3 / 8
第3話 運命の人
しおりを挟む
わたくしは、四ノ宮家のただ一人のお子様でいらっしゃいます貴美子様にお仕えしていました。そのお家柄は、ずっと以前からこの家にお仕えしていた関係から、わたくしがこのお屋敷に採用されたのでございます。
先ほどに申しましたように、当時の華族の世界は、ある意味におきましても独特の社会でございました。このお話は、その頃にまつわる数々の華麗なるお話でございます。
いつの時代でも、その移り変わるときには、生じるさまざまな出来事があるのです。特にこの時代の目まぐるしく変わる様は激しいものがございました。それはまさに文明開花の夜が明けるという言葉で表現されておりましたが。それは長く続いた幕府の時代から、西洋の文化を取り入れた新しい時代の到来に於ける摩擦とでも申しましょうか。
新しいものに敏感な方々は、着物から洋服と言う目新しいものを取り入れていました。特に女性においては、日本髪を結い直し、髪を長くしてお人形さんのような美しい洋服を着て颯爽と歩いていらっしゃいます。
しかし、わたくしなどから見ると、それはとても滑稽に見えるのでございます。
また、男子におきましてもこんなこともございました。昨日まで頭にちょんまげを結い、袴を身に付けていた方が髷を切りザンバラな頭で、なにやらズボンとやらの細いものを身に付けているのを見たときには、思わず吹き出してしまいました。わたくしに言わせますと、何も古いものにしがみついていればいい、と言っているのではございません。
ものには段階というものがございます、ちゃんと全体の様子を見ながら見苦しくない程度に装いをすれば良いのでございます。美しい出立ちと言いますのは、よそおい、身づくろい、こしらえ、とも申します。そして、身だしなみとは身の回りについての心がけを申すのでございます。これらのことは昔から女子のたしなみとして言い伝えられたのでございます。
しかし、最近の婦女子の西洋にかぶれたあの出立ちはとても褒められるものではございません。まことに嘆かわしいかぎりでございます。そのようななかにおきましても、貴美子様はいつもお人形さんのように、おしとやかにしていただけではございません。その時の女子がたしなむ色々な作法を身に付けておりました。その中のひとつに和歌がございます。
和歌は短歌型式の古典詩で、広義におきましては万葉集に収められております歌体の総称だそうでございます。貴美子様も和歌をたしなんでおられましたが、とくに新古今和歌集がお好きでございました。
いにしえの方々がお詠みになられた和歌を口ずさみ、おりに触れてご自分でも詠んでおられましたから。今もわたくしは、貴美子様が詠まれた和歌が好きなのです。
あなた様もそれをお知りになりたいのでしょう。
はい、その二首をお伝えいたします。
「早春に 降る遅雪は やわらかく 手のぬくもりで すぐに消えゆく」
「ひと肌を 恋しと想ふ 秋の日の そっとひもとく いにしえのふみ」
二つ目の和歌は、貴美子様がお好きになられた方を想いながら詠まれたそうでございますが、この恋も成就することはなかったようでございます
先ほどに申しましたように、当時の華族の世界は、ある意味におきましても独特の社会でございました。このお話は、その頃にまつわる数々の華麗なるお話でございます。
いつの時代でも、その移り変わるときには、生じるさまざまな出来事があるのです。特にこの時代の目まぐるしく変わる様は激しいものがございました。それはまさに文明開花の夜が明けるという言葉で表現されておりましたが。それは長く続いた幕府の時代から、西洋の文化を取り入れた新しい時代の到来に於ける摩擦とでも申しましょうか。
新しいものに敏感な方々は、着物から洋服と言う目新しいものを取り入れていました。特に女性においては、日本髪を結い直し、髪を長くしてお人形さんのような美しい洋服を着て颯爽と歩いていらっしゃいます。
しかし、わたくしなどから見ると、それはとても滑稽に見えるのでございます。
また、男子におきましてもこんなこともございました。昨日まで頭にちょんまげを結い、袴を身に付けていた方が髷を切りザンバラな頭で、なにやらズボンとやらの細いものを身に付けているのを見たときには、思わず吹き出してしまいました。わたくしに言わせますと、何も古いものにしがみついていればいい、と言っているのではございません。
ものには段階というものがございます、ちゃんと全体の様子を見ながら見苦しくない程度に装いをすれば良いのでございます。美しい出立ちと言いますのは、よそおい、身づくろい、こしらえ、とも申します。そして、身だしなみとは身の回りについての心がけを申すのでございます。これらのことは昔から女子のたしなみとして言い伝えられたのでございます。
しかし、最近の婦女子の西洋にかぶれたあの出立ちはとても褒められるものではございません。まことに嘆かわしいかぎりでございます。そのようななかにおきましても、貴美子様はいつもお人形さんのように、おしとやかにしていただけではございません。その時の女子がたしなむ色々な作法を身に付けておりました。その中のひとつに和歌がございます。
和歌は短歌型式の古典詩で、広義におきましては万葉集に収められております歌体の総称だそうでございます。貴美子様も和歌をたしなんでおられましたが、とくに新古今和歌集がお好きでございました。
いにしえの方々がお詠みになられた和歌を口ずさみ、おりに触れてご自分でも詠んでおられましたから。今もわたくしは、貴美子様が詠まれた和歌が好きなのです。
あなた様もそれをお知りになりたいのでしょう。
はい、その二首をお伝えいたします。
「早春に 降る遅雪は やわらかく 手のぬくもりで すぐに消えゆく」
「ひと肌を 恋しと想ふ 秋の日の そっとひもとく いにしえのふみ」
二つ目の和歌は、貴美子様がお好きになられた方を想いながら詠まれたそうでございますが、この恋も成就することはなかったようでございます
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
旅路ー元特攻隊員の願いと希望ー
ぽんた
歴史・時代
舞台は1940年代の日本。
軍人になる為に、学校に入学した
主人公の田中昴。
厳しい訓練、激しい戦闘、苦しい戦時中の暮らしの中で、色んな人々と出会い、別れ、彼は成長します。
そんな彼の人生を、年表を辿るように物語りにしました。
※この作品は、残酷な描写があります。
※直接的な表現は避けていますが、性的な表現があります。
※「小説家になろう」「ノベルデイズ」でも連載しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる