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第1話 夜のスナックバーにて

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私はいつものように、薄くらいバーの片隅で杯を交わしていた。
ざわめいていた先程のその店での賑わいが嘘のようだ。
その夜は相当時間が過ぎ、客は今は私しかいない。

私は冷たい水割りを何杯も飲み、ほどほどに心地よい。
ママさんとチーママの恭子は忙しい。
二人はテーブルの上の皿に盛りつけたオードブルの食べ残しや、
客が食べ散らかしたものを片づけていた。

「お待たせしているわね、ごめんね」
「いいさ。私はこういうまったりとした時間が好きだからね」
「ありがと、あいかわらず優しいのね、せんせ」
「おいおい、今日は(せんせ)かよ」
「そうよ、せんせは優しいし、それに何でも知っているのですもの」

ママの真梨子姉さんは皿を洗いながらニコニコしている。
「そうよ、せんせ、いつも来てくれるのですもの、こうして、ねえ、ママ」
「そうよ、せんせ、いつもご贔屓に、ありがとうございます」

「恭子ちゃんまで、そうかお世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃないわ・・ねえママ」
「そうよ、せんせ」
ママは軽く俺にウインクをする。

「ママが言うようにせんせは博学だし、恭子いつも為になるわ
せんせのお話」

「そうかい、でもさっき私は黙って聞いていたけれど、あの話し・・」
恭子が空かさず俺に聞く。

「え?・・せんせ、何のお話でしたっけ?」
「男と女と性欲がいつまで続くって話しさ」
「あぁ、あれね、恭子恥ずかしくって、ただ聞いているので精一杯」

「あはは、その歳でねぇ」
「いやねえ、せんせ、今夜は意地悪ね」
そう言いながらも恭子はニコニコしている。

私はグラスを傾けながら色っぽい恭子を見ていた。
「せんせ、恭子ちゃんを、虐めちゃだめよ」
真梨子ママさんも程々にアルコールが回って機嫌がいい。

「一般的に男はアルコールが入るとあそこが起たなくなるって話しだけどさ」
私はここで話を色っぽい方へ持っていった。
「まあ、せんせ、その話なのね」

二人の女は手を動かしながら興味を持ったらしい。
「二人はどう思う?」
私は二人に問いかけた。

「恭子ちゃんはどう思う?」
真梨子ママさんはいきなり手を休め、恭子を見つめていった。

何故かママの顔が急に色っぽくなったことを。
私は思った(この二人の女に心のスイッチが入ったことを)

真梨子ママと恭子は、いつものように手際よく片づけをしている。
私はその姿を見ながら、グラスの中の水割りを飲んでいた。
この女性二人は肌が白くとても美しい。
そしてとてもチャーミングで、可愛いと思うのだ。

私がこの店に初めて来た時は、ママは他の人だった。
それから入れ替わりもう数年になる。
真梨子ママが変わってからは、店の雰囲気が変わり明るくなった。
彼女は美人だが、出しゃばらずに控えめで、更に優しい。

そんなところが、この店が気楽に楽しめる雰囲気かも知れない。
そして少しずつ客が増えていった。
週末などは女性客で溢れ、座れないときがある。

それはママの親戚の恭子がやって来てから更に客層が増えたと思う。
彼女もママに似て美人であり、二人は似ていた。
性格も似ていると思う、


私はこの二人が言い合いをしたことを見たことがない。
こういう店は女性が来るほど良いという。
客の女性達は真梨子ママと話をするのが好きのようだ。

さっきまでそんな女性客に混じって男達が卑猥な話をしていた。
キャアキャア言いながらも客の女達は喜ぶ。
そう言うときでもママと恭子は笑いながら聞いている。
どんなエッチな会話でも、ママに掛かれば上品になる。

私は大勢でワイワイ騒ぐのは余り好きでない。
聞くのは嫌いではないが乗ったときはそうでもない。

先程私の言った言葉を受けてママは恭子に聞いた。
「ママ、どう思うって?」
「せんせが、男性はアルコールが入ると、あれがどうのってお話よ」
「ああ、あれね、じゃあママはどう思うの?」
「あら、私に振ったわね、まあいいわ・・ええとね」

私は空かさず言った。
「おお、ママが珍しく色っぽい話をするみたいだな」
「そんなこと無いわよぉ」
と言いながらも真梨子ママは満更でもない。

「私のあまり無い経験では、やはり男性は飲むと起たないみたいね」
「へえ、そうなのママ?」
恭子が目を丸くして聞く。
「どうしてなの、せんせ?」
矢継ぎ早に恭子は、今度は私に問いかける。

「そうだな、じゃあ初な恭子ちゃんの為に教えてやろうか、
ママも一緒に聞いてご覧」

「はい、せんせっ!」
二人の女の元気な声が、同時に返事をする。


そこで私はこの美しい女性(水商売ではあるが)二人を前にして
人の尊厳に対する講釈(大袈裟ではあるが)を述べることにした。
と言っても飲んでいることでもあり、お互いに気楽でもある。

なにせ、
客の私とママと双生児みたいな関係でもある恭子の二人だけの生徒だし。
さて、話は戻し、私の講釈に移る。

「男が飲むとあれが起たない、
という話の前に生殖のことからまず話そうかな」
「はい・・せんせ! 聞きたいですぅ」
二人の女は、アルコールが程々に体内を循環しており機嫌がよい。


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