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第二章 二度目の人生 リベンジスタート
ヒューSide
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「迂闊過ぎます!」
俺は魔導師ジーニンにポルシェの中で責められていた。
俺たちはショッピングモールのフードコートの地下駐車場にいた。エンジンを切って、運転席から出た。助手席からジーニンも出てきた。他の人にはボロボロのシャツにジーンズ姿に見えるだろうが、俺の目には紫の長いマントを羽織ったジーニンだ。ジーニンは俺より少し年上だ。若くして父上に才能を買われたのはヴァイオレットと同じだ。
いや、ジーニンの本当の年齢は分からない。父も知らなかったから。とにかく俺よりは年上だということだ。
ジーニンと俺は二人ともヴァイオレットが処刑されるのを見た。ジーニンが守ろうとしたが、できなかった。なぜできなかったのかは色々ある。それは過去の話だから置いておいて(なぜなら一番悪いのは俺だからという自負心がある。俺があんな変な噂を鵜呑みにして頭に血が登って婚約破棄をしなければ、結果は違っていたのかもしれないという後悔だ)、過去ではなく今の俺の行動を責められていた。
「彼のスペックを見ましたか?」
魔導師ジーニンは長い紫のマントを翻して俺の後を追ってきた。俺はスマートキーを車に向けて鍵をかけながら、足早にエレベーターホールに向かった。
「スペック?彼はスキルを持っているのか?」
俺はハッとして魔導師ジーニンを振り返った。俺たちが話しているのは、アパートの住人のことだ。ヴァイオレットがこの世界で住んでいる古いアパートの下の階に住んでいる、ヴァイレオットと同じ大学に通う21歳の男子学生のことだ。彼はメガネをかけていて真面目そうで、賢そうだった。それしか印象がない。
「ルックスですよっ!」
魔導師ジーニンは地団駄踏むように俺に言った。俺の鈍さに苛立っているようだ。
「ルックス?」
そんなもの……と俺は思った。俺は人の容貌を気にしたことがない。ヴァイレットしか目に入らない。彼女の美しさは心を打つものがあったが、それより何より彼女の中身を含めた全てを愛していた。だから、裏切られたと思った時は悲しくて胸が痛くてやるせなかった。傷つけられて、世間知らずだった俺は簡単にその噂を信じてしまった。自分の価値を周りがどう狙っているかなんて、気にもしたことがなかったのだ。俺はダメな人間だった。
愛する者を信じられなくてどうするのか。周りがどう自分を利用しようとするのか、よく考えて振る舞えと父には数えきれないほど言われていた。
だが、俺はそれをしなかった。そんな信じがたい、あり得ないほどの悲劇を引き起こすとは、想像もしていなかった。だから、ヴァイオレットの悲劇には俺に責任がある。
「あなたは確かに美しいかもしれない。王子、よく聞いてください。しかし、あなたは根も葉もない噂を鵜呑みにしてヴァイオレットお嬢様に婚約破棄を告げて、結果的にヴァイオレットお嬢様は処刑された。そんな事実を前にすると、あなたの美貌はかすみます。しかし、彼はフレッシュだ!」
「彼?」
私はジーニンの剣幕にたじろいで、エレベーターホールで紫のマントを翻して地団駄踏むジーニンを見つめた。
「だから、あのアパートの階下に住む青年ですよ。彼はあなたにない魅力を持っていて、ものすごいハンサムだ!メガネだけしかあなたの目に止まらなかったかもしれませんが、彼の本当の姿をよく見てください。実にヴァイレオットお嬢様とお似合いだ!彼はヴァイレオットお嬢様を裏切ってもいない。彼は自ら犯人探しを手伝うと買って出た。彼はお嬢さまと年齢も近い。彼は同じ大学で学ぶハンサムで若い青年ですよ。何よりあなたと違って彼には瑕疵がない!」
俺はズキンと胸を打たれて、よろめいた。
そんな……せっかくここまできて……やっとヴァイオレットが記憶を取り戻すところまで漕ぎつけて(ここまでが長かった!)、ヴァイオレットがやり直しのために過去に戻ることができたのに……俺は他の人物にヴァイオレットを取られるのか。
いや。
我儘を言って良い立場にない。ヴァイレオットの命が助かればそれが一番だ。
だが、だが。だが……俺は頭を抱えた。
「いやだ。正直に言ってヴァイオレットが他の男性に惹かれたら、落ち込む。目の前でそんな光景は見たくない」
俺は涙ぐんでさえいた。
「しっかりなさい!ヒュー王子!」
魔導師ジーニンは俺に詰め寄った。
「私もこの世界に残るとヴァイオレットお嬢様に言われたら困るのです!」
ジーニンはギラギラした目で俺を見据えた。彼は本気だ。
「あなた様の花嫁になるべくお方です!あなたが婚約破棄さえしなければ!いいですか。ここで、この世界の若者の魅力にあなたは負けてはなりません。あなたにはハンディがある。最初から大幅なマイナスからの勝負となります。なぜなら、あなたは前回ヴァイレオットお嬢様が処刑される流れを作ってしまったからです」
魔導師ジーニンはエレベーターの上に上がるボタンをバシッと押した。
「気を引き締めてください。彼の力も得て、本当の犯人を突き止めるのはいいでしょう。しかし、あなたは彼より魅力ある人物でなければ、ここまで努力した意味がありませんっ!私もヴァイオレットお嬢様がここに残ると言われたら困るのですからっ!」
エレベーターの中には誰も乗っていなかった。俺と魔導時ジーニンはエレベーターに乗り込んだ。
「分かった。気を引き締めるよ」
俺は固く唇を結んでうなずいた。あと一時間でヴァイオレットが戻ってくる。ここの時間と俺たちのいた世界の時間は、進み方が違うのだ。
いつものフードコートでヴァイオレットの帰りを待つことになっていた。彼女は大学の講義があるから、フードコートに戻ってくる手筈になっている。
俺と魔導師ジーニンはいつものソファ席にハンカチーフを置いた。俺のレースの刺繍のついたハンカチーフだ。
――今日は何を食べよう?
俺はすっかりこの世界の魅力に取り憑かれていた。こちらの世界には美味しいものがたくさんあった。
――まずまずチョコレートがたっぷり乗ったふわふわのドーナツから食べよう。今頃、ヴァイレオットは書物が友だった22歳の俺と出会った頃だろうか。俺は体を鍛えるか、書物を読むかの2択のつまらない男だったなぁ。
冴えない自分が嫌になってきた俺は、ドーナツ売り場に並びながらため息をついた。気を引き締めよう、そう言い聞かせた。
俺は魔導師ジーニンにポルシェの中で責められていた。
俺たちはショッピングモールのフードコートの地下駐車場にいた。エンジンを切って、運転席から出た。助手席からジーニンも出てきた。他の人にはボロボロのシャツにジーンズ姿に見えるだろうが、俺の目には紫の長いマントを羽織ったジーニンだ。ジーニンは俺より少し年上だ。若くして父上に才能を買われたのはヴァイオレットと同じだ。
いや、ジーニンの本当の年齢は分からない。父も知らなかったから。とにかく俺よりは年上だということだ。
ジーニンと俺は二人ともヴァイオレットが処刑されるのを見た。ジーニンが守ろうとしたが、できなかった。なぜできなかったのかは色々ある。それは過去の話だから置いておいて(なぜなら一番悪いのは俺だからという自負心がある。俺があんな変な噂を鵜呑みにして頭に血が登って婚約破棄をしなければ、結果は違っていたのかもしれないという後悔だ)、過去ではなく今の俺の行動を責められていた。
「彼のスペックを見ましたか?」
魔導師ジーニンは長い紫のマントを翻して俺の後を追ってきた。俺はスマートキーを車に向けて鍵をかけながら、足早にエレベーターホールに向かった。
「スペック?彼はスキルを持っているのか?」
俺はハッとして魔導師ジーニンを振り返った。俺たちが話しているのは、アパートの住人のことだ。ヴァイオレットがこの世界で住んでいる古いアパートの下の階に住んでいる、ヴァイレオットと同じ大学に通う21歳の男子学生のことだ。彼はメガネをかけていて真面目そうで、賢そうだった。それしか印象がない。
「ルックスですよっ!」
魔導師ジーニンは地団駄踏むように俺に言った。俺の鈍さに苛立っているようだ。
「ルックス?」
そんなもの……と俺は思った。俺は人の容貌を気にしたことがない。ヴァイレットしか目に入らない。彼女の美しさは心を打つものがあったが、それより何より彼女の中身を含めた全てを愛していた。だから、裏切られたと思った時は悲しくて胸が痛くてやるせなかった。傷つけられて、世間知らずだった俺は簡単にその噂を信じてしまった。自分の価値を周りがどう狙っているかなんて、気にもしたことがなかったのだ。俺はダメな人間だった。
愛する者を信じられなくてどうするのか。周りがどう自分を利用しようとするのか、よく考えて振る舞えと父には数えきれないほど言われていた。
だが、俺はそれをしなかった。そんな信じがたい、あり得ないほどの悲劇を引き起こすとは、想像もしていなかった。だから、ヴァイオレットの悲劇には俺に責任がある。
「あなたは確かに美しいかもしれない。王子、よく聞いてください。しかし、あなたは根も葉もない噂を鵜呑みにしてヴァイオレットお嬢様に婚約破棄を告げて、結果的にヴァイオレットお嬢様は処刑された。そんな事実を前にすると、あなたの美貌はかすみます。しかし、彼はフレッシュだ!」
「彼?」
私はジーニンの剣幕にたじろいで、エレベーターホールで紫のマントを翻して地団駄踏むジーニンを見つめた。
「だから、あのアパートの階下に住む青年ですよ。彼はあなたにない魅力を持っていて、ものすごいハンサムだ!メガネだけしかあなたの目に止まらなかったかもしれませんが、彼の本当の姿をよく見てください。実にヴァイレオットお嬢様とお似合いだ!彼はヴァイレオットお嬢様を裏切ってもいない。彼は自ら犯人探しを手伝うと買って出た。彼はお嬢さまと年齢も近い。彼は同じ大学で学ぶハンサムで若い青年ですよ。何よりあなたと違って彼には瑕疵がない!」
俺はズキンと胸を打たれて、よろめいた。
そんな……せっかくここまできて……やっとヴァイオレットが記憶を取り戻すところまで漕ぎつけて(ここまでが長かった!)、ヴァイオレットがやり直しのために過去に戻ることができたのに……俺は他の人物にヴァイオレットを取られるのか。
いや。
我儘を言って良い立場にない。ヴァイレオットの命が助かればそれが一番だ。
だが、だが。だが……俺は頭を抱えた。
「いやだ。正直に言ってヴァイオレットが他の男性に惹かれたら、落ち込む。目の前でそんな光景は見たくない」
俺は涙ぐんでさえいた。
「しっかりなさい!ヒュー王子!」
魔導師ジーニンは俺に詰め寄った。
「私もこの世界に残るとヴァイオレットお嬢様に言われたら困るのです!」
ジーニンはギラギラした目で俺を見据えた。彼は本気だ。
「あなた様の花嫁になるべくお方です!あなたが婚約破棄さえしなければ!いいですか。ここで、この世界の若者の魅力にあなたは負けてはなりません。あなたにはハンディがある。最初から大幅なマイナスからの勝負となります。なぜなら、あなたは前回ヴァイレオットお嬢様が処刑される流れを作ってしまったからです」
魔導師ジーニンはエレベーターの上に上がるボタンをバシッと押した。
「気を引き締めてください。彼の力も得て、本当の犯人を突き止めるのはいいでしょう。しかし、あなたは彼より魅力ある人物でなければ、ここまで努力した意味がありませんっ!私もヴァイオレットお嬢様がここに残ると言われたら困るのですからっ!」
エレベーターの中には誰も乗っていなかった。俺と魔導時ジーニンはエレベーターに乗り込んだ。
「分かった。気を引き締めるよ」
俺は固く唇を結んでうなずいた。あと一時間でヴァイオレットが戻ってくる。ここの時間と俺たちのいた世界の時間は、進み方が違うのだ。
いつものフードコートでヴァイオレットの帰りを待つことになっていた。彼女は大学の講義があるから、フードコートに戻ってくる手筈になっている。
俺と魔導師ジーニンはいつものソファ席にハンカチーフを置いた。俺のレースの刺繍のついたハンカチーフだ。
――今日は何を食べよう?
俺はすっかりこの世界の魅力に取り憑かれていた。こちらの世界には美味しいものがたくさんあった。
――まずまずチョコレートがたっぷり乗ったふわふわのドーナツから食べよう。今頃、ヴァイレオットは書物が友だった22歳の俺と出会った頃だろうか。俺は体を鍛えるか、書物を読むかの2択のつまらない男だったなぁ。
冴えない自分が嫌になってきた俺は、ドーナツ売り場に並びながらため息をついた。気を引き締めよう、そう言い聞かせた。
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