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第二章 二度目の人生 リベンジスタート

さようなら、マルグリッド(1)

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 散乱した矢の状況をスマホで素早く写真を撮って、私とジョセフは矢が飛んできた方向に走るようにして向かい始めた。ジョセフは用心深く鉄製フライパンを握りしめている。

「Lvl4281の軌道解析力を使いますか?」
「使います」

 私は矢の発射位置が放物線状に描かれて伯爵家の物置小屋の2階に到達するのを見た。私たちはそこに向かって走った。ちょうど物置小屋から使用人らしき男性が飛び出してくるところだった。

「おぉ、ちょうど良かった。君、こちらに来て」

 ジョセフが言うと、私とジョセフを振り返った使用人は真っ青になって走って逃げようとした。

 そうはさせないっ!

 私もジョセフもダッシュした。

「Lvl512の擬力を使いますか?」
「使います」

「チーターに擬態してチーターの跳躍力を利用しています。つまり、高速で走れます」

 私はもう突進して使用人の背中に体当たりした。

 うぎゃっ!

 使用人が奇妙な叫び声をあげて地面に倒れ、私はチーターの姿で前足でギリギリと使用人の背中を踏みつけた。爪が食い込むだろう。

 痛いっ!痛いっ!

 使用人の男性は悲鳴をあげた。

「な……なんか怖いけどヴァイオレット!?」

 走ってきたジョセフが恐る恐る私に声をかけた。

「そうよ」

 と言ったつもりが奇妙な吠え声が出て自分でもびっくりした。

「擬態を解除しますか?」
「解除します」

 私は元の姿にスッと戻り、足で使用人の背中を踏みつけていた。

「お前、俺たちに矢を放ったな?しかも大量にだ。言い逃れできないぞ。お嬢様の能力を見ただろ。お前などひとたまりもなく捻り潰せるぞ」

 ジョセフは地面に横たわる使用人にドスの効いた低い声で囁いた。

「ご……ごめんなさいっ!大変申し訳ございませんでしたっ!」

 私は聖女は聖女でも以前の聖女ではない。ただ力があって貧しい人に分け与えられるだけ分け与えていた、お人好しの公爵令嬢ではない。一度無惨に殺されて不死鳥のように舞い戻った公爵令嬢だ。しかも別世界で厳しい経済状況下にあって世の中の辛酸を舐めている。

 どこの世界に本気で矢を大量に射られてご機嫌でいられる人がいるというのだ。

「命令したのはマルグリッドよね?嘘をつくと容赦しないわ」

 私は腕組みをして足で踏んづけている使用人に言った。16歳の公爵令嬢の体重では大した重みではないだろうが、許せないものは許せない。

「はい。さようでございます」
「いくら言いつけだからと言って、相手は16歳の小娘じゃない。善悪の判断があなたまでできないとは言わせないわ」
「大変申し訳ございませんっ!」

 ルネ伯爵と伯爵夫人の元に彼をひっとらえて連れて行こう。見たところ、ルネ伯爵家の敷地には、流行りのブリテン仕様に改造中のエリアがあった。幾何学模様にするためと、噴水を作るために泥だらけで沼のようにぬかるんでいる。

 ――そこにマルグリッドを突き落としてあげるわ。泥で罰せるとは思えないけれど。

 使用人を伯爵と伯爵夫人の元に突き出すようにジョセフなかお願いすると、私は身を翻してマルグリッドの居場所に突進した。

 先ほど彼女がスキルの発動の練習をしていた場所からさほど離れていない、敷地の中で少し高台になった場所でマルグリッドは高みの見物を決め込んでいたようだ。

 私は追跡力と擬態力を使って、あっという間にマルグリッドの目の前に姿を現すことに成功した。

「な……何よっ!きゃっ!誰か助けてっ!!」

 彼女は真っ青になって叫んだ。彼女のそばにいた侍女もスキル指導の男も真っ青になって後ずさっている。

 ワンワン!と犬のような声なのが玉に瑕だけれど、吠える姿は恐ろしいでしょう?

 3人は恐怖の表情でジリジリと後ずさった。

 チーターの擬態を解除して私はすっと16歳のヴァイオレットの姿に戻った。

「ヴァイオレットお嬢様!?「えぇ、あなたちが殺そうとしたそのヴァイオレットですよっ!」」

 私は食い気味で名乗った。

「聖女のスキルがどのレベルかも知らずによく命が狙えましたわね?」

 私はジリジリとマルグリッドに詰め寄った。



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