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第二章 二度目の人生 リベンジスタート
気持ちを確かめあう ※
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私は20歳の自分に戻ってきた時、目を開けると、フードコートのいつものソファ席に座っていた。
「おかえりなさいませ、ヴァイオレットお嬢様」
「おかえり、ヴァイオレット」
魔導時ジーニンとヒューに微笑まれて私はほっとした。
「やっぱり怖かったわ。ものすごく緊張した」
私は言葉少なに二人に伝えた。講義の時間まであと1時間は猶予があった。私はテキパキと新しく得た情報を伝えた。
「ひどい」
魔導師ジーニンは、私が火傷をする瞬間の動画を見て顔を歪めて憤っていた。
「わざとに見えるな」
ヒューがそう言うと、魔導師ジーニンも小さく頷いた。ルネ伯爵家の話題になり、マルグリッドの兄の話になり、アルフレッド王子とマルグリッドの兄が仲が良いのはヒューも知っていたが、改めて奇妙な偶然だという話になった。処刑される前、私が馬車で一緒に各地を回っていたのはアルフレッド王子だ。マルグリッドの兄と仲が良いという話はアルフレッド王子から一度も聞いたことがなかった。
大学の講義の時間が終わるとファーストフード店のバイトに行った。バイトのシフトを終えて外に出ると、ヒューが迎えに来てくれていた。私は嬉しかった。
そこからがいつもと違った。私の心は何もかも思い出して、ヒューに会いたくて会いたくてたまらない状態だった。婚約破棄を言い渡されて心をズタボロにされたのに、だ。
私はどうかしているのかもしれない。
純斗が報告を待っているかもしれないと気になって躊躇したが、ヒューを独占したい気持ちに負けた。
過去の自分に戻ってみると、余計に今のヒューに会いたくなり、ヒューに誘われるままにヒューのマンションの部屋に来てしまった。ここにくるのは初めてだ。
一つ分かったことがある。私はヒューがとても好きだということだ。同時に、やり直しても、また失敗するかもしれないという恐怖を感じていた。
ならば、今目の前にいる彼に気持ちを伝えて関係を先にめようと決めた。20歳の富子としても、18歳のヴァイオレットとしても、ヒュー以外に最愛の人はいなかった。
21歳のヒューに再会した後に今のヒューに会うと、余計に愛しさが増した。彼に触れたくて彼に抱きしめてもらいたくてたまらなかった。
これはズタボロにされた自分の記憶を上書きしたいだけかもしれないし、私の死後にマルグリッドがヒューに近づいたと知って、私がそのことで嫉妬にかられているからかもしれない。
「過去のヒュー王子はどうだった?」
ヒューは私に何気なく過去の自分のことを聞いていた。少しナーバスになっているようだ。
「ヒューは過去でも爆イケだった」
私は正直に答えた。
「何だ、それは」
ヒューは戸惑った表情をしたが、少し嬉しそうに頬を赤らめた。
ヒューは私にシャワーを使っていいよと案内してくれた。豪華な作りの浴室だった。タオルの場所を教えてもらった。着替え用にヒューの大きなTシャツを用意してもらった。
私は自分の気持ちを伝える必要がある。心臓はドキドキが止まらず、今にも死んでしまいそうなほど高鳴っている。
本当に良いのかわからない。
シャワーを浴びて出てくると、彼が「何か飲む?」と聞いてくれた。スパーグリングワインか炭酸水かアイスコーヒーがあると言う。
「スパークリングワインでお願い」
ヒューがグラスを持ってきてくれた。
「ありがとう」
私がそう言うと、嬉しそうにヒューは笑った。
私はよく知っているヒューがこんなに嬉しそうな気持ちをあらわにしたことが新鮮で不思議な気持ちになった。
私はバイトの雇い主としてこの2ヶ月つきっきりで私のそばにいたヒューを見つめた。私の記憶を取り戻すために、私を救うために、何も覚えていない私を前に彼はずっとヴァイオレットとその周囲の話を私にし続けていた。
感謝しかなかった。彼にされたことは辛すぎたが、それをほのかにカバーできる温かさを感じた。あんなに酷いことを言われたのに、私の心は彼が必死で私を戻そうとし続けてくれたことに愛しさと感謝の感情を感じていて、その気持ちがこの瞬間だけは全てを上回っていた。
私とヒューの仲を裂こうとした人に一矢報いたいという思いが全く無いとは言えない。どこかにその気持ちがあることは否定できない。でも今は、ただただヒューのそばにいたかった。
ヒューと乾杯して、よく冷えたスパークリングワインを飲んだ。クラっと世界が浮くような感じになった。
ヒューもシャワーを浴びに行き、私は窓の外の夜景を見ながら、馬車でヒューとあちこち回って楽しかった日々に思いを馳せた。
かつて愛し合って結婚まで誓った私たちは、キス以上の関係はない。結婚式までは御法度の時代に生きていた王位継承権第一位の王子とその婚約者の聖女だから。
気づくと、シャワーから上がり、濡れた髪のヒューが私の目の前にいた。スパークリングワインのグラスをそっと私の手からヒューは取り、机の上に置いた。ヒューの唇が私に向かってきて、私は応えた。
ゆっくりと舌を入れられて、何もかもがとろけるような初めての感覚に私は飲み込まれた。
あぁ………っん
「ヴァイオレット、ずっとこうしたかった」
ヒューは切なそうな瞳で、ちょっと泣きそうな表情で、私を見つめて抱きしめた。
彼の手が私の下着をつけていないTシャツの胸に触り、私は甘い喘ぎ声をあげた。初めての感覚でどうしたら良いのかわからない。
「おかえりなさいませ、ヴァイオレットお嬢様」
「おかえり、ヴァイオレット」
魔導時ジーニンとヒューに微笑まれて私はほっとした。
「やっぱり怖かったわ。ものすごく緊張した」
私は言葉少なに二人に伝えた。講義の時間まであと1時間は猶予があった。私はテキパキと新しく得た情報を伝えた。
「ひどい」
魔導師ジーニンは、私が火傷をする瞬間の動画を見て顔を歪めて憤っていた。
「わざとに見えるな」
ヒューがそう言うと、魔導師ジーニンも小さく頷いた。ルネ伯爵家の話題になり、マルグリッドの兄の話になり、アルフレッド王子とマルグリッドの兄が仲が良いのはヒューも知っていたが、改めて奇妙な偶然だという話になった。処刑される前、私が馬車で一緒に各地を回っていたのはアルフレッド王子だ。マルグリッドの兄と仲が良いという話はアルフレッド王子から一度も聞いたことがなかった。
大学の講義の時間が終わるとファーストフード店のバイトに行った。バイトのシフトを終えて外に出ると、ヒューが迎えに来てくれていた。私は嬉しかった。
そこからがいつもと違った。私の心は何もかも思い出して、ヒューに会いたくて会いたくてたまらない状態だった。婚約破棄を言い渡されて心をズタボロにされたのに、だ。
私はどうかしているのかもしれない。
純斗が報告を待っているかもしれないと気になって躊躇したが、ヒューを独占したい気持ちに負けた。
過去の自分に戻ってみると、余計に今のヒューに会いたくなり、ヒューに誘われるままにヒューのマンションの部屋に来てしまった。ここにくるのは初めてだ。
一つ分かったことがある。私はヒューがとても好きだということだ。同時に、やり直しても、また失敗するかもしれないという恐怖を感じていた。
ならば、今目の前にいる彼に気持ちを伝えて関係を先にめようと決めた。20歳の富子としても、18歳のヴァイオレットとしても、ヒュー以外に最愛の人はいなかった。
21歳のヒューに再会した後に今のヒューに会うと、余計に愛しさが増した。彼に触れたくて彼に抱きしめてもらいたくてたまらなかった。
これはズタボロにされた自分の記憶を上書きしたいだけかもしれないし、私の死後にマルグリッドがヒューに近づいたと知って、私がそのことで嫉妬にかられているからかもしれない。
「過去のヒュー王子はどうだった?」
ヒューは私に何気なく過去の自分のことを聞いていた。少しナーバスになっているようだ。
「ヒューは過去でも爆イケだった」
私は正直に答えた。
「何だ、それは」
ヒューは戸惑った表情をしたが、少し嬉しそうに頬を赤らめた。
ヒューは私にシャワーを使っていいよと案内してくれた。豪華な作りの浴室だった。タオルの場所を教えてもらった。着替え用にヒューの大きなTシャツを用意してもらった。
私は自分の気持ちを伝える必要がある。心臓はドキドキが止まらず、今にも死んでしまいそうなほど高鳴っている。
本当に良いのかわからない。
シャワーを浴びて出てくると、彼が「何か飲む?」と聞いてくれた。スパーグリングワインか炭酸水かアイスコーヒーがあると言う。
「スパークリングワインでお願い」
ヒューがグラスを持ってきてくれた。
「ありがとう」
私がそう言うと、嬉しそうにヒューは笑った。
私はよく知っているヒューがこんなに嬉しそうな気持ちをあらわにしたことが新鮮で不思議な気持ちになった。
私はバイトの雇い主としてこの2ヶ月つきっきりで私のそばにいたヒューを見つめた。私の記憶を取り戻すために、私を救うために、何も覚えていない私を前に彼はずっとヴァイオレットとその周囲の話を私にし続けていた。
感謝しかなかった。彼にされたことは辛すぎたが、それをほのかにカバーできる温かさを感じた。あんなに酷いことを言われたのに、私の心は彼が必死で私を戻そうとし続けてくれたことに愛しさと感謝の感情を感じていて、その気持ちがこの瞬間だけは全てを上回っていた。
私とヒューの仲を裂こうとした人に一矢報いたいという思いが全く無いとは言えない。どこかにその気持ちがあることは否定できない。でも今は、ただただヒューのそばにいたかった。
ヒューと乾杯して、よく冷えたスパークリングワインを飲んだ。クラっと世界が浮くような感じになった。
ヒューもシャワーを浴びに行き、私は窓の外の夜景を見ながら、馬車でヒューとあちこち回って楽しかった日々に思いを馳せた。
かつて愛し合って結婚まで誓った私たちは、キス以上の関係はない。結婚式までは御法度の時代に生きていた王位継承権第一位の王子とその婚約者の聖女だから。
気づくと、シャワーから上がり、濡れた髪のヒューが私の目の前にいた。スパークリングワインのグラスをそっと私の手からヒューは取り、机の上に置いた。ヒューの唇が私に向かってきて、私は応えた。
ゆっくりと舌を入れられて、何もかもがとろけるような初めての感覚に私は飲み込まれた。
あぁ………っん
「ヴァイオレット、ずっとこうしたかった」
ヒューは切なそうな瞳で、ちょっと泣きそうな表情で、私を見つめて抱きしめた。
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