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第二章 二度目の人生 リベンジスタート
ルネ伯爵令嬢マルグリッドの疑惑(2)
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ルネ伯爵令嬢のマルグリッドはプリンがもっと食べたくて、給仕に頼んでいた。私はその姿をスマホにこっそり撮った。
お肉をもっと食べたいらしく、席をたち、料理人たちが肉を焼いている火のそばに近づいた。私はそれもスマホに撮った。ここまでは別に自然だ。
ルネ伯爵令嬢のマルグリッドが急に振り返って私の名前を呼んだ。
「ヴァイオレット様!一緒に食べましょう!」
愛らしい頬を赤く染めて、マルグリッドはニコニコして私を呼んだ。私は動画撮影ボタンを押してそのままマルグリッドに近づいて行った。
「ほら!たくさん食べましょうよ!とっても美味しいですわ」
マルグリッドが私に呼びかける。マルグリッドの侍女が私の背後にいた。
継母のルイーズが私に注意をした。
「ヴァイオレット、火からもっと離れなさいっ!」
プリンを持ってきたバリドン公爵家の給仕の者とルネ伯爵家の侍女がぶつかり、ルイーズの声で後ろに後ずさった私がそれにぶつかった。勢いで私は火の中に押し出された。
エメラルドのドレスに瞬く間に火がついた。皆の悲鳴が聞こえる。
――痛い!死ぬほど痛い!
「Lvl12の水の精にタスクを命じますか?」
「命じます!」
私は頭の中で聞こえた声に応えた。
私のエメラルドのドレスから瞬く間に火が消えた。私の赤く焼けた皮膚が見える。
「Lvl8の沈静力を使いますか?」
「使います!」
ジリジリと死ぬほど痛かった肌から痛みが少しずつ消えた。真っ赤になった皮膚から赤みが少しずつ消えていく。ほんの一瞬のことで、私はそもそもこうなることを知っていた。だから、前よりずっとスムーズにスキルを発動した。訓練を受けた記憶も残っている。16歳の私のスキルが完璧に仕上がっていなくても、私は聖女の訓練を受けた後の状態だった。
「ヴァイオレット!」
真っ先に走って駆け寄ってきたのは、継母ルイーズと父だった。
ルネ伯爵令嬢のマルグリッドは呆然と私を見ていた。ルネ伯爵家の侍女も、バリドン公爵家の給仕も料理人もあまりの出来事に、驚きのあまり身動きが取れない様子だった。
「まぁ!ヴァイオレットは聖女だわ」
シャーロットおばさまの震えるような声が聞こえた。ゼルニエ公爵夫人のおばさまと、その夫のゼルニエ公爵が真っ青な顔をして私に駆け寄ってきた。
「ヴァイオレットは無事なんだな!?」
あたりに轟くような声で叫んだのは、バリドン公爵の祖父だ。
「はい!ヴァイオレットお嬢様はご無事でございます!」
「お父様、ヴァイオレットは無事です!」
一気にあたりに私の無事を確かめ合う声が溢れた。私はそっと父に抱き抱えられて、「ハリー!医師を呼んでちょうだい!」と叫ぶ継母ルイーズの声で執事のハリーが駆け出すのが分かった。今の動きだけで、継母ルイーズが犯人ではないと断言はできないが、少なくともルイーズは今回の件には無関係に見えた。
だが、マルグリッドは分からない。無邪気な様子で私を心配している顔のマルグリッドをチラリと見ながら、私は父によって屋敷の中に担ぎ込まれた。
ヒューは、もしかすると犯人側ではないのかもしれない。マルグリッドが今の火傷騒ぎを演出した疑惑がやはりある。ヒューはこの場にいなかったし、この時点では私に会ったことすらない。
私はヒューに会いたいと思ってしまった。早くこの世界から抜け出して、元の世界に戻りたい。20歳の苦学生の私は、この世界の恐ろしさに怯みそうだった。
ガラスの馬車はバリドン公爵家には存在するが、あの20歳のバイトをする私が知っている素敵なヒューはここにはいない。
マルグリッドのことをあのヒューと魔導士ジーニンに報告するには、あと5日をこの世界で過ごすのだ。
明日は16歳のヴァイオレットが聖女候補になったとして、サミュエルが御者を務めるガラスの馬車に乗って宮殿に行く。国王に挨拶をする日だ。私に処刑を命じたあの国王だ。
国王が私を処刑する理由は何だったんだろうか。単に虚偽の報告に騙されただけなのだろうか。
会うのが怖い人だ。平常心を保つよう、私は自分に言い聞かせた。
お肉をもっと食べたいらしく、席をたち、料理人たちが肉を焼いている火のそばに近づいた。私はそれもスマホに撮った。ここまでは別に自然だ。
ルネ伯爵令嬢のマルグリッドが急に振り返って私の名前を呼んだ。
「ヴァイオレット様!一緒に食べましょう!」
愛らしい頬を赤く染めて、マルグリッドはニコニコして私を呼んだ。私は動画撮影ボタンを押してそのままマルグリッドに近づいて行った。
「ほら!たくさん食べましょうよ!とっても美味しいですわ」
マルグリッドが私に呼びかける。マルグリッドの侍女が私の背後にいた。
継母のルイーズが私に注意をした。
「ヴァイオレット、火からもっと離れなさいっ!」
プリンを持ってきたバリドン公爵家の給仕の者とルネ伯爵家の侍女がぶつかり、ルイーズの声で後ろに後ずさった私がそれにぶつかった。勢いで私は火の中に押し出された。
エメラルドのドレスに瞬く間に火がついた。皆の悲鳴が聞こえる。
――痛い!死ぬほど痛い!
「Lvl12の水の精にタスクを命じますか?」
「命じます!」
私は頭の中で聞こえた声に応えた。
私のエメラルドのドレスから瞬く間に火が消えた。私の赤く焼けた皮膚が見える。
「Lvl8の沈静力を使いますか?」
「使います!」
ジリジリと死ぬほど痛かった肌から痛みが少しずつ消えた。真っ赤になった皮膚から赤みが少しずつ消えていく。ほんの一瞬のことで、私はそもそもこうなることを知っていた。だから、前よりずっとスムーズにスキルを発動した。訓練を受けた記憶も残っている。16歳の私のスキルが完璧に仕上がっていなくても、私は聖女の訓練を受けた後の状態だった。
「ヴァイオレット!」
真っ先に走って駆け寄ってきたのは、継母ルイーズと父だった。
ルネ伯爵令嬢のマルグリッドは呆然と私を見ていた。ルネ伯爵家の侍女も、バリドン公爵家の給仕も料理人もあまりの出来事に、驚きのあまり身動きが取れない様子だった。
「まぁ!ヴァイオレットは聖女だわ」
シャーロットおばさまの震えるような声が聞こえた。ゼルニエ公爵夫人のおばさまと、その夫のゼルニエ公爵が真っ青な顔をして私に駆け寄ってきた。
「ヴァイオレットは無事なんだな!?」
あたりに轟くような声で叫んだのは、バリドン公爵の祖父だ。
「はい!ヴァイオレットお嬢様はご無事でございます!」
「お父様、ヴァイオレットは無事です!」
一気にあたりに私の無事を確かめ合う声が溢れた。私はそっと父に抱き抱えられて、「ハリー!医師を呼んでちょうだい!」と叫ぶ継母ルイーズの声で執事のハリーが駆け出すのが分かった。今の動きだけで、継母ルイーズが犯人ではないと断言はできないが、少なくともルイーズは今回の件には無関係に見えた。
だが、マルグリッドは分からない。無邪気な様子で私を心配している顔のマルグリッドをチラリと見ながら、私は父によって屋敷の中に担ぎ込まれた。
ヒューは、もしかすると犯人側ではないのかもしれない。マルグリッドが今の火傷騒ぎを演出した疑惑がやはりある。ヒューはこの場にいなかったし、この時点では私に会ったことすらない。
私はヒューに会いたいと思ってしまった。早くこの世界から抜け出して、元の世界に戻りたい。20歳の苦学生の私は、この世界の恐ろしさに怯みそうだった。
ガラスの馬車はバリドン公爵家には存在するが、あの20歳のバイトをする私が知っている素敵なヒューはここにはいない。
マルグリッドのことをあのヒューと魔導士ジーニンに報告するには、あと5日をこの世界で過ごすのだ。
明日は16歳のヴァイオレットが聖女候補になったとして、サミュエルが御者を務めるガラスの馬車に乗って宮殿に行く。国王に挨拶をする日だ。私に処刑を命じたあの国王だ。
国王が私を処刑する理由は何だったんだろうか。単に虚偽の報告に騙されただけなのだろうか。
会うのが怖い人だ。平常心を保つよう、私は自分に言い聞かせた。
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