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第二章 二度目の人生 リベンジスタート
レキュール伯爵領のやり直しと考察会
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私達は純斗の部屋にいた。
純斗の部屋のホワイトボードには簡単な地図が描かれている。ボアルネハルトの国境沿いに線が引かれ、隣国ハープスブートの大地は緑色で斜線が軽く引かれ、両国の領地にとてつもなく領土格差があることが一目瞭然となっていた。
この時点で世界有数の大国であったハープスブートを治めるカール大帝の都も描かれている。ヴィエリだ。
ボアルネハルトとハープスブートの国境沿いのボアルネハルト側が小さく紫色で囲まれて、レキュールと書かれてある。バリドン公爵領地の方が大きく豊かだが、実は貴重な資源が眠る場所でハープスブートが狙っている領地だ。私が聖女になる前はまだ貧しい辺境の地だったが、私が処刑される頃には注目されていた。
「君がヒューと確認しに行ったという灰色の空と灰色の大地は、辺境伯レキュールの領地なんだね?」
純斗が私にそう聞きながら写真をホワイトボードに貼っている。私はうなずいた。
「銀の鉱山があるわ。メーナルンド山がここにあるわ。それからダイヤモンドが採れるハンドッヒ山はここよ。レキュールではないけれど、ここもこれから大注目されるわ」
私は純斗の隣に立ち、メーナルンド山とハンドッヒ山に印をつけた。
辺境伯レキュールの土地は聖女である私が譲り受けた。正確には国王が買い取り、私に与えたものだ。私は結局あの辺境の地に家を建てるという夢を叶えずに死んだ。
寒さや疲労や空腹の感覚は、バイトをしてカツカツの生活をしている富子側だけの感覚ではない。公爵令嬢で聖女であったヴァイオレットでも数えきれないほど経験した。いろんな領地を回るのは馬車だったし、思うように宿を取ることができないこともあったのだ。
今、午後のゆったりとした時間が流れていた。私は辺境の地に思いを馳せて黙った。
大家さんの用意してくれた炭酸入りのレモネードを私と純斗は飲んでいる。純斗はこれまで顔見知り程度の仲だった。同じ大学に通っているのは知っているし、同じアパートの下の階に住んでいるのも知っていた。純斗が大学の授業の合間に仕事をしている、もしくは何かのバイトをしていることは私も知っていた。彼の帰宅は夜遅かったりしたからだ。
私がファーストフードのバイトと、異世界転生バイトの2つを掛け持ちしていることを彼は知っていた。メガネをかけている潤斗が非常に整った顔立ちをしているのに、この日初めて私は気づいた。
――純斗は女の子にものすごくモテそうだわ。こんなに顔立ちが整っているなんて今まで全然気づかなかった。
一つ言えるのは、純斗と私は働かなければ大学に通えないという点で、私たちは同じような感じだということだ。
純斗の部屋はブルックリンスタイルというらしく、安価な家具量販店で揃えたという手頃でオシャレな家具でスタイルが統一されていた。居心地が良い。
私は今朝、ヒューの部屋から朝帰りした。ヒューが車で送ってくれた。着替えていると、サミュエルがフェラーリで迎えに来てくれて大学に向かった。誰にも朝帰りのことは知られていないと思っていて、私は一日中ふわふわとして幸せな気持ちだった。
今日純斗の部屋に揃ったメンバーは、大家さん、魔導時ジーニン、純斗と私だ。純斗は私がスマホで撮った写真を拡大したものを壁一面に設置されたホワイトボードに貼って、登場人物相関図を作った。登場人物の大半は私がスマホで撮ったものだ。ヒューは用事があるからと、遅れてやってくることになっていた。
「新規に追加された人物は、聖女候補のカトリーヌ、ルネ伯爵家の侍女、国王陛下、サンル・デ・カルマラ王立修道院の院長、君の継母のルイーズ、妹のアンヌ、料理人のベスだね」
純斗はテキパキと印刷した写真をホワイトボードに並べた。
「でも、写真が無い人物がまだいるね。アルフレッド王子とマルグリッドの兄だ」
「そうなの。まだ会っていないのよ」
私は純斗に答えた。ジーニンは、額にしわを寄せて一瞬考え込んで教えてくれた。
「マルグリッドの兄は確かポールという名前です。ヒューより2歳上でございます」
「オーケー、2人の名前をここに書いておくよ」
純斗はマジックでボードに書いた。
「それからゲットしたアイテムは、『聖フランセーズの防御の盾』と、『聖ヴィクトワールの剣』だね。ここに写真を貼るよ」
アイテムとカテゴリしながら、純斗は縦と剣の写真を貼った。
「さあ、どう攻略するかだな」
純斗は腕組みをしながらホワイトボードを見た。
「君が大火傷をするところだったアンヌの誕生日には、シャーロットおばさまのゼルニエ侯爵夫人、そしてその夫のゼルニエ侯爵、レロックス男爵、その子息のスチュアート、レロックス男爵夫人、モートン伯爵、モートン伯爵夫人、モートン伯爵令嬢のキャサリン、アリス姉妹とルネ伯爵とその伯爵夫人、マルグリッド、侍女のアデル、執事のハリーはいたんだね?」
「ええ、全員いたわ。そこにまだいなかったのは、家庭教師のパンティエーヴルさんよ。私が聖女候補に選ばれてからバリドン公爵家にやってきたのよ。アンヌの誕生日の時はまだいないわ」
純斗は腕組みをしてホワイトボードに貼った写真を睨んだが、静かにつぶやいた。
「カトリーヌには確かに動機あるが、そもそもこの時はヴァイオレットが聖女候補になるとは彼女は知らない。だから、この事件にはカトリーヌは無関係だろう。やはりマルグリッドが一番怪しいと思う」
私とジーニンはうなずいた。純斗は続けてジーニンに聞いた。
「ヒューが来る前に聞きたいのだけれど。ジーニン、ヴァイオレットが死んだ後に何があったんだ?」
ジーニンはドキッとした表情をした。実は私もその事をが聞きたかった。私が死ぬ前の話は沢山してくれていたのに、ヴァイオレット死後の話は一度も二人から聞いたことがなかった。
「ヒューは誰と結婚したの?」
私はジーニンの詰め寄った。
「だ……だ……誰とも結婚していません。ただ……「ただ何よっ!答えてちょうだい。あなたは私の味方でしょう!?」」
私はそこはちゃんと確認したかったので、語気を強めてジーニンに迫った。ジーニンは観念した表情になり、ひれ伏した。私の目には紫色のマントが翻るようにジーニンが勢いよく床にひれ伏したのが見えた。
「ヒュー王子はルネ伯爵令嬢と婚約なさいました」
「は!?!!!!!」
私は動揺して、怒りで震えた。私が処刑を言い渡される場で、ヒューの隣にいたのはやはりマルグリッドだろう。私の見間違えではなかったのだ。彼女は、あの時ヒューの隣に立って私が処刑を言い渡されて、命を失うのを見ていたのだ。
「ジーニン、私が処刑を言い渡されたとき、あなたは何をしていたの?ヒューの隣にマルグリッドがいなかったかしら?」
私は完全に公爵令嬢のお高く止まった物言いでジーニンに問いただした。ジーニンは言葉に詰まった。
「お救いすることができなくて、大変申し訳ございません!」
魔導師ジーニンの紫のマントが小刻みに揺れた。顔を下に向けて泣いているのあろう。
「この映像を見たとき、ヒューは何と言ったの?」
純斗はメガネをしっかりとずり上げながら私に聞いた。彼の目は真っ直ぐに私に顔を見つめている。
「確かマルグリッドは『わざとに見える』と言ったわ」
純斗はうなずいた。
「ショックを受けた様子は?」
「そういえばそんな様子はなかったわ。ジーニンは憤っていたけれど、ヒューはどちらかというと冷静だったわ」
私は幸せで周りが何もかもバラ色に見えていた。ヒューの行動を振り返って少し不安を感じた。
「他には、ヒュー自身はマルグリッドの兄とアルフレッドが仲が良いのは知っていたけれど、奇妙な偶然だという点は私とジーニンの意見に同意見だったと思うわ。私はマルグリッドの兄のポールとアルフレッドが仲が良いのは知らなかったわ」
そこで、私たちの会話にジーニンが割って入ってきた。
「ちょっと待ってください!今の会話はヒュー王子を疑っているということですか?」
ジーニンは純斗に食ってかかった。
「うーん、気になるというだけかな。今朝ヴァイオレットは朝帰りした。だから、考察会は本当は昨晩行われるはずだったのに、今日やっている。とみちゃんは、つまりヴァイオレットはヒューと朝まで過ごしたの?」
純斗はグイグイと踏み込んで質問をしてきた。私は力無くうなずいた。
「そう。ヒューと初めての夜を……過ごしたわ」
純斗の顔が一瞬強張った、と私は思った。ジーニンは息を飲んで無言になった。大家さんは「まあ、バイトの雇い主兼婚約者みたいな事を自分で言っていたしね」とつぶやいた。
ヒューの写真を純斗はホワイトボートの真ん中に置いた。
「善なのか、悪なのか、グレーなのか。彼について、今のところ僕は判断できない」
なぜか純斗は怒っていて、私との間に最悪な感情が漂っているようだ。だが、それがなぜなのか私もよく説明出来ない。
そこにヒューがやってきた。部屋のインターホンが押されて、純斗が出迎えた。ヒューはiPad以外の手荷物を手に持っていた。
ヒューは私を見つめるなり、床にひざまずいた。
「ヴァイオレット、辺境伯レキュールの灰色の空と灰色の大地を見た日を覚えている?」
ヒューは私にささやいた。
「えぇ、覚えているわ」
私は予感に震えてしまった。手が震える。心臓がドキドキした。
「あの時俺はプロポーズだけした。でも、指輪をちゃんと渡していなかったんだ。だから、今度はちゃんと指輪を渡したい。これは母の形見だ。ヴァイオレット、俺と結婚していただけますか」
私は涙が出そうだった。でも、隣に立つ純斗の怒って最悪だという表情が気になって、躊躇した。
「本当は、辺境のレキュール伯爵領を訪れた時に俺はちゃんと指輪を渡すべきだと思う。それはこれからのやり直しがうまく行けば、きっと君にこの指輪をちゃんと渡すと思う。でも、今、ここで受けってもらえないだろうか。改めて俺と結婚してください」
私はヒューが差し出した指輪を見つめた。涙が勝手に込み上げてきて、私はなんだか泣けてきた。炎の刑で死んだ私は、何もヒューからもらったものを持っていなかった。
私は手を差し出して、ヒューが大きなダイヤが輝く指輪をはめてくれた。
ヒューは私を見つめるなり、床にひざまずいた。
「ヴァイオレット、辺境伯レキュールの灰色の空と灰色の大地を見た日を覚えている?」
ヒューは私にささやいた。
「えぇ、覚えているわ」
私は予感に震えてしまった。手が震える。心臓がドキドキした。
「あの時俺はプロポーズだけした。でも、指輪をちゃんと渡していなかったんだ。だから、今度はちゃんと指輪を渡したい。これは母の形見だ。ヴァイオレット、俺と結婚していただけますか」
私は涙が出そうだった。でも、隣に立つ純斗の怒って最悪だという表情が気になって、躊躇した。
「本当は、辺境のレキュール伯爵領を訪れた時に俺はちゃんと指輪を渡すべきだと思う。それはこれからのやり直しがうまく行けば、きっと君にこの指輪をちゃんと渡すと思う。でも、今、ここで受けってもらえないだろうか。改めて俺と結婚してください」
私はヒューが差し出した指輪を見つめた。涙が勝手に込み上げてきて、私はなんだか泣けてきた。炎の刑で死んだ私は、何もヒューからもらったものを持っていなかった。
私は手を差し出して、ヒューが大きなダイヤが輝く指輪をはめてくれた。
ヒューは私を抱きしめて、キスをした。
涙に曇る私の耳に、純斗が喋っている声が気こえた。指輪はずっしりと重く、私は大切にするためにどこかにしまっておこうと思った。
「マルグリッドは結局君を陥れて処刑させて、自分は生き延びて各ヒューの婚約者におさまっていた可能性が高い。16歳のヴァイオレットは、国王に圧倒的な力を示した。戻ったら、ヴァイオレットの状況はかなり改善されているとは思う。でも、逆に心配だ。それほど国王に気に入られてしまえば、嫉妬をより早く買うと思うから。次も16歳だよね?僕も一緒に行こう」
純斗はとんでもないことを喋っていた。自分も私と一緒に異世界に行くという。煌めく指輪と、ヒューの優しい心を知っていた私は、そんなバカなという言葉を純斗に言うのをド忘れてしまっていた。
――ヴァイオレット、あなた聞いているかしら?
私は過去に無念な思いを抱きながら死んで行った自分に思いを馳せた。もらった指輪は、私が死ぬ前にもらってないものだった。大きなダイヤの指輪だ。
私は今、幸せだ。
私の死後にマルグリッドが婚約してもらった指輪のことは、考えない。
次にマルグリッドに会ったら、容赦しない。聖女の力でも何でも使って二度とやられないようにしよう。
純斗の部屋のホワイトボードには簡単な地図が描かれている。ボアルネハルトの国境沿いに線が引かれ、隣国ハープスブートの大地は緑色で斜線が軽く引かれ、両国の領地にとてつもなく領土格差があることが一目瞭然となっていた。
この時点で世界有数の大国であったハープスブートを治めるカール大帝の都も描かれている。ヴィエリだ。
ボアルネハルトとハープスブートの国境沿いのボアルネハルト側が小さく紫色で囲まれて、レキュールと書かれてある。バリドン公爵領地の方が大きく豊かだが、実は貴重な資源が眠る場所でハープスブートが狙っている領地だ。私が聖女になる前はまだ貧しい辺境の地だったが、私が処刑される頃には注目されていた。
「君がヒューと確認しに行ったという灰色の空と灰色の大地は、辺境伯レキュールの領地なんだね?」
純斗が私にそう聞きながら写真をホワイトボードに貼っている。私はうなずいた。
「銀の鉱山があるわ。メーナルンド山がここにあるわ。それからダイヤモンドが採れるハンドッヒ山はここよ。レキュールではないけれど、ここもこれから大注目されるわ」
私は純斗の隣に立ち、メーナルンド山とハンドッヒ山に印をつけた。
辺境伯レキュールの土地は聖女である私が譲り受けた。正確には国王が買い取り、私に与えたものだ。私は結局あの辺境の地に家を建てるという夢を叶えずに死んだ。
寒さや疲労や空腹の感覚は、バイトをしてカツカツの生活をしている富子側だけの感覚ではない。公爵令嬢で聖女であったヴァイオレットでも数えきれないほど経験した。いろんな領地を回るのは馬車だったし、思うように宿を取ることができないこともあったのだ。
今、午後のゆったりとした時間が流れていた。私は辺境の地に思いを馳せて黙った。
大家さんの用意してくれた炭酸入りのレモネードを私と純斗は飲んでいる。純斗はこれまで顔見知り程度の仲だった。同じ大学に通っているのは知っているし、同じアパートの下の階に住んでいるのも知っていた。純斗が大学の授業の合間に仕事をしている、もしくは何かのバイトをしていることは私も知っていた。彼の帰宅は夜遅かったりしたからだ。
私がファーストフードのバイトと、異世界転生バイトの2つを掛け持ちしていることを彼は知っていた。メガネをかけている潤斗が非常に整った顔立ちをしているのに、この日初めて私は気づいた。
――純斗は女の子にものすごくモテそうだわ。こんなに顔立ちが整っているなんて今まで全然気づかなかった。
一つ言えるのは、純斗と私は働かなければ大学に通えないという点で、私たちは同じような感じだということだ。
純斗の部屋はブルックリンスタイルというらしく、安価な家具量販店で揃えたという手頃でオシャレな家具でスタイルが統一されていた。居心地が良い。
私は今朝、ヒューの部屋から朝帰りした。ヒューが車で送ってくれた。着替えていると、サミュエルがフェラーリで迎えに来てくれて大学に向かった。誰にも朝帰りのことは知られていないと思っていて、私は一日中ふわふわとして幸せな気持ちだった。
今日純斗の部屋に揃ったメンバーは、大家さん、魔導時ジーニン、純斗と私だ。純斗は私がスマホで撮った写真を拡大したものを壁一面に設置されたホワイトボードに貼って、登場人物相関図を作った。登場人物の大半は私がスマホで撮ったものだ。ヒューは用事があるからと、遅れてやってくることになっていた。
「新規に追加された人物は、聖女候補のカトリーヌ、ルネ伯爵家の侍女、国王陛下、サンル・デ・カルマラ王立修道院の院長、君の継母のルイーズ、妹のアンヌ、料理人のベスだね」
純斗はテキパキと印刷した写真をホワイトボードに並べた。
「でも、写真が無い人物がまだいるね。アルフレッド王子とマルグリッドの兄だ」
「そうなの。まだ会っていないのよ」
私は純斗に答えた。ジーニンは、額にしわを寄せて一瞬考え込んで教えてくれた。
「マルグリッドの兄は確かポールという名前です。ヒューより2歳上でございます」
「オーケー、2人の名前をここに書いておくよ」
純斗はマジックでボードに書いた。
「それからゲットしたアイテムは、『聖フランセーズの防御の盾』と、『聖ヴィクトワールの剣』だね。ここに写真を貼るよ」
アイテムとカテゴリしながら、純斗は縦と剣の写真を貼った。
「さあ、どう攻略するかだな」
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「君が大火傷をするところだったアンヌの誕生日には、シャーロットおばさまのゼルニエ侯爵夫人、そしてその夫のゼルニエ侯爵、レロックス男爵、その子息のスチュアート、レロックス男爵夫人、モートン伯爵、モートン伯爵夫人、モートン伯爵令嬢のキャサリン、アリス姉妹とルネ伯爵とその伯爵夫人、マルグリッド、侍女のアデル、執事のハリーはいたんだね?」
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純斗は腕組みをしてホワイトボードに貼った写真を睨んだが、静かにつぶやいた。
「カトリーヌには確かに動機あるが、そもそもこの時はヴァイオレットが聖女候補になるとは彼女は知らない。だから、この事件にはカトリーヌは無関係だろう。やはりマルグリッドが一番怪しいと思う」
私とジーニンはうなずいた。純斗は続けてジーニンに聞いた。
「ヒューが来る前に聞きたいのだけれど。ジーニン、ヴァイオレットが死んだ後に何があったんだ?」
ジーニンはドキッとした表情をした。実は私もその事をが聞きたかった。私が死ぬ前の話は沢山してくれていたのに、ヴァイオレット死後の話は一度も二人から聞いたことがなかった。
「ヒューは誰と結婚したの?」
私はジーニンの詰め寄った。
「だ……だ……誰とも結婚していません。ただ……「ただ何よっ!答えてちょうだい。あなたは私の味方でしょう!?」」
私はそこはちゃんと確認したかったので、語気を強めてジーニンに迫った。ジーニンは観念した表情になり、ひれ伏した。私の目には紫色のマントが翻るようにジーニンが勢いよく床にひれ伏したのが見えた。
「ヒュー王子はルネ伯爵令嬢と婚約なさいました」
「は!?!!!!!」
私は動揺して、怒りで震えた。私が処刑を言い渡される場で、ヒューの隣にいたのはやはりマルグリッドだろう。私の見間違えではなかったのだ。彼女は、あの時ヒューの隣に立って私が処刑を言い渡されて、命を失うのを見ていたのだ。
「ジーニン、私が処刑を言い渡されたとき、あなたは何をしていたの?ヒューの隣にマルグリッドがいなかったかしら?」
私は完全に公爵令嬢のお高く止まった物言いでジーニンに問いただした。ジーニンは言葉に詰まった。
「お救いすることができなくて、大変申し訳ございません!」
魔導師ジーニンの紫のマントが小刻みに揺れた。顔を下に向けて泣いているのあろう。
「この映像を見たとき、ヒューは何と言ったの?」
純斗はメガネをしっかりとずり上げながら私に聞いた。彼の目は真っ直ぐに私に顔を見つめている。
「確かマルグリッドは『わざとに見える』と言ったわ」
純斗はうなずいた。
「ショックを受けた様子は?」
「そういえばそんな様子はなかったわ。ジーニンは憤っていたけれど、ヒューはどちらかというと冷静だったわ」
私は幸せで周りが何もかもバラ色に見えていた。ヒューの行動を振り返って少し不安を感じた。
「他には、ヒュー自身はマルグリッドの兄とアルフレッドが仲が良いのは知っていたけれど、奇妙な偶然だという点は私とジーニンの意見に同意見だったと思うわ。私はマルグリッドの兄のポールとアルフレッドが仲が良いのは知らなかったわ」
そこで、私たちの会話にジーニンが割って入ってきた。
「ちょっと待ってください!今の会話はヒュー王子を疑っているということですか?」
ジーニンは純斗に食ってかかった。
「うーん、気になるというだけかな。今朝ヴァイオレットは朝帰りした。だから、考察会は本当は昨晩行われるはずだったのに、今日やっている。とみちゃんは、つまりヴァイオレットはヒューと朝まで過ごしたの?」
純斗はグイグイと踏み込んで質問をしてきた。私は力無くうなずいた。
「そう。ヒューと初めての夜を……過ごしたわ」
純斗の顔が一瞬強張った、と私は思った。ジーニンは息を飲んで無言になった。大家さんは「まあ、バイトの雇い主兼婚約者みたいな事を自分で言っていたしね」とつぶやいた。
ヒューの写真を純斗はホワイトボートの真ん中に置いた。
「善なのか、悪なのか、グレーなのか。彼について、今のところ僕は判断できない」
なぜか純斗は怒っていて、私との間に最悪な感情が漂っているようだ。だが、それがなぜなのか私もよく説明出来ない。
そこにヒューがやってきた。部屋のインターホンが押されて、純斗が出迎えた。ヒューはiPad以外の手荷物を手に持っていた。
ヒューは私を見つめるなり、床にひざまずいた。
「ヴァイオレット、辺境伯レキュールの灰色の空と灰色の大地を見た日を覚えている?」
ヒューは私にささやいた。
「えぇ、覚えているわ」
私は予感に震えてしまった。手が震える。心臓がドキドキした。
「あの時俺はプロポーズだけした。でも、指輪をちゃんと渡していなかったんだ。だから、今度はちゃんと指輪を渡したい。これは母の形見だ。ヴァイオレット、俺と結婚していただけますか」
私は涙が出そうだった。でも、隣に立つ純斗の怒って最悪だという表情が気になって、躊躇した。
「本当は、辺境のレキュール伯爵領を訪れた時に俺はちゃんと指輪を渡すべきだと思う。それはこれからのやり直しがうまく行けば、きっと君にこの指輪をちゃんと渡すと思う。でも、今、ここで受けってもらえないだろうか。改めて俺と結婚してください」
私はヒューが差し出した指輪を見つめた。涙が勝手に込み上げてきて、私はなんだか泣けてきた。炎の刑で死んだ私は、何もヒューからもらったものを持っていなかった。
私は手を差し出して、ヒューが大きなダイヤが輝く指輪をはめてくれた。
ヒューは私を見つめるなり、床にひざまずいた。
「ヴァイオレット、辺境伯レキュールの灰色の空と灰色の大地を見た日を覚えている?」
ヒューは私にささやいた。
「えぇ、覚えているわ」
私は予感に震えてしまった。手が震える。心臓がドキドキした。
「あの時俺はプロポーズだけした。でも、指輪をちゃんと渡していなかったんだ。だから、今度はちゃんと指輪を渡したい。これは母の形見だ。ヴァイオレット、俺と結婚していただけますか」
私は涙が出そうだった。でも、隣に立つ純斗の怒って最悪だという表情が気になって、躊躇した。
「本当は、辺境のレキュール伯爵領を訪れた時に俺はちゃんと指輪を渡すべきだと思う。それはこれからのやり直しがうまく行けば、きっと君にこの指輪をちゃんと渡すと思う。でも、今、ここで受けってもらえないだろうか。改めて俺と結婚してください」
私はヒューが差し出した指輪を見つめた。涙が勝手に込み上げてきて、私はなんだか泣けてきた。炎の刑で死んだ私は、何もヒューからもらったものを持っていなかった。
私は手を差し出して、ヒューが大きなダイヤが輝く指輪をはめてくれた。
ヒューは私を抱きしめて、キスをした。
涙に曇る私の耳に、純斗が喋っている声が気こえた。指輪はずっしりと重く、私は大切にするためにどこかにしまっておこうと思った。
「マルグリッドは結局君を陥れて処刑させて、自分は生き延びて各ヒューの婚約者におさまっていた可能性が高い。16歳のヴァイオレットは、国王に圧倒的な力を示した。戻ったら、ヴァイオレットの状況はかなり改善されているとは思う。でも、逆に心配だ。それほど国王に気に入られてしまえば、嫉妬をより早く買うと思うから。次も16歳だよね?僕も一緒に行こう」
純斗はとんでもないことを喋っていた。自分も私と一緒に異世界に行くという。煌めく指輪と、ヒューの優しい心を知っていた私は、そんなバカなという言葉を純斗に言うのをド忘れてしまっていた。
――ヴァイオレット、あなた聞いているかしら?
私は過去に無念な思いを抱きながら死んで行った自分に思いを馳せた。もらった指輪は、私が死ぬ前にもらってないものだった。大きなダイヤの指輪だ。
私は今、幸せだ。
私の死後にマルグリッドが婚約してもらった指輪のことは、考えない。
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