【完結】最愛の王子様。未来が予知できたので、今日、公爵令嬢の私はあなたにフラれに行きます。理由は私に魔力がありすぎまして、あなたは要らない。

西野歌夏

文字の大きさ
上 下
8 / 64
第一章 死に戻りからの婚約破棄と出会い

ナイトドレス(2)

しおりを挟む
 私の声に、執事を初めとする3人が口々に応えてくれた。

「かしこまりました!お嬢様!」
「わかりました、つかまりましたわ!」
「私も大丈夫です!」

 私は客室の中に入ると床に書いた八芒星の中に飛び込んだ。白ワインのグラスをグッとあおるように飲み、パンをかじった。

 グラスを床に置き、八芒星の中に仁王立ちをした。大切な護符を両手で包み込み、目をつぶって念じて、八芒星の真ん中に置かれたマカバスターに力を注ぎ込んだ。

 家が消えたのが分かった。そのままゴビンタン砂漠の座標軸まで家が進んでいるのを感じる。ふっと体が軽くなり、高速で体の周りで何かが動く気配がして、すぐにじわっと浮き上がるように私の周りに家が現れた。元の家の様子と全く同じで、私はアリス叔母の家の客室に立っていた。

 足元の床には八芒星が描かれたままだ。

 私は喉の奥がカラカラだった。

「みんな、平気かしら?」

 私は階下にいるはずの3人に大声で声をかけた。

「皆、大丈夫でございますっ!」

 執事のレイトンの声がした。

 ――よしっ!成功できたようだわ。

 私はそのまま八芒星を飛び出し、靴をはいてガウンを羽織った。そして階下まで一気に階段を駆け降りて、玄関を開けた。

 玄関の扉の向こうは、どこまでも続く砂漠だった。左手にオアシスがある。そうだ、だから私はこの座標軸にアリス叔母の家を移動させたのだ。

「成功よ」

 私は小さくつぶやいた。執事のレイトンが私の後ろにやってきて、テレサもミラもやってきて、私たち4人はしばらく呆然と一面に広がる砂漠の景色を見つめていた。

「お嬢様っ、さすがでございます」
「本当ですわっ!」
 
 テレサとミラは涙声で言い合い、抱き合った。

 だが、果たして偶然だったのか必然だったのか、もはや私には分からないのだが、次の瞬間に予想もつかない出来事が起きた。

 私が玄関の扉から砂漠に一歩踏み出した。すると、「ドンっ!」と大量の砂塵を巻き上げて、空から灼熱の砂漠に落ちてきたものがあった。

「きゃあっ!」

 テレサとミラは悲鳴をあげたが、私はその落下物に向かって思わず走っていた。頭の中にあったのは、アルベルト王太子がここまで追ってきたのか?ということだった。

「お嬢様っ!お待ちをっ!」

 執事のレイトンは駆け出した私を止めようとして、私の後ろから走ってきた。

 アリス・スペンサーの邸宅は無事にゴビンタン砂漠への移動に成功した。その成功とほぼ同タイミングでアリス・スペンサー宅の前に落下したのは、長椅子と、その長椅子にまたがって乗っていた若い青年だった。

 彼は砂が大量についた状態の髪の間から、透き通るような瞳で私を見て、「女神?」とつぶやいて私に聞いた。そして私があっけに取られて無言でいると、そのまま気を失ったのだ。


 続けてさらに空から灼熱の砂漠に長椅子がもう一つ落ちてきた。青年より若いように見える二人がその長椅子には乗っていた。

 彼らは二人とも気を失っているようだった。



 私たちの出会いは、この日、衝撃的な形で実現したのだ。それは1867年6月21日、ヴィクトリア女王の治める大英帝国より、少し距離のある世界で起きたことだった。
 
 アルベルト王太子に別れを告げた私は、ゴビンタン砂漠に追放された。砂漠は思うより辛い場所で、思ったより楽しい場所だったかもしれない。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】追い詰められた悪役令嬢、崖の上からフライング・ハイ!

采火
ファンタジー
私、アニエス・ミュレーズは冤罪をかけられ、元婚約者である皇太子、義弟、騎士を連れた騎士団長、それから実の妹に追い詰められて、同じ日、同じ時間、同じ崖から転落死するという人生を繰り返している。 けれどそんな死に戻り人生も、今日でおしまい。 前世にはいなかった毒舌従者を連れ、アニエスの脱・死に戻り人生計画が始まる。 ※別サイトでも掲載中

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...