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第二章 二度目の人生 リベンジスタート

国王陛下にご挨拶

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 バリドン公爵家は大騒ぎになった。とにかくこの日は妹のアンヌの2歳の誕生日会で知り合いの貴族のほとんどが招待されていた。彼らは目にしたものについて口々に意見を述べ合った。

 全員の意見が一致したことが、ヴァイオレット公爵令嬢は聖女になり得る力を持つということだ。

 私は一度この流れを経験しているので、特に驚きはしなかった。すぐさま宮殿に情報を伝えるためにバリドン公爵家の使いの者が出発した。現在私が手にしているアイテムはスマホのみだ。私はカシャカシャと密かに写真を撮りまくった。

 どこかのタイミングでヒントになるアイテムをもっと入手するつもりだ。料理に使われている香辛料から、貴重な絹で仕立てられたシャーロットおばさまのドレスや、貴族のビールと言われる小麦で作られた白ビールまでスマホで写真をこっそり撮った。
 
 私は知っている。その夜遅く、明日宮殿にヴァイオレット公爵令嬢を連れてくるようにと国王からの要請が届くのだ。

「きっと宮殿に明日行くことになるわ。お父様、お母様、準備をしてください」

 スマホである程度写真を撮り終えると、そう伝えて自分のベッドで横になった。火傷の跡は跡形もなく消えた。前回の時より治りが早い。私はベッドの中でひたすら国王に会った時になんというかを考えていた。私は18歳で死んだ時のスキルを16歳の体に持っている。

 うとうとと寝ていた私は、そっと起こされた。祖父と父と母が私の部屋にアデルと一緒にやってきた。まだ19時ぐらいだろうか。外は真っ暗になっている。


「ヴァイオレットの言う通りだった。明日、国王陛下に会いに宮殿に行くことになった。ヴァイオレットが言ってくれたおかげで、準備は全て整っている。明日の朝、早くに出発だ。少しでもいいから夕飯を食べて寝なさい」

 祖父は白髪だらけの髪の毛をボサボサにしていた。いつもは綺麗に撫で付けているのに、想定外のことが起きて大変だったのだろう。

 アンヌの誕生会に訪れていた人たちだけでなく、教会や色んな人がやってきて私が聖女だった場合についてアドバイスをしたのだろう。前回の騒ぎを私は知っているので、何も聞かなくても私は分かった。

「国王陛下の前で私の力を確認するだけよ。私なら大丈夫よ、お祖父様、お父様お母様。私の力は強いの。きっと聖女には選ばれる。でも、カトリーヌだってすごい力を持っているのよ。彼女も聖女になるべきだわ、お祖父様。彼女の手当をなくしてほしくないの。お願いよ。私一人が聖女に選ばれたら、他の聖女候補は困ったことになる。それは結果的に私に跳ね返るの。だから他の聖女候補も選ばれるように力を貸していただきたいの」

 私は祖父のバリドン公爵にお願いした。

「おぉ、ヴァイオレット。事情は分かった」

 祖父は一瞬で私の言いたいことが分かったようだった。前回はしなかった会話を私は祖父とした。別世界では中世の魔女裁判はやはり火炙りの刑だった。野蛮でありえない処罰だ。そんな刑をなくしたいと強く私は思った。ましてや私が誰かの恨みを買ってそんな野蛮の刑に処せられるなんて、一度ならず二度もは絶対に避けたい。

 アデルが夕食を少し運び入れてくれて、私は言われた通りに部屋で食事をとった。傷は癒えていたが、それを使用人の皆が目の当たりにすると、また大変な騒ぎになることは前回のことで知っていた。料理人たちは私に火がついたのを皆目撃したのだから。だから部屋で食事を取ったのだ。

 私は一人で考え続けた。

 どこの土地をどうしてどの山が鉱山になるかをすぐさま国王に伝えることに決めた。どの土地に価値があるのか、どうすれば国を豊かにできるのか、前回の人生でわかっていることを先に伝えるのだ。その上で、聖女を一人に絞る必要はないと思うと訴えよう。

 よく考えてみれば、国王も容疑者の一人だ。国王が私の処刑を命じた張本人なのだから。


 ――ヒューより最上位の容疑者は国王になる。そうだ、みんな気づかなかったけれど、国王が私の失墜を仕組んだ張本人の可能性だってある!

 私は初めて気づいたことに恐怖を感じた。背筋が寒くなる思いだった。私を見据えて処刑を言い渡した時の国王の顔は忘れられない。明日、私は平常心で国王に挨拶できるのだろうか。

 人間の醜さというものを思い知った今は、対処できなければ聖女失格だと知っている。よく考えるのだ。自分の身を守るために。


 国王に会った後、明日はヒューにも出会う。ヒューはこの時すでに21歳のはずだ。16歳の私を見ても興味を持たないはずだ。私たちが恋に落ちるのは、2年後の私が18歳でヒューが24歳の時のヒューだ。婚約したのはヒューが25歳で私が18歳のときだ。

 ヒューの力を借りることを早めるべきか。

 別世界で20歳の富子が出会ったヒューは、27歳くらいだろうか。31歳とヒューは言っていたが、本当かわからない。31歳よりは若く見えたから。とはいうものの、私が前回の人生で最後の日に宮殿で見たヒューよりは、別世界で再会したヒューはグンと大人びていた。

 そういえば、陛下の甥であるアルフレッド王子について、ヒューの情報が無かった。アルフレッド王子は私と一緒に馬車であちこち見て回ったが、本当は何者なのだろう。

 それにしても、私は前回の人生では色んな人をよく見ていない。アルフレッドと私は呼んでいたが、彼は栗色の髪にキラキラが輝く茶色の瞳で、時々奇妙な冗談を言う人だった。母が亡くなったお葬式の日、アルフレッドには初めて会ったと記憶している。再会したアルフレッドは、私にはとても優しかった。
 
 一貫してアルフレッドは優しかったが、私は前回の人生で人と深く関わろうとはしなかった。この点は改善しよう。

 この週は国王に会った後は、聖女の特別教育機関への招待をもらって、父と一緒に王立修道院を訪問したぐらいだ。その後、家庭教師のパンティエーヴル先生がやってきた。

 去年の誕生日に貰った新しい日記帳を取り出して、私は書き始めた。私が6日後に私が去った後の16歳のヴァイオレットの行動指針とするためにだ。ヴァイオレットは今度こそ殺されてはならない。処刑される運命を回避するのだ。

 明日はスマホで国王を撮影したいが、そんな隙があるのか私は自信が無かった。ガラスの馬車で走りながら、あちこち撮影しよう。そう思ったら、気分が少し軽くなり、日記を書くのをやめて私は眠りについた。

 
 ――早くヒューに会いたい。

 眠りに入る前に、私はそう思った。





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