【完結】世界転生バイトですが、裏切られて捨てられた公爵令嬢の聖女と私を煽てるあなたは恋愛詐欺師ですか?知りませんが、幸せな花嫁になるので!

西野歌夏

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第一章 私を陥れたのは誰?

聖女降臨 完全覚醒(2)

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「さあ、立ちなさい!」
 
 ほとんど飲まず食わずで数日過ごした後、フラフラの私は引っ立てられるように皆の前に引きずり出された。

 連れて行かれた広間には国王がいた。ヒューの父だ。私が目を動かすと、ヒューと目があった。彼の目は冷たく、私を見返した。

 それだけで私の心は凍りついた。

「ヴァイオレット・ジョージアナ・エリザベス・バルドン。そなたは我が国の土地を隣国に売り渡すことに加担したな」

「いえ、そのようなこと…………」

 私の消え入るような声での弁解はかき消された。

「この聖女は嘘をついています!」

 誰か知らない人が大声ではっきりと私を非難した。

「聖女ならば、力を示しなさい」

 国王が私に催促したが、私は力無く項垂れていた。私から聖女のスキルはもう失われている。それは自分が一番よく知っている。

 皆が次から次に私のことを非難する告発を続けたが、私はひたすらうなだれるばかりで、何も言えなかった。言葉を発する気力がもうなかったのだ。

 最後に私が引き立ててられていく瞬間、私は婚約者だったヒュー王子を思わず見つめた。

 ヒューの瞳にわずかな憐憫が見えた。私はその瞳を見ただけで、押さえてきた涙が込み上げてきて、力無く泣いた。ヒューの隣に、私の親友だったルネ伯爵令嬢のマルグリッドの姿を見たと思ったが、見間違いかもしれない。私の目は涙で曇っていたから。

 泣きながら引きずられて行った。もう何もかもどうでもいいと思えた。力を失った聖女など用無しだ。

 華やかなドレスに未練があったわけではない。公爵令嬢としての人生に未練があったわけではない。聖女としてのスキルに未練があったわけではない。ただひたすら、最愛の人に裏切られてフラれたという事に私の心は計り知れない打撃を受けて立ち上がれなかったのだ。

 大きな十字架に体を縛り付けられて、腕を縛られた。

 その瞬間、私はハッと気づいた。

 ――私が一体何をしたというの?

 ――私は何も悪いことなんてしていない!皆は嘘で私を殺そうとしている!

 ――だめよ!ここで死んではならないっ!
 
 ――私を罠に嵌めた人たちに負けてはならないっ!

 炎が私の体を包んだ瞬間、わずかなスキルが確かに私の体に戻ってきたのを感じた。だが、18歳の私は結局全てを失って屈した。

 意識を失う直前、亡くなった母の顔が炎の中に浮かんだ。母はとても悲しい顔をして泣きながら私を見つめた。

 今まで私を振ったヒューのことしか頭になかったが、シャーロットおばさまと呼んでいたゼルニエ侯爵夫人、その夫のゼルニエ侯爵、レロックス男爵、その子息のスチュアート、レロックス男爵夫人、モートン伯爵、モートン伯爵夫人、モートン伯爵令嬢のキャサリン、アリス姉妹、執事のハリー、家庭教師のパンティエーヴルさん、侍女のアデル、親友だったはずのルネ伯爵令嬢のマルグリット……父、継母、妹のアンヌ……。走馬灯のように私の周りにいた人の顔がぐるぐると浮かんだ。

 誰が私を?一体誰が私を?
 何の恨みが私にあったのだろうか。


 ――やり直して仕返して幸せになりた…………


◆◆◆


 私が次に気づいた時は、別の世界に転生してファーストフード店でバイトをしていた。20歳の若い女性だ。

 ――やり直して仕返して幸せになりたい?

 私はふと浮かんだ強烈な思いに、心を動かされた。 

 ――ステータスオープン。

 心の中でひっそりと言ってみた。

 私の頭上にはとてつもない能力を示すスキルが羅列されていた。周りの誰にも見えないようだ。数百と続く私に備わるスキルの一覧を私はチラッと見た。

 どうやら聖女としてのスキルは復活したようだ。

 ――待ってなさい。犯人を突き止めて、運命を変えてやるわ。

 私は目の前にきたファーストフード店の顧客にとびっきりの笑顔で微笑んだ。

「魔導師ジーニン様。わざわざ別世界から私を追ってきてくださりありがとうございます。今日もチーズバーガーですか?」

「ありがとう、ヴァイオレット聖女様。チーズバーガーとコーラーとポテトのセットを1つお願いします」

 魔導師ジーニンはヴァイオレット・ジョージアナ・エリザベス・バルドンの僕(しもべ)だった。
 
 ――私には少なくとも忠実な僕(しもべ)がついてきてくれているわ。

 私はニッコリとして番号の書かれた紙を魔導師ジーニンに慣れた手つきで渡した。

「バイトのシフトの終わりは13時よ。あとで」

「かしこまりました。ヴァイオレット公爵令嬢様」

 恭しく私からファーストフード店のレシートを受け取った魔導師ジーニンは、場違いな紫のマントを翻して、ハンバーガーの受け取り行列の後ろに並んだ。やっと彼の真実の姿が私にも見えた。

 私たちは完璧にこの世界に溶け込んで、虎視眈々と復活の狼煙をあげる機会を待っていた。

 私は今度こそ失恋の痛みも乗り越えて、彼らに立ち向かえるだろう。必ず私は幸せになるのだ。

 いや、誓う。ヴァイオレット公爵令嬢の名にかけて、聖女の名にかけて幸せになろう。私の周りに希望の光がふわりと天から降りてきた。





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