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第二章 二度目の人生 リベンジスタート
ルネ伯爵令嬢マルグリッドの疑惑(1)
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2歳の妹の誕生日に招待されていたのは、シャルロットおばさまを始め、ヒューがiPadで私に説明したほぼ全員がその場にいた。よく晴れた午後で、公爵家の庭園にテントを張られて、テーブルの上には贅沢なご馳走が並んだ。
私はヒューに説明されていたおかげで動じることなく、人々の様子をじっと観察できた。
ヴァイオレットの祖父は狩猟が好きな人で、領地の森で仕留めた獲物の肉をバーベキューのように串に刺し、よく焼いてにして振る舞うのが好きだった。
よく晴れているとは言え、春の日差しはまだ夏ほどはない。暖を取る意味もあり、この日も焚き火のように火が起こされていて、そこで男性の料理人たちが肉をよく焼いて振舞おうとしていた。
テーブルに次から次に運ばれてきたのは香辛料が使われている料理だった。バリドン公爵家では、サフラン、胡椒、コリアンダー、生姜、パセリ、バジル、シナモン。ありとあらゆるこの時代に手に入ったと思われる香辛料が使われていた。やはりある程度資金力はあり、血液をサラサラにする効果のあるサフランや、肉の保存に効いて結果的にペスト菌を寄せ付けない胡椒、神経保護効果や抗不安効果、抗けいれん効果のあるコリアンダーなど、医学的には現代でも効果が明確になっている香辛料を手に入れているようだ。
ならば、と私は内心思った。やはり、他の物も手にいれることはできるかもしれない。カカオやコーヒーだ。でも今の私の16歳の年齢だとコーヒーは沢山は飲めないと気づいて落胆した。チョコレートを作れる可能性はあるかもしれないと思った。ロンドンのチョコレートハウスは1657年頃だ。コーヒーハウスの出現もその頃だ。バリドン公爵家の香辛料の使いっぷりでは、この様子なら望めば手に入るだろう。
私はホッとした。落ち着いてくると、ヒューが説明しなかった人物をこっそりスマホで写真を撮った。
まず聖女候補の20歳のカトリーヌだ。彼女は貧しい家の生まれだが、聖女になるかもしれないということで国から手当が出ていて、彼女の家はそれで随分助かったと聞く。貴族から褒賞をもらいながら、相談された領地の様々なことを解決していると聞いた。今一番私が親近感を抱く境遇はカトリーヌだ。彼女の気持ちは分かる。
しかし、私が聖女になって困った人物ナンバーワンは、もしかすると聖女候補かもしれず、カトリーヌはかなり困窮した可能性もある。
すでに大金持ちの公爵令嬢のなのに王子の婚約者となり、さらに聖女だなんて神様は不公平過ぎる。苦学生だった私の境遇からすると、この世界のヴァイオレットである私のステータスは圧倒的に変だ。
――あぁ、だから若くして死ぬわけか……不公平過ぎるからバランスのためには早死にとなる?
――ってそんなわけないでしょう。
だからと言って私が濡れ衣を着せられて裏切られて処刑されて良いわけがない。
――でも、この不公平さに私自身が気づいていないことはもはや罪だ。
三笠富子の目線で見ると、ヴァイオレットの私はやはり聖女失格だった。カトリーヌの方が適していたりはしないだろうか。
私はカトリーヌのそばに近づき、にこやかに話しかけた。
「カトリーヌ様、初めまして。アンヌの姉のヴァイオレットです」
「あら、初めまして。カトリーヌよ。よろしくね」
カトリーヌは健康的に日に焼けた小麦色の肌をふわりと上気させて微笑んだ。
「スキルが見たいですが」
私はそっとカトリーヌにささやいた。
「あら、聖女に興味があるの?」
「えぇ」
私は彼女に微笑んだ。
「でも、訓練を積んである程度の力を持たないと見えないかもしれないわ」
カトリーヌは私に見えないかもしれないと配慮している言葉を囁いた。
「そうかもしれません。でも見たいのです」
私はそっと囁いた。カトリーヌは私の目を見つめてにっこりすると「ステータスオープン」と小さな声で言った。
カトリーヌの頭上にスキルが表示された。18歳まで生きてから死に、異世界に転生して20歳で記憶を全て取り戻してから戻ってきた私には、カトリーヌのスキルが見えた。
「素晴らしいわ」
私はため息をついた。確かに私のスキルには劣るが、彼女のスキルは素晴らしいものだった。
――聖女を一人と認定する必要はないわ。これは今回変えるポイントよ。
「聖女は何人認定されてもいいものです。私はあなたは聖女に相応しいと思います。あなたがも聖女に選ばれるようにするべきです」
私はカトリーヌにしっかりと囁いた。
――いい?私がこれから示す力によって、あなたが聖女に選ばれないということはないようにするわ。
私はカトリーヌの耳に私の言葉が残ってくれることを祈りながら囁いた。
私の目に運転手のサミュエルの姿が映った。御者の姿をして来賓の馬車をうまく整然と並べているようだ。この時点のサミュエルは未来に何が起きるか知らない。魔導師ジーニンが私のところにやってくるのはもっと後だ。もちろん、ヒューは宮殿にいて私の存在など知りもしない。
さて、親友のマルグリッドの動きに集中しよう。私が処刑された日、ヒューの隣にいたのは本当にマルグリッドだったのかもしれない。大学の中庭でヒューが動揺した顔を思い出した。
『確かにマルグリットは僕に近づいてきた。君の親友だったはずのルネ伯爵令嬢マルグリットが教えてくれたことがあって、僕が君を疑うきっかけになったのは確かだ』
背の低くて丸顔で、ぽっちゃりとした体型のマルグリッドは16歳の頃から変わらず、皆に愛される雰囲気でニコニコと食事を食べていた。実はルネ伯爵令嬢のマルグリッドは、この時点では私と親友ではない。この後起きた事件で私とマルグリッドは急接近する。
私は思い出したのだ。この後事件が起きて私の聖女となる力が皆に示されるが、そのきっかけを作ったのは、16歳のマルグリッドだった。私はそのことを2年もの間すっかり忘れていた。
私はヒューに説明されていたおかげで動じることなく、人々の様子をじっと観察できた。
ヴァイオレットの祖父は狩猟が好きな人で、領地の森で仕留めた獲物の肉をバーベキューのように串に刺し、よく焼いてにして振る舞うのが好きだった。
よく晴れているとは言え、春の日差しはまだ夏ほどはない。暖を取る意味もあり、この日も焚き火のように火が起こされていて、そこで男性の料理人たちが肉をよく焼いて振舞おうとしていた。
テーブルに次から次に運ばれてきたのは香辛料が使われている料理だった。バリドン公爵家では、サフラン、胡椒、コリアンダー、生姜、パセリ、バジル、シナモン。ありとあらゆるこの時代に手に入ったと思われる香辛料が使われていた。やはりある程度資金力はあり、血液をサラサラにする効果のあるサフランや、肉の保存に効いて結果的にペスト菌を寄せ付けない胡椒、神経保護効果や抗不安効果、抗けいれん効果のあるコリアンダーなど、医学的には現代でも効果が明確になっている香辛料を手に入れているようだ。
ならば、と私は内心思った。やはり、他の物も手にいれることはできるかもしれない。カカオやコーヒーだ。でも今の私の16歳の年齢だとコーヒーは沢山は飲めないと気づいて落胆した。チョコレートを作れる可能性はあるかもしれないと思った。ロンドンのチョコレートハウスは1657年頃だ。コーヒーハウスの出現もその頃だ。バリドン公爵家の香辛料の使いっぷりでは、この様子なら望めば手に入るだろう。
私はホッとした。落ち着いてくると、ヒューが説明しなかった人物をこっそりスマホで写真を撮った。
まず聖女候補の20歳のカトリーヌだ。彼女は貧しい家の生まれだが、聖女になるかもしれないということで国から手当が出ていて、彼女の家はそれで随分助かったと聞く。貴族から褒賞をもらいながら、相談された領地の様々なことを解決していると聞いた。今一番私が親近感を抱く境遇はカトリーヌだ。彼女の気持ちは分かる。
しかし、私が聖女になって困った人物ナンバーワンは、もしかすると聖女候補かもしれず、カトリーヌはかなり困窮した可能性もある。
すでに大金持ちの公爵令嬢のなのに王子の婚約者となり、さらに聖女だなんて神様は不公平過ぎる。苦学生だった私の境遇からすると、この世界のヴァイオレットである私のステータスは圧倒的に変だ。
――あぁ、だから若くして死ぬわけか……不公平過ぎるからバランスのためには早死にとなる?
――ってそんなわけないでしょう。
だからと言って私が濡れ衣を着せられて裏切られて処刑されて良いわけがない。
――でも、この不公平さに私自身が気づいていないことはもはや罪だ。
三笠富子の目線で見ると、ヴァイオレットの私はやはり聖女失格だった。カトリーヌの方が適していたりはしないだろうか。
私はカトリーヌのそばに近づき、にこやかに話しかけた。
「カトリーヌ様、初めまして。アンヌの姉のヴァイオレットです」
「あら、初めまして。カトリーヌよ。よろしくね」
カトリーヌは健康的に日に焼けた小麦色の肌をふわりと上気させて微笑んだ。
「スキルが見たいですが」
私はそっとカトリーヌにささやいた。
「あら、聖女に興味があるの?」
「えぇ」
私は彼女に微笑んだ。
「でも、訓練を積んである程度の力を持たないと見えないかもしれないわ」
カトリーヌは私に見えないかもしれないと配慮している言葉を囁いた。
「そうかもしれません。でも見たいのです」
私はそっと囁いた。カトリーヌは私の目を見つめてにっこりすると「ステータスオープン」と小さな声で言った。
カトリーヌの頭上にスキルが表示された。18歳まで生きてから死に、異世界に転生して20歳で記憶を全て取り戻してから戻ってきた私には、カトリーヌのスキルが見えた。
「素晴らしいわ」
私はため息をついた。確かに私のスキルには劣るが、彼女のスキルは素晴らしいものだった。
――聖女を一人と認定する必要はないわ。これは今回変えるポイントよ。
「聖女は何人認定されてもいいものです。私はあなたは聖女に相応しいと思います。あなたがも聖女に選ばれるようにするべきです」
私はカトリーヌにしっかりと囁いた。
――いい?私がこれから示す力によって、あなたが聖女に選ばれないということはないようにするわ。
私はカトリーヌの耳に私の言葉が残ってくれることを祈りながら囁いた。
私の目に運転手のサミュエルの姿が映った。御者の姿をして来賓の馬車をうまく整然と並べているようだ。この時点のサミュエルは未来に何が起きるか知らない。魔導師ジーニンが私のところにやってくるのはもっと後だ。もちろん、ヒューは宮殿にいて私の存在など知りもしない。
さて、親友のマルグリッドの動きに集中しよう。私が処刑された日、ヒューの隣にいたのは本当にマルグリッドだったのかもしれない。大学の中庭でヒューが動揺した顔を思い出した。
『確かにマルグリットは僕に近づいてきた。君の親友だったはずのルネ伯爵令嬢マルグリットが教えてくれたことがあって、僕が君を疑うきっかけになったのは確かだ』
背の低くて丸顔で、ぽっちゃりとした体型のマルグリッドは16歳の頃から変わらず、皆に愛される雰囲気でニコニコと食事を食べていた。実はルネ伯爵令嬢のマルグリッドは、この時点では私と親友ではない。この後起きた事件で私とマルグリッドは急接近する。
私は思い出したのだ。この後事件が起きて私の聖女となる力が皆に示されるが、そのきっかけを作ったのは、16歳のマルグリッドだった。私はそのことを2年もの間すっかり忘れていた。
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