11 / 64
第一章 死に戻りからの婚約破棄と出会い
女神 ルイSide(1)
しおりを挟む
1867年6月20日、ザックリードハルト宮殿、ルイ・ジョージ・ロクセンハンナの動き。
「我々がルイ様に願うことはただ一つ。皇帝の息子である自覚をお持ちになり、もっと慎重な行動をとっていただきたいのです」
今日のダニエルの説教も長い。俺はあくびを噛み殺して、神妙な表情を保った。早く説教から逃れる必要がある。教育係のダニエルは、三十代ながら熱心な愛国者で、俺の教育補佐を担当することに生きがいを感じているタイプだ。彼の熱心な説教はあと何分続くだろう。早く終わって欲しい。
今日の計画は、弟と妹とやり遂げなければならないものだ。俺がいかなければ、あの二人は我慢できずに勝手に実行に移してしまうだろう。
全員が小学校に行く時代だ。皇帝の息子だからといって遊んで暮らせるわけではない。いつクーデターが起こるか分からない世の中で、皇帝の地位が安泰な訳がない。勤勉に広く学び、来たる自分の番に備える必要がある。
我が国に貧しい家の子がいないわけでもない。社会はまだ不安定で、労働者たちは苦しさに耐えている。
18歳の俺は、ルイ・ジョージ・ルクセンハンナだ。つまり、ルクセンハンナ家の末裔だ。皇帝の八男でしかなかった父が、先の皇帝が処刑されたのに端を欲した騒乱で皇帝の座につき、気づけば俺は次代の皇帝になると正式に認定された。
血筋からすれば、俺は確かに次代の皇帝だ。だが、俺にはもっと為すべきことがあるように思えて仕方がない。
12歳の弟アダムと11歳の妹ロミィがやりたいことはただ一つ。亡くなった母を救うこと。そのために、アダムとロミィはあり得ない力を欲している。
王立魔術大学は、ちょっとした魔力を扱える者を入学させている。しかし、皆に大きな魔力があるわけでもないし、教授にもあるわけでもない。産業革命が進むにつれて、魔力のある者が生まれること自体が減っているのだ。
憲法、数学、土地管理法、刑法、民法、経済、公衆衛生法、外交政策、農業、そういった一般の大学と変わらない教科が主となっている。
我が家系には代々伝わる家宝があった。家宝の中に、魔法の長椅子が2つある。ただし、それを操れる者はごく僅かだ。父も操れず、祖父も操れなかった。俺は八代ぶりに生まれた魔法の長椅子の操作者で、ブルクトゥアタと呼ばれる特殊な能力を有していた。妹と弟も操れた。
飛ぶ長椅子を皇帝の世継ぎが操作できることは秘密だ。長椅子を操作できるものが長い期間現れなかったために、長椅子の存在自体が架空の作り話だと思われている世に、改めて魔法の長椅子が実在すると広める必要はない。ダニエルですら知らない事実だ。
「分かりました。反省しています」
俺は神妙な顔をダニエルに向けた。反省している表情を保つ。
「いいでしょう、今後決してこのようなことがないように」
もはや何で怒られているのか、何で説教されているのか俺の頭の中は分からなくなっていたが、ダニエルから許してくれた雰囲気を感じ取ってほっとした。
ダニエルが静かに部屋を出ていくと、俺は素早く窓の外に出た。下の階のバルコニーに飛び降りちい、すぐさま地下にある秘密の部屋に急いだ。12歳の弟アダムと11歳の妹ロミィは学校の既定通りに長い髪を三つ編みにしたままで待っていた。二人とも王立魔術小学校に通っているのだ。今日は全身黒装束だ。
隣国の王立魔術博物館に忍び込むのだから、目立たないようにして全身黒づくめの衣装にしたのだろう。俺は二人がこっそり父の書斎から持ち出してきた地下の秘密の部屋の鍵を開けた。ここには何度もこっそり来たことがあるが、父を始め、そのことを知っている者はいない。
これから長椅子の力を使って兄弟3人で盗み出すのは禁書だ。
『時を操る闇の書』
閲覧禁止の書が隣国の王立魔術博物館にある。これを解読できるのは、選ばれし者のみだ。ルクセンハンナ家の末裔でブルクトゥアタであるという世にも珍しい能力を有する俺たち兄弟3人ならば、闇の禁書を解読できるのではないかとアダムとロミィが持ちかけてきたのは2ヶ月前のことだ。
俺たち兄弟は隣国の王立魔術博物館の見取り図を何度も確認して、頭の中に叩き込んだ。盗んだ後は、追手が追えないところまで一気に逃げる必要がある。隣国の闇の禁書を俺たちが盗んだとバレたら、外交問題に発展するはずだ。バレないように素早く事を実行する必要があった。
この2ヶ月の間、準備に準備を重ねた。俺が長椅子を使って隣国を偵察した。宮殿に忍び込み、国王や王妃や王太子の様子を観察したり、王立魔術博物館の警備の様子を確認したり、さまざまな諜報活動を行なった。
王太子の秘密を知ったのはこの時だ。弟や妹には、隣国の王立魔術博物館への最短飛行ルートと、警備の話しかしていない。
俺が把握できた限り、アルベルト王太子にはブランドン公爵令嬢の長女という19歳の令嬢が恋人として存在したが、裏では彼には既に2人も愛人がいた。
「我々がルイ様に願うことはただ一つ。皇帝の息子である自覚をお持ちになり、もっと慎重な行動をとっていただきたいのです」
今日のダニエルの説教も長い。俺はあくびを噛み殺して、神妙な表情を保った。早く説教から逃れる必要がある。教育係のダニエルは、三十代ながら熱心な愛国者で、俺の教育補佐を担当することに生きがいを感じているタイプだ。彼の熱心な説教はあと何分続くだろう。早く終わって欲しい。
今日の計画は、弟と妹とやり遂げなければならないものだ。俺がいかなければ、あの二人は我慢できずに勝手に実行に移してしまうだろう。
全員が小学校に行く時代だ。皇帝の息子だからといって遊んで暮らせるわけではない。いつクーデターが起こるか分からない世の中で、皇帝の地位が安泰な訳がない。勤勉に広く学び、来たる自分の番に備える必要がある。
我が国に貧しい家の子がいないわけでもない。社会はまだ不安定で、労働者たちは苦しさに耐えている。
18歳の俺は、ルイ・ジョージ・ルクセンハンナだ。つまり、ルクセンハンナ家の末裔だ。皇帝の八男でしかなかった父が、先の皇帝が処刑されたのに端を欲した騒乱で皇帝の座につき、気づけば俺は次代の皇帝になると正式に認定された。
血筋からすれば、俺は確かに次代の皇帝だ。だが、俺にはもっと為すべきことがあるように思えて仕方がない。
12歳の弟アダムと11歳の妹ロミィがやりたいことはただ一つ。亡くなった母を救うこと。そのために、アダムとロミィはあり得ない力を欲している。
王立魔術大学は、ちょっとした魔力を扱える者を入学させている。しかし、皆に大きな魔力があるわけでもないし、教授にもあるわけでもない。産業革命が進むにつれて、魔力のある者が生まれること自体が減っているのだ。
憲法、数学、土地管理法、刑法、民法、経済、公衆衛生法、外交政策、農業、そういった一般の大学と変わらない教科が主となっている。
我が家系には代々伝わる家宝があった。家宝の中に、魔法の長椅子が2つある。ただし、それを操れる者はごく僅かだ。父も操れず、祖父も操れなかった。俺は八代ぶりに生まれた魔法の長椅子の操作者で、ブルクトゥアタと呼ばれる特殊な能力を有していた。妹と弟も操れた。
飛ぶ長椅子を皇帝の世継ぎが操作できることは秘密だ。長椅子を操作できるものが長い期間現れなかったために、長椅子の存在自体が架空の作り話だと思われている世に、改めて魔法の長椅子が実在すると広める必要はない。ダニエルですら知らない事実だ。
「分かりました。反省しています」
俺は神妙な顔をダニエルに向けた。反省している表情を保つ。
「いいでしょう、今後決してこのようなことがないように」
もはや何で怒られているのか、何で説教されているのか俺の頭の中は分からなくなっていたが、ダニエルから許してくれた雰囲気を感じ取ってほっとした。
ダニエルが静かに部屋を出ていくと、俺は素早く窓の外に出た。下の階のバルコニーに飛び降りちい、すぐさま地下にある秘密の部屋に急いだ。12歳の弟アダムと11歳の妹ロミィは学校の既定通りに長い髪を三つ編みにしたままで待っていた。二人とも王立魔術小学校に通っているのだ。今日は全身黒装束だ。
隣国の王立魔術博物館に忍び込むのだから、目立たないようにして全身黒づくめの衣装にしたのだろう。俺は二人がこっそり父の書斎から持ち出してきた地下の秘密の部屋の鍵を開けた。ここには何度もこっそり来たことがあるが、父を始め、そのことを知っている者はいない。
これから長椅子の力を使って兄弟3人で盗み出すのは禁書だ。
『時を操る闇の書』
閲覧禁止の書が隣国の王立魔術博物館にある。これを解読できるのは、選ばれし者のみだ。ルクセンハンナ家の末裔でブルクトゥアタであるという世にも珍しい能力を有する俺たち兄弟3人ならば、闇の禁書を解読できるのではないかとアダムとロミィが持ちかけてきたのは2ヶ月前のことだ。
俺たち兄弟は隣国の王立魔術博物館の見取り図を何度も確認して、頭の中に叩き込んだ。盗んだ後は、追手が追えないところまで一気に逃げる必要がある。隣国の闇の禁書を俺たちが盗んだとバレたら、外交問題に発展するはずだ。バレないように素早く事を実行する必要があった。
この2ヶ月の間、準備に準備を重ねた。俺が長椅子を使って隣国を偵察した。宮殿に忍び込み、国王や王妃や王太子の様子を観察したり、王立魔術博物館の警備の様子を確認したり、さまざまな諜報活動を行なった。
王太子の秘密を知ったのはこの時だ。弟や妹には、隣国の王立魔術博物館への最短飛行ルートと、警備の話しかしていない。
俺が把握できた限り、アルベルト王太子にはブランドン公爵令嬢の長女という19歳の令嬢が恋人として存在したが、裏では彼には既に2人も愛人がいた。
54
お気に入りに追加
287
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】追い詰められた悪役令嬢、崖の上からフライング・ハイ!
采火
ファンタジー
私、アニエス・ミュレーズは冤罪をかけられ、元婚約者である皇太子、義弟、騎士を連れた騎士団長、それから実の妹に追い詰められて、同じ日、同じ時間、同じ崖から転落死するという人生を繰り返している。
けれどそんな死に戻り人生も、今日でおしまい。
前世にはいなかった毒舌従者を連れ、アニエスの脱・死に戻り人生計画が始まる。
※別サイトでも掲載中
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」
***
ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。
しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。
――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。
今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。
それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。
これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。
そんな復讐と解放と恋の物語。
◇ ◆ ◇
※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。
さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。
カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。
※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。
選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。
※表紙絵はフリー素材を拝借しました。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる