過去を捨てた男・そして女

オガワ ミツル

文字の大きさ
6 / 9

第6話 尽くす女

しおりを挟む
 慎介の整形手術に掛かる治療費は彼等にとっては高額だった。或る日、疲れて帰ってきた美子に渡して貰った金を見ながら、無情にも慎介は言った。

「あぁ、こんな金じゃあ、とても足りないな、何とかならないかな、美子」
「だって、これで精一杯なの、あのお店で貰えるお金はこれで……」
「じゃあ、もっと稼げる所あるでしょ、ねえ……お願い」

 そう言いながら抱きつく慎介にいつしか美子は溺れていた。男を知らない美子は初めて彼に抱かれて女になった。故に美子にとっては慎介は初めての男になる。
 その甘える慎介に美子は成す術も無い。美子は慎介に甘えられると弱く慎介はそんな女心を何故か良く知っていた。美子も田舎から親の反対を振り切って出てきており、今更、金の工面を実家に頼るわけにもいかなかった。

 慎介が悩むように、彼の顔は丸くて眼が細く冴えない顔つきだった。美子は彼のそんな顔が好きだったが、慎介が整形したくなる気持ち、それが分からないでもなかった。

「美子の仕事は接客といっても、お客さんとお話をするくらいでしょ」
「そうだけれど……」
「じゃあ、もっと、それ以上に出来ることあるんじゃない」
「ええぇ、どんな?」
「ソープランドがあるでしょ」
「えっ?」
「ソープランドって知らない?」
「うん、聞いたことはあるけれど、でもそんなところいやよ!」
「ふーん、じゃあ僕のことはどうなっても良いの?」
「だってぇ……」

 さり気なく慎介は美子の肩を抱き、乳房に触れる。
 いつもこの手で慎介は美子を懐柔させていた。

「もお、慎介ったら……」
こうなると美子は完全に理性を失っていく、美子は慎介が生き甲斐だったからだ。
「もう、しかたない慎ちゃんね、負けたわ、一度見学に言ってみるね」
「うん、そうして美子」

 その夜、美子は久しぶりに慎介に抱かれた。それからしばらくして美子は劇団を辞め、昼間と夜の仕事をすることにした。彼女が初めて知った男が慎介であり、心から彼が好きで、なんとか大好きな慎介の願いを叶えてあげたいという美子の気持ちは一途だった。

 そして美子は慎介が言ったソープランドで働くことになった。そこで彼女が客に身体を売ることになるのにあまり時間は掛からなかった。

 その結果としては勿論、収入が増え、金になるからである。美子はそれが本当は嫌だった。勧められるままに客の求めに応じて身体を開くこともあれば、いかがわしいサービスもした。
 それでも心の中では(大好きな慎介の為なら)と自分に言い聞かせていた。
 はやくお金を貯めて、慎介の為にそれを使って欲しかっただけなのに……。

 慎介は始めの頃、好きな劇団で芝居をし、いつか小さな舞台でも良い、与えられた役を演じてみたい、端役でもいい、好きな芝居で自分を表現できるのならと、そんな夢を持っていた。
 その為に田舎から出て働きながら一生懸命稽古に励んでいたが、やはり才能の限界を感じていた頃だった。

 諦めかけ、夢を捨てようとしていた。その時、美子は慎介に出逢ったのだ。同じ目標に向かう慎介と気が合い、いつからか同棲するようになっていた。

 美子の献身ぶりは、まるで糟糠そうこうの妻のようだった。 
 やっと苦労して溜め込んだ金を慎介に渡したとき、彼女は心から嬉しかった。
 これで慎介が喜んでくれる。そう思うだけで美子は幸せだった。

 昼となく夜となく働いていた美子の身体は疲れ果てていた。その身体は、慎介以外の多くの男の快楽の為に提供した報酬だったのだが……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...