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第三章 囚われの身から幸せへ
奪還 ヴァイオレットSide
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暗く冷たい地下牢で、絶望して窓を見上げていた事を思い出す。前回の人生の最後は悲惨なものだった。大好きなヒューは私の話を一切聞いてくれなかった。彼が信じたのは、マルグリッドやおそらくシャーロットおばさまやカール・ハンリヒ大帝とその弟のルノーが仕込んだ醜い噂の方だった。
私に婚約破棄を告げたヒューの顔を忘れることができない。忘れられたらどんなに良いのにと思う。でも、私の事を信じて一緒に進める人でなければ、私はやはりだめだ。
心を鍛える必要はある。動じない、聖女としてプロとして力を発揮することができる必要はある。
でも、裏切った人をもう一度信じ切ることができるかというと、信じることはできても、最愛の人にはなり得ないという予感がある。私の心は、たびたび処刑の瞬間を思い出して沈むから。
答えは出た。愛については自分の心に素直に従おう。
私はカール大帝の宮殿で待ちくたびれた様子のソフィー妃と愛人ジゼルの目の前に現れた。
二人はヤキモキしながら私を待っていたようだ。
「早くこっちよ」
「あなた遅すぎですよ。やきもきしたじゃないの」
「ごめんなさい」
「行きますよ。静かに移動してね」
「カトリーヌ、マルグリッドとそこで待っていてくださる?」
「いいわ」
カトリーヌはマルグリッドをジロリと一瞥しながら言った。妙な真似をしたら容赦しないわよと言った表情だ。マルグリッドは口をへの字にしておとなしくしていた。腕を縛られているし、足にもスルスルと縄が巻きついた。カトリーヌが念の為にしたのだろう。
私はソフィー妃に案内されて豪華な部屋に滑るように静かに忍びこんだ。ソファにシャーリーンの術師がひっくり返って寝ていた。
私はポケットから静かにスマホを取り出した。左手にスマホを構え、静かに唇に人差し指を当ててソフィー妃とジゼルに合図をした。彼女たちはそっと部屋を出て行った。
私は純斗と一緒に戻ってきた時に連写したスマホの写真を開いた。
『Lvl45913の術照射のスキルを使いますか?』
「使います」
右手をパッとスマホに向かって開くと、照射のスキルが発動されて、スマホの向こう側に移動術のコードが空気中に映し出しされた。静止したコードが空気中に浮かんで映し出された。
ゼルニエ侯爵夫人がマルグリッドを現代に送り込めたのは、私の力を使ったのだ。私の鍛え上げた力がそのまま悪用された。魔導師ジーニンの移動術のコードを利用したのは、皮肉なことに私の力だ。
空気中に照らし出された無数のコードを私はじっと見つめて、左手のスマホを動かさず、そのまま右手でソファにだらしなくひっくり返って眠っているシャーリンの術師の方に手を伸ばし、一気にぐいっと空気中に漂う移動術のコードに彼の影を投げ込むようにした。
『魔導師ジーニンの移動術のスキルを使いますか?』
「使います!」
シャーリンの男性術師はそのまま眠ったまま一瞬で姿を消した。私は彼が姿を消す瞬間に、剣にスマホを向けて、空気中のコードが絡め取ったシャーリーンの術師のスキルを根こそぎ吸い出した。すかさず、『聖フランセーズの防御の盾』と『聖ヴィクトワールの剣』に流し込んだ。
私を火炙りにした瞬間を忘れていない。彼の力はあってはならないものだ。
レキュール辺境伯エリオットがハープスブートのカール・ハンリヒ大帝を倒してハープスブートの王として戴冠するまでの数日間、シャーリーンの術師には現代に移動してもらった。
私は静かに『聖フランセーズの防御の盾』と『聖ヴィクトワールの剣』を手に、愛人ジゼルとソフィー妃が待つ広間まで戻った。
「シャーリーンの術師はどこ?」
愛人ジゼルが聞いてきた。
「しばらく7日間ほどは、遠いところでセミになっているわ」
反省したら死ぬ前にこちらの世界に戻るようにしておいた。
スキルを全て『聖フランセーズの防御の盾』と、『聖ヴィクトワールの剣』に吸い込んだので、もはや彼には何もできないはずだ。
この間にハープスブートの王座をエリオットに引き継ぐ。
私は前回処刑された意味を明確に知った。皆が恐れた事をやってのけよう。
この国をより明るい未来に変えるために、ハープスブートの王座をカール大帝からエリオットに移す。
明日の朝、カール大帝は目覚めたら死ぬほど驚くはずだ。ヒュー王子が亡くなるはずで、無理矢理連れてこられた聖女に会えると思ったら大間違いだ。
カール大帝は、聖女のかわりに大軍が陸と海からハープスブートの引き渡しを迫る事態に飛び上がるだろう。
私に婚約破棄を告げたヒューの顔を忘れることができない。忘れられたらどんなに良いのにと思う。でも、私の事を信じて一緒に進める人でなければ、私はやはりだめだ。
心を鍛える必要はある。動じない、聖女としてプロとして力を発揮することができる必要はある。
でも、裏切った人をもう一度信じ切ることができるかというと、信じることはできても、最愛の人にはなり得ないという予感がある。私の心は、たびたび処刑の瞬間を思い出して沈むから。
答えは出た。愛については自分の心に素直に従おう。
私はカール大帝の宮殿で待ちくたびれた様子のソフィー妃と愛人ジゼルの目の前に現れた。
二人はヤキモキしながら私を待っていたようだ。
「早くこっちよ」
「あなた遅すぎですよ。やきもきしたじゃないの」
「ごめんなさい」
「行きますよ。静かに移動してね」
「カトリーヌ、マルグリッドとそこで待っていてくださる?」
「いいわ」
カトリーヌはマルグリッドをジロリと一瞥しながら言った。妙な真似をしたら容赦しないわよと言った表情だ。マルグリッドは口をへの字にしておとなしくしていた。腕を縛られているし、足にもスルスルと縄が巻きついた。カトリーヌが念の為にしたのだろう。
私はソフィー妃に案内されて豪華な部屋に滑るように静かに忍びこんだ。ソファにシャーリーンの術師がひっくり返って寝ていた。
私はポケットから静かにスマホを取り出した。左手にスマホを構え、静かに唇に人差し指を当ててソフィー妃とジゼルに合図をした。彼女たちはそっと部屋を出て行った。
私は純斗と一緒に戻ってきた時に連写したスマホの写真を開いた。
『Lvl45913の術照射のスキルを使いますか?』
「使います」
右手をパッとスマホに向かって開くと、照射のスキルが発動されて、スマホの向こう側に移動術のコードが空気中に映し出しされた。静止したコードが空気中に浮かんで映し出された。
ゼルニエ侯爵夫人がマルグリッドを現代に送り込めたのは、私の力を使ったのだ。私の鍛え上げた力がそのまま悪用された。魔導師ジーニンの移動術のコードを利用したのは、皮肉なことに私の力だ。
空気中に照らし出された無数のコードを私はじっと見つめて、左手のスマホを動かさず、そのまま右手でソファにだらしなくひっくり返って眠っているシャーリンの術師の方に手を伸ばし、一気にぐいっと空気中に漂う移動術のコードに彼の影を投げ込むようにした。
『魔導師ジーニンの移動術のスキルを使いますか?』
「使います!」
シャーリンの男性術師はそのまま眠ったまま一瞬で姿を消した。私は彼が姿を消す瞬間に、剣にスマホを向けて、空気中のコードが絡め取ったシャーリーンの術師のスキルを根こそぎ吸い出した。すかさず、『聖フランセーズの防御の盾』と『聖ヴィクトワールの剣』に流し込んだ。
私を火炙りにした瞬間を忘れていない。彼の力はあってはならないものだ。
レキュール辺境伯エリオットがハープスブートのカール・ハンリヒ大帝を倒してハープスブートの王として戴冠するまでの数日間、シャーリーンの術師には現代に移動してもらった。
私は静かに『聖フランセーズの防御の盾』と『聖ヴィクトワールの剣』を手に、愛人ジゼルとソフィー妃が待つ広間まで戻った。
「シャーリーンの術師はどこ?」
愛人ジゼルが聞いてきた。
「しばらく7日間ほどは、遠いところでセミになっているわ」
反省したら死ぬ前にこちらの世界に戻るようにしておいた。
スキルを全て『聖フランセーズの防御の盾』と、『聖ヴィクトワールの剣』に吸い込んだので、もはや彼には何もできないはずだ。
この間にハープスブートの王座をエリオットに引き継ぐ。
私は前回処刑された意味を明確に知った。皆が恐れた事をやってのけよう。
この国をより明るい未来に変えるために、ハープスブートの王座をカール大帝からエリオットに移す。
明日の朝、カール大帝は目覚めたら死ぬほど驚くはずだ。ヒュー王子が亡くなるはずで、無理矢理連れてこられた聖女に会えると思ったら大間違いだ。
カール大帝は、聖女のかわりに大軍が陸と海からハープスブートの引き渡しを迫る事態に飛び上がるだろう。
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