦らせるという危険な思想を姉様に打ち明けていいのか、正直迷う。

 ――庭師のピエール爺さまの言葉を借りれば、「おったまげる」と言いたくなるぐらいに、恐怖の思想だと思われるだろう。

 ここは一つ黙っておこう。

 ――ディアーナ姉様。勘違いしないで欲しい。私はただ、お母様にもう一度会いたいだけなのだ。

 家宝の魔法の長椅子が戻れる時間はあまり計算できない。だから、一人で過去に戻ることは、私たち兄妹の間でも禁止事項だ。裏切り者は許されず、一人で抜け駆けして母に会おうとするのも絶対にダメだ。

『時を操る闇の書』で母に会うだけでなく、母を生き返らせたい。母が死ぬ運命を過去に戻って阻止したい。それが私の願いだ。

「でも、この計画に、あれほど力強い魔力を持つ義理の姉が参加したら、素晴らしいことこの上ないわ」

 私はひとりごとをつぶやいた。

 ――私の願いは、もしかしたら実現するかもしれない。だって、見てよ、このディアーナ姉様のアリス叔母邸宅を。

 ――死の砂漠にありながら、家の中は涼しくて快適だし、トイレも最新式だし、シャワーも完備しているし、今朝一人で姉様はこの家を運んできたと言ったけれど、こんなの見たことないわ。こんな力を持つ人が世の中に存在するなんて、本当に信じられない!

「私はルイ兄様を応援することに決めたわ。次期皇帝だと、うっかりいきなり明かして引かれないようにしなきゃね。秘密を明かすタイミングはよく練らないと。ディアーナ姉様とルイ兄様が結婚すれば、私の計画の実現性が高まるわ」

 私は11歳ながら、ロクセンハンナ家の末裔の中では、一番の頭脳派だと自負している。

 兄が一目惚れしたらしい、ディアーナ・ブランドン嬢と兄の結婚を後押しすることに決めた。


 ――それにしても兄様ったら、11歳の私が見ても分かりやすかったわ。

「ディアーナ姉様は傷心のようだし、兄様ぐらい分かりやすくアピールした方がこの場合は良いかもしれない。大型犬並みに気持ちを分かりやすく表現する方がこの場合は有利なのかもしれない。11歳の私にはよく分からないけれど」

 私は腕組みをして、目の前の「不思議の国のアリス」の本を見つめた。

 私はこのままこの路線で行こう。11歳らしく無邪気な小学生のイメージを貫こう。そして、ルイ兄様とディアーナ姉様の婚約を実現させよう。

 私は今日会ったばかりのディアーナ・ブランドン侯爵令嬢について好感を持った。ザックリードハルトの皇帝の妃に相応しい力の持ち主だ。

 ――エイトレンスのアルベルト王太子には、二度とディアーナ姉様を返してやらない。

 ――11歳の無邪気パワーを思い知るが良いわ。 

 ――ざまあみろ、アルベルト王太子、ロクセンンハンナ家一の頭脳派の戦略にかかれば、あなたなどお呼びではないと思うわ。

 私は明日小学校で、今日の体育の授業でいかにイボンヌが活躍できたかを聞かされることを思ってイライラしたが、隣国のアルベルト王太子から完全にディアーナ姉様を遠ざけることを心に誓ったおかげで、気分が完璧に晴れたのだ。

 私の頭脳派としての実力を遺憾無く発揮して、ルイ兄様とディアーナ姉様を婚約させるのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。 嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。 イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。 娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

処理中です...