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第三章 囚われの身から幸せへ
囚われの身 ヴァイオレットSide
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ぐったりと倒れている私のそばに、誰かの気配を感じて、私はハッと目を開けた。聖女カトリーヌが顔色を真っ青にして倒れていた。私はどういうことか事態が把握できず、目をしばたいた。
モートン伯爵の山小屋で落馬したヒュー王子が息を引き取った。それは1回目の人生では起きなかったことだ。1回目の人生では、私がヒュー王子の婚約破棄されて、その後断罪されて処刑された。その後もヒュー王子は生きていて、私を探しにニホンまでやってきたぐらいだ。
私はヒュー王子が亡くなった瞬間を思うと、ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたような強烈な痛みを感じた。ダメだ。だからと言って、力を失って良いわけではない。それなのに私は無力だ。
「カトリーヌ、カトリーヌ、起きて」
私はそっとカトリーヌの体をゆすった。ここは一体どこなのだろう?地下のどこかに見える。
蝋燭の灯ったランプが隅に置いてあった。いつもは褐色の顔で薔薇色の頬をした元気なカトリーヌは真っ青な顔をしてびくともしなかった。
――もしかして、息をしていない?
私は心臓が止まりそうなぐらいの衝撃を受けて、そっとカトリーヌの口元まで耳を寄せた。微かな呼吸音が聞こえてほっとする。
「ステータスオープン」
私は力強く言葉を言ってみた。しかし、頭上には何もスキルが出現せず、頭の中はしんと静まり返ったままだ。
しかし、だ。
私はふと、ジョセフが渡してくれた荷物を持っていることに気づいた。ジョセフになった純斗が持ってきて、レキュール辺境伯になった彼が私にくれたベスからの差し入れだ。チョコレートとコーヒーだ。
私は少しほっとした。とにかくお腹に何か入れよう。
その時突然、地下室の部屋の扉がギイっと音を立てて開いて私は飛び上がりそうなぐらいに驚いた。美しく高い位にありそうな貴族の女性が体を半分なかに入れて、私の様子をじっと見つめた。とても豪華な絹を使っているが、デザインは非常にシンプルなドレスを着ている。年齢は20代後半ぐらいだろうか。
「ヴァイオレット聖女なの?そちらはカトリーヌ聖女かしら?」
彼女は小声で聞いてきた。私は戸惑いながらも頷いた。
「すぐにここから逃げましょう、間もなく彼らが来るわ」
彼女の手には鍵が握られていて、彼女の表情は真剣で必死の様子だった。私は素早くカトリーヌを抱き抱えた。
「お願い、手伝ってくださる?」
「いいわ。私はジゼルよ」
私はジゼルに手伝ってもらいながら、カトリーヌを起こした。
「カトリーヌ、起きて!」
私は必死で呼びかけながらカトリーヌの腕を自分の首にかけて、彼女を持ち上げようとした。もう片方の腕はジゼルが持ってくれた。
「う……っ、な……何?」
カトリーヌは体を立てようとした瞬間に目を開けてうめいた。
「私、ヴァイオレットよ。私たち囚われたわ。ジゼルが逃げるのを手伝ってくれるから逃げるわよ。いい?歩ける?」
ゆっくりとカトリーヌは目を瞬いた。しかし、瞬時に何が起きたか悟ったようだ。聖女を欲しがる輩が他国にいると王立修道院で散々私たちは聞かされていた。気をつけるようと言い聞かされていたのだ。カトリーヌは、今その危機に陥ったと悟ったようだ。
「ありがとう、歩けるわ」
カトリーヌはそういうと、自力でなんとか立った。
「さあ、こちらへ。この部屋から一刻も脱出するのよ」
私たちはジゼルに促されるままに暗い地下室の外に出た。そのままジゼルの肩に捕まり、カトリーヌの手を私は引き、私たち3人は狭い地下の廊下を急ぎ足で歩いた。
「しぃっ!」
彼女がささやき、私たちは動きを止めた。向こうから誰かがやってくる。しかし狭い通路で、どこにも曲がり角がなく、逃げ場がない。
私は頭の中で必死にステータスオープンと唱えた。カトリーヌの囁きが微かに聞こえた。彼女も同じ言葉を言っている。私たちの体に緊張が走った。
絶対絶命なのか。
モートン伯爵の山小屋で落馬したヒュー王子が息を引き取った。それは1回目の人生では起きなかったことだ。1回目の人生では、私がヒュー王子の婚約破棄されて、その後断罪されて処刑された。その後もヒュー王子は生きていて、私を探しにニホンまでやってきたぐらいだ。
私はヒュー王子が亡くなった瞬間を思うと、ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたような強烈な痛みを感じた。ダメだ。だからと言って、力を失って良いわけではない。それなのに私は無力だ。
「カトリーヌ、カトリーヌ、起きて」
私はそっとカトリーヌの体をゆすった。ここは一体どこなのだろう?地下のどこかに見える。
蝋燭の灯ったランプが隅に置いてあった。いつもは褐色の顔で薔薇色の頬をした元気なカトリーヌは真っ青な顔をしてびくともしなかった。
――もしかして、息をしていない?
私は心臓が止まりそうなぐらいの衝撃を受けて、そっとカトリーヌの口元まで耳を寄せた。微かな呼吸音が聞こえてほっとする。
「ステータスオープン」
私は力強く言葉を言ってみた。しかし、頭上には何もスキルが出現せず、頭の中はしんと静まり返ったままだ。
しかし、だ。
私はふと、ジョセフが渡してくれた荷物を持っていることに気づいた。ジョセフになった純斗が持ってきて、レキュール辺境伯になった彼が私にくれたベスからの差し入れだ。チョコレートとコーヒーだ。
私は少しほっとした。とにかくお腹に何か入れよう。
その時突然、地下室の部屋の扉がギイっと音を立てて開いて私は飛び上がりそうなぐらいに驚いた。美しく高い位にありそうな貴族の女性が体を半分なかに入れて、私の様子をじっと見つめた。とても豪華な絹を使っているが、デザインは非常にシンプルなドレスを着ている。年齢は20代後半ぐらいだろうか。
「ヴァイオレット聖女なの?そちらはカトリーヌ聖女かしら?」
彼女は小声で聞いてきた。私は戸惑いながらも頷いた。
「すぐにここから逃げましょう、間もなく彼らが来るわ」
彼女の手には鍵が握られていて、彼女の表情は真剣で必死の様子だった。私は素早くカトリーヌを抱き抱えた。
「お願い、手伝ってくださる?」
「いいわ。私はジゼルよ」
私はジゼルに手伝ってもらいながら、カトリーヌを起こした。
「カトリーヌ、起きて!」
私は必死で呼びかけながらカトリーヌの腕を自分の首にかけて、彼女を持ち上げようとした。もう片方の腕はジゼルが持ってくれた。
「う……っ、な……何?」
カトリーヌは体を立てようとした瞬間に目を開けてうめいた。
「私、ヴァイオレットよ。私たち囚われたわ。ジゼルが逃げるのを手伝ってくれるから逃げるわよ。いい?歩ける?」
ゆっくりとカトリーヌは目を瞬いた。しかし、瞬時に何が起きたか悟ったようだ。聖女を欲しがる輩が他国にいると王立修道院で散々私たちは聞かされていた。気をつけるようと言い聞かされていたのだ。カトリーヌは、今その危機に陥ったと悟ったようだ。
「ありがとう、歩けるわ」
カトリーヌはそういうと、自力でなんとか立った。
「さあ、こちらへ。この部屋から一刻も脱出するのよ」
私たちはジゼルに促されるままに暗い地下室の外に出た。そのままジゼルの肩に捕まり、カトリーヌの手を私は引き、私たち3人は狭い地下の廊下を急ぎ足で歩いた。
「しぃっ!」
彼女がささやき、私たちは動きを止めた。向こうから誰かがやってくる。しかし狭い通路で、どこにも曲がり角がなく、逃げ場がない。
私は頭の中で必死にステータスオープンと唱えた。カトリーヌの囁きが微かに聞こえた。彼女も同じ言葉を言っている。私たちの体に緊張が走った。
絶対絶命なのか。
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