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第7話 踊りの輪の中に
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しばらく、お二人は談笑しておりましたが、そのうちにダンスの曲が変わったようなのです。それはワルツではなくカドリーユという踊りで、二組の男女のカップルが四角(スクエア型)になって踊るダンスのようです。
これが後ほどに、伝統的なスクエアダンスの先駆けになるようでございます。 亮介様は喜美子様にお声を掛けました。
「喜美子さん、今度はカドリーユになりましたね。これを踊れますか?」
「はい、今度はカドリーユなのですね、なんとか」
「では、少し踊りましょうか。カドリーユは二組で踊るのですが、あそこにわたくしと一緒にここに来ている友人がいますので、彼とあのご婦人の二組で踊りましょう。ご一緒に来てくださいますか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
喜美子様は少しはにかんでおりましたが、亮介様の後に付いていき、彼の友人という若者の前にやってきました。
「やあ、隆之介君、今度はワルツからカドリーユになったようだね。そのご婦人は?」
「ああ、亮介君、何とか楽しんでいるよ。紹介しよう。こちらの方は風間杏子さんといって、先程からカップルを組んで貰っているんだ。なかなかダンスを上手く相手をしてくれる女性が少ないのでね」
隆之介様は凛としたお顔で、亮介様と同じように引き締まり鍛えられた体躯を洋服の中に潜ませながら、しっかりと立っておられました。風間杏子様という女性は、喜美子様とは違って活発な女性のようでふっくらとした頬を赤く染めて額に少しばかり汗を掻いておりました。
「あ、初めまして、風間杏子と申します。隆之介様とは父の関係で少しばかり懇意こんいにしておりまして、ここでお会いするとは思いませんでしたので、私からお相手にお願いしたのです。でも隆之介様はお上手で驚いていますわ」
そう言いながら、杏子様は亮介様と喜美子様を交互に見て微笑んでおりましたが、喜美子様をひと目見て目を大きく見開いておりました。彼女から見ても喜美子様の美しさに圧倒されたのでございましょう。
「そうですか、わたくしは隆之介君の友達の亮介と言います、こちらにおられるのは喜美子さんと言って、こちらで知り合い、ダンスのお相手をして貰っています」
そういって亮介様は微笑みながら、彼の後ろにいる喜美子様をお二人に紹介していました。
「はじめまして。わたくしは四ノ宮喜美子と申します。よろしくお願いいたします」
喜美子様もお二人に微笑んでおりましたが、隆之介様は喜美子様の美しさにしばらく見とれていたようでございます。こころなしか、彼とカップルを組んでおります杏子様は女性としてそれを敏感に感じていたようですが、流石にそれを顔に出すようなことはせずに、微笑んではおりましたが。
どうやらここで、カドリーユを踊る為の若い二組のカップルが出来上がったようでございます。
「では、隆之介君。杏子さん。そして喜美子さん。さあ、踊りましょうか」
「うん」
「はい」
「はい……」
こうして若い四人の方々は華やかな円舞の輪の中に入っていかれました。この踊りは始めにフランスにもたらされ、次にイングランドで流行のダンスになっていきました。その後、上流階級に広まり、次第に多くの人がカドリーユを踊れるようになっていったのです。
このカドリーユは活発なダンスで、二組の男女のカップルが四角い形を作って踊ります。
ダンスのフィガーで言えば、「ジュテ」、「クロスシャッセ」、「プリエ」、そして「アラベスク」という名前がありますが、ほとんどがバレエ用語と同じのようです。
こうして二組、四人の男女はダンスに興じていましたが、いつしかお互いに心を惹かれたようなのです。亮介様は喜美子様を、隆之介様は杏子様をそれぞれに。
その亮介様は、美しい喜美子様の軽やかなステップに魅入られておりました。
美しい黒髪がダンスの風でなびいておりましたし、乙女のような楽しげな彼女との踊りは彼の心を虜にしたようでございます。
喜美子様も明るく、凛々しい亮介様に惹かれたようでございます。四人は踊り終わってからはしばらく休んでおりましたが、その後に曲は再びワルツに変わりました。亮介様は微笑みながら、喜美子様の前に恭しく手を差し伸べました。
「喜美子さん。またワルツになりました。踊って頂けますよね」
「はい、喜んで」
彼女も亮介様と二人で踊ることを望んでいましたから。そして、何組かのカップルが踊っている輪の中に再び入っていきました。お二人はすっかり身体が馴染んできていましたので、動きがとてもスムーズでした。周りの方に触れないように、亮介様は喜美子様と組みながら器用にクルクルと巧みに踊っていました。
お二人の息のあったそのダンシングに、外国のカップルの方もそれに魅了されておりました。
鳳凰館では、日本人の方でこのように注目されることなど珍しいことでした。あの有名な高官の夫人でさえ、お近くの方に聞いておりました。
この館の中では、日本人として肩身の狭い思いをしていただけに誇りに思ったのでしょう。
「あの若いカップルのお二人はどんな方なのでしょう?」
「女性の方は、四ノ宮家のお嬢様の喜美子さんですが、男性の方をわたくしは存じません」
「そうですか。でも素敵なカップルですことね」
「ええ、ほんとうに、素敵ですわ。これでわたしたちも少しは溜飲が下がる思いですわね」
ワルツの優雅な曲が終わり、お二人が踊り終えたとき、どこともなくパチパチと拍手が起こったのです。亮介様も喜美子様もダンスに夢中でしたので、それに気がつき少しはにかみながら会釈をしておりました。
その爽やかな振る舞いがよけいに好印象を皆様に与えたようです。ワルツの後はポルカやマズルカのようでございました。それを二組のカップルは楽しそうに踊っておりました。
始めは緊張していた喜美子様もすっかりこの雰囲気に慣れてきたようです。それは亮介様のさり気ない気配りが喜美子様の心をほぐしたからなのでしょう。
このダンスをきっかけに新しいカップルが誕生したのですが、その先に思わぬことが起きようなどとは、今は誰も知る由もないのです。
これが後ほどに、伝統的なスクエアダンスの先駆けになるようでございます。 亮介様は喜美子様にお声を掛けました。
「喜美子さん、今度はカドリーユになりましたね。これを踊れますか?」
「はい、今度はカドリーユなのですね、なんとか」
「では、少し踊りましょうか。カドリーユは二組で踊るのですが、あそこにわたくしと一緒にここに来ている友人がいますので、彼とあのご婦人の二組で踊りましょう。ご一緒に来てくださいますか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
喜美子様は少しはにかんでおりましたが、亮介様の後に付いていき、彼の友人という若者の前にやってきました。
「やあ、隆之介君、今度はワルツからカドリーユになったようだね。そのご婦人は?」
「ああ、亮介君、何とか楽しんでいるよ。紹介しよう。こちらの方は風間杏子さんといって、先程からカップルを組んで貰っているんだ。なかなかダンスを上手く相手をしてくれる女性が少ないのでね」
隆之介様は凛としたお顔で、亮介様と同じように引き締まり鍛えられた体躯を洋服の中に潜ませながら、しっかりと立っておられました。風間杏子様という女性は、喜美子様とは違って活発な女性のようでふっくらとした頬を赤く染めて額に少しばかり汗を掻いておりました。
「あ、初めまして、風間杏子と申します。隆之介様とは父の関係で少しばかり懇意こんいにしておりまして、ここでお会いするとは思いませんでしたので、私からお相手にお願いしたのです。でも隆之介様はお上手で驚いていますわ」
そう言いながら、杏子様は亮介様と喜美子様を交互に見て微笑んでおりましたが、喜美子様をひと目見て目を大きく見開いておりました。彼女から見ても喜美子様の美しさに圧倒されたのでございましょう。
「そうですか、わたくしは隆之介君の友達の亮介と言います、こちらにおられるのは喜美子さんと言って、こちらで知り合い、ダンスのお相手をして貰っています」
そういって亮介様は微笑みながら、彼の後ろにいる喜美子様をお二人に紹介していました。
「はじめまして。わたくしは四ノ宮喜美子と申します。よろしくお願いいたします」
喜美子様もお二人に微笑んでおりましたが、隆之介様は喜美子様の美しさにしばらく見とれていたようでございます。こころなしか、彼とカップルを組んでおります杏子様は女性としてそれを敏感に感じていたようですが、流石にそれを顔に出すようなことはせずに、微笑んではおりましたが。
どうやらここで、カドリーユを踊る為の若い二組のカップルが出来上がったようでございます。
「では、隆之介君。杏子さん。そして喜美子さん。さあ、踊りましょうか」
「うん」
「はい」
「はい……」
こうして若い四人の方々は華やかな円舞の輪の中に入っていかれました。この踊りは始めにフランスにもたらされ、次にイングランドで流行のダンスになっていきました。その後、上流階級に広まり、次第に多くの人がカドリーユを踊れるようになっていったのです。
このカドリーユは活発なダンスで、二組の男女のカップルが四角い形を作って踊ります。
ダンスのフィガーで言えば、「ジュテ」、「クロスシャッセ」、「プリエ」、そして「アラベスク」という名前がありますが、ほとんどがバレエ用語と同じのようです。
こうして二組、四人の男女はダンスに興じていましたが、いつしかお互いに心を惹かれたようなのです。亮介様は喜美子様を、隆之介様は杏子様をそれぞれに。
その亮介様は、美しい喜美子様の軽やかなステップに魅入られておりました。
美しい黒髪がダンスの風でなびいておりましたし、乙女のような楽しげな彼女との踊りは彼の心を虜にしたようでございます。
喜美子様も明るく、凛々しい亮介様に惹かれたようでございます。四人は踊り終わってからはしばらく休んでおりましたが、その後に曲は再びワルツに変わりました。亮介様は微笑みながら、喜美子様の前に恭しく手を差し伸べました。
「喜美子さん。またワルツになりました。踊って頂けますよね」
「はい、喜んで」
彼女も亮介様と二人で踊ることを望んでいましたから。そして、何組かのカップルが踊っている輪の中に再び入っていきました。お二人はすっかり身体が馴染んできていましたので、動きがとてもスムーズでした。周りの方に触れないように、亮介様は喜美子様と組みながら器用にクルクルと巧みに踊っていました。
お二人の息のあったそのダンシングに、外国のカップルの方もそれに魅了されておりました。
鳳凰館では、日本人の方でこのように注目されることなど珍しいことでした。あの有名な高官の夫人でさえ、お近くの方に聞いておりました。
この館の中では、日本人として肩身の狭い思いをしていただけに誇りに思ったのでしょう。
「あの若いカップルのお二人はどんな方なのでしょう?」
「女性の方は、四ノ宮家のお嬢様の喜美子さんですが、男性の方をわたくしは存じません」
「そうですか。でも素敵なカップルですことね」
「ええ、ほんとうに、素敵ですわ。これでわたしたちも少しは溜飲が下がる思いですわね」
ワルツの優雅な曲が終わり、お二人が踊り終えたとき、どこともなくパチパチと拍手が起こったのです。亮介様も喜美子様もダンスに夢中でしたので、それに気がつき少しはにかみながら会釈をしておりました。
その爽やかな振る舞いがよけいに好印象を皆様に与えたようです。ワルツの後はポルカやマズルカのようでございました。それを二組のカップルは楽しそうに踊っておりました。
始めは緊張していた喜美子様もすっかりこの雰囲気に慣れてきたようです。それは亮介様のさり気ない気配りが喜美子様の心をほぐしたからなのでしょう。
このダンスをきっかけに新しいカップルが誕生したのですが、その先に思わぬことが起きようなどとは、今は誰も知る由もないのです。
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