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第四章 幸せに
ハーブスブートの宮殿の朝(2) ヴァイオレットSide
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ヒューは躊躇いがちに、エリオットの顔をチラッと見て告白した。
「母の形見の指輪だけど……君にあげたダイヤの指輪があっただろう?」
「ええ。あちらの世界にまだ置いてきているわ」
私はハッとしてヒューを見つめた。そうだ、バタバタに乗じてあれほど大切なものをまだ返していなかったのだ。
「そうだ。君にあちらの世界であげた」
ヒューはうなずいた。これについてはエリオットも「その現場には僕もいたし、知っているから大丈夫だよ」とキッパリ言った。過去のこととして彼は割り切っている。
「君が異世界転生させた君の亡くなった母親は、アパートの大家さんだったんだ。そんなに驚かないで。ほら……いつも温かく君を見守ってくれていたよね。エリオットの母はなんと、君たちの大学のフランス語の大塚教授だった。二人が言うには、その前に亡くなっていた僕の母もゼルニエ公爵夫人に殺められたようだということなんだ。あのダイヤの指輪を見た二人が、突然思い出したんだ。当時は誰が母を殺したのか不明だったが、確かに直前に母に食べ物を勧めた人物が複数いて、その中にゼルニエ侯爵夫人がいたと言うんだ」
えぇっ!
「あの指輪を見た二人が、この状況から考えるとゼルニエ公爵夫人が僕の母を殺したので間違いないと言ったんだ。母は毒殺されたが、犯人が不明だったんだ。君が幸せの絶頂で油断している時が狙われるだろうと、二人が僕に言ったんだ。だから、僕らは君の結婚式翌日の記念すべき朝食の時間に、やってきたんだ。君なら何があっても大丈夫だと信じていたけれど、僕らは君のそばにいたかったんだ」
私はヒューの顔を見つめた。元彼は素晴らしかった。元婚約者は一度目は私を信じなかったが、もうそんなことはないようだった。
「分かると思うけど、マイセンの食器は大塚教授からの差し入れで、この特別な黄色い美しい花は大家さんからの差し入れだ。ここにあるものは、二人の母君からの差し入れも含まれているんだ。君たちの結婚をとても喜んでくれている。ハープスブートの新君主にエリオットが就いたことも祝福してくれているよ」
ヒューの言葉に私は胸がいっぱいになった。
私はゆっくりとアルフレッド、サミュエル、魔導師ジーニン、ヒューと見つめた。涙がまた込み上げてくる。肩が震えてくる。エリオットの碧い瞳も涙に濡れていた。
「ありがとう」
言葉にならない感謝の思いが溢れた。
一つ。私は自分の力をパニック常態の土壇場でも発揮できるようになった。二つ目。仲間を信じて頼ることができたようだ。仲間を信じることができたから、最後まで諦めずに命が助かるためにもがくことができたと言えるのかもしれない。
綺麗なことばかりではないこの世で、どうやら私は幸せな力を手に入れたようだ。
ハープスブートの宮殿の窓から、青い空に浮かぶ白い雲が見えた。向こうの空のようだ。世界は繋がっているようだ。このどこかに私の大切な人たちがいる。そう思えて、嬉しさで心が震えた。
ひとりよがりの聖女は卒業しよう。未熟な私にも光が舞い降りてくれたようだった。
「母の形見の指輪だけど……君にあげたダイヤの指輪があっただろう?」
「ええ。あちらの世界にまだ置いてきているわ」
私はハッとしてヒューを見つめた。そうだ、バタバタに乗じてあれほど大切なものをまだ返していなかったのだ。
「そうだ。君にあちらの世界であげた」
ヒューはうなずいた。これについてはエリオットも「その現場には僕もいたし、知っているから大丈夫だよ」とキッパリ言った。過去のこととして彼は割り切っている。
「君が異世界転生させた君の亡くなった母親は、アパートの大家さんだったんだ。そんなに驚かないで。ほら……いつも温かく君を見守ってくれていたよね。エリオットの母はなんと、君たちの大学のフランス語の大塚教授だった。二人が言うには、その前に亡くなっていた僕の母もゼルニエ公爵夫人に殺められたようだということなんだ。あのダイヤの指輪を見た二人が、突然思い出したんだ。当時は誰が母を殺したのか不明だったが、確かに直前に母に食べ物を勧めた人物が複数いて、その中にゼルニエ侯爵夫人がいたと言うんだ」
えぇっ!
「あの指輪を見た二人が、この状況から考えるとゼルニエ公爵夫人が僕の母を殺したので間違いないと言ったんだ。母は毒殺されたが、犯人が不明だったんだ。君が幸せの絶頂で油断している時が狙われるだろうと、二人が僕に言ったんだ。だから、僕らは君の結婚式翌日の記念すべき朝食の時間に、やってきたんだ。君なら何があっても大丈夫だと信じていたけれど、僕らは君のそばにいたかったんだ」
私はヒューの顔を見つめた。元彼は素晴らしかった。元婚約者は一度目は私を信じなかったが、もうそんなことはないようだった。
「分かると思うけど、マイセンの食器は大塚教授からの差し入れで、この特別な黄色い美しい花は大家さんからの差し入れだ。ここにあるものは、二人の母君からの差し入れも含まれているんだ。君たちの結婚をとても喜んでくれている。ハープスブートの新君主にエリオットが就いたことも祝福してくれているよ」
ヒューの言葉に私は胸がいっぱいになった。
私はゆっくりとアルフレッド、サミュエル、魔導師ジーニン、ヒューと見つめた。涙がまた込み上げてくる。肩が震えてくる。エリオットの碧い瞳も涙に濡れていた。
「ありがとう」
言葉にならない感謝の思いが溢れた。
一つ。私は自分の力をパニック常態の土壇場でも発揮できるようになった。二つ目。仲間を信じて頼ることができたようだ。仲間を信じることができたから、最後まで諦めずに命が助かるためにもがくことができたと言えるのかもしれない。
綺麗なことばかりではないこの世で、どうやら私は幸せな力を手に入れたようだ。
ハープスブートの宮殿の窓から、青い空に浮かぶ白い雲が見えた。向こうの空のようだ。世界は繋がっているようだ。このどこかに私の大切な人たちがいる。そう思えて、嬉しさで心が震えた。
ひとりよがりの聖女は卒業しよう。未熟な私にも光が舞い降りてくれたようだった。
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