【完結】世界転生バイトですが、裏切られて捨てられた公爵令嬢の聖女と私を煽てるあなたは恋愛詐欺師ですか?知りませんが、幸せな花嫁になるので!

西野歌夏

文字の大きさ
上 下
62 / 75
第三章 囚われの身から幸せへ

奪還 ヴァイオレットSide

しおりを挟む
 暗く冷たい地下牢で、絶望して窓を見上げていた事を思い出す。前回の人生の最後は悲惨なものだった。大好きなヒューは私の話を一切聞いてくれなかった。彼が信じたのは、マルグリッドやおそらくシャーロットおばさまやカール・ハンリヒ大帝とその弟のルノーが仕込んだ醜い噂の方だった。

 私に婚約破棄を告げたヒューの顔を忘れることができない。忘れられたらどんなに良いのにと思う。でも、私の事を信じて一緒に進める人でなければ、私はやはりだめだ。

 心を鍛える必要はある。動じない、聖女としてプロとして力を発揮することができる必要はある。

 でも、裏切った人をもう一度信じ切ることができるかというと、信じることはできても、最愛の人にはなり得ないという予感がある。私の心は、たびたび処刑の瞬間を思い出して沈むから。

 答えは出た。愛については自分の心に素直に従おう。



 私はカール大帝の宮殿で待ちくたびれた様子のソフィー妃と愛人ジゼルの目の前に現れた。

  二人はヤキモキしながら私を待っていたようだ。

「早くこっちよ」
「あなた遅すぎですよ。やきもきしたじゃないの」

「ごめんなさい」
「行きますよ。静かに移動してね」


「カトリーヌ、マルグリッドとそこで待っていてくださる?」
「いいわ」

 カトリーヌはマルグリッドをジロリと一瞥しながら言った。妙な真似をしたら容赦しないわよと言った表情だ。マルグリッドは口をへの字にしておとなしくしていた。腕を縛られているし、足にもスルスルと縄が巻きついた。カトリーヌが念の為にしたのだろう。

 私はソフィー妃に案内されて豪華な部屋に滑るように静かに忍びこんだ。ソファにシャーリーンの術師がひっくり返って寝ていた。

 私はポケットから静かにスマホを取り出した。左手にスマホを構え、静かに唇に人差し指を当ててソフィー妃とジゼルに合図をした。彼女たちはそっと部屋を出て行った。

 私は純斗と一緒に戻ってきた時に連写したスマホの写真を開いた。

『Lvl45913の術照射のスキルを使いますか?』
「使います」


 右手をパッとスマホに向かって開くと、照射のスキルが発動されて、スマホの向こう側に移動術のコードが空気中に映し出しされた。静止したコードが空気中に浮かんで映し出された。

 ゼルニエ侯爵夫人がマルグリッドを現代に送り込めたのは、私の力を使ったのだ。私の鍛え上げた力がそのまま悪用された。魔導師ジーニンの移動術のコードを利用したのは、皮肉なことに私の力だ。

 空気中に照らし出された無数のコードを私はじっと見つめて、左手のスマホを動かさず、そのまま右手でソファにだらしなくひっくり返って眠っているシャーリンの術師の方に手を伸ばし、一気にぐいっと空気中に漂う移動術のコードに彼の影を投げ込むようにした。

『魔導師ジーニンの移動術のスキルを使いますか?』
「使います!」

 シャーリンの男性術師はそのまま眠ったまま一瞬で姿を消した。私は彼が姿を消す瞬間に、剣にスマホを向けて、空気中のコードが絡め取ったシャーリーンの術師のスキルを根こそぎ吸い出した。すかさず、『聖フランセーズの防御の盾』と『聖ヴィクトワールの剣』に流し込んだ。

 私を火炙りにした瞬間を忘れていない。彼の力はあってはならないものだ。

 レキュール辺境伯エリオットがハープスブートのカール・ハンリヒ大帝を倒してハープスブートの王として戴冠するまでの数日間、シャーリーンの術師には現代に移動してもらった。

 私は静かに『聖フランセーズの防御の盾』と『聖ヴィクトワールの剣』を手に、愛人ジゼルとソフィー妃が待つ広間まで戻った。

「シャーリーンの術師はどこ?」

 愛人ジゼルが聞いてきた。

「しばらく7日間ほどは、遠いところでセミになっているわ」

 反省したら死ぬ前にこちらの世界に戻るようにしておいた。

 スキルを全て『聖フランセーズの防御の盾』と、『聖ヴィクトワールの剣』に吸い込んだので、もはや彼には何もできないはずだ。

 この間にハープスブートの王座をエリオットに引き継ぐ。

 私は前回処刑された意味を明確に知った。皆が恐れた事をやってのけよう。

 この国をより明るい未来に変えるために、ハープスブートの王座をカール大帝からエリオットに移す。

 明日の朝、カール大帝は目覚めたら死ぬほど驚くはずだ。ヒュー王子が亡くなるはずで、無理矢理連れてこられた聖女に会えると思ったら大間違いだ。

 カール大帝は、聖女のかわりに大軍が陸と海からハープスブートの引き渡しを迫る事態に飛び上がるだろう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...