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第3話 挫折からの出発
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彼は有名になる前、慎吾は慎介と名乗っていた時期がある。それ以来、彼は自らの名前を変えたのである、あることの事実と共に……そのあることとは、その醜いその顔である。
或る女性はそんな彼に寄り添い、慎介に尽くすことに喜びを感じていた。
その人は彼が売り出す前の一時期、同棲していた美子という名前の一人の女性だった。馴れ初めは、当時、彼等が住んでいた名もない地方の劇団で知り合い意気投合して、二人はつきあい始めた。
始めて彼と出会ったとき、美子は素朴で寂しがりやの彼に母性愛を感じていた。美子は何事も気が付く優しい女性であり、その名前のようには美しくはなかったが、しかし心は純粋で無垢だった。
寂しがり屋の慎介もそんな美子を少しずつ好きになっていった。それは共通した寂しい気持ちを持つ二人の必然的な結び付きだった……と言えるのかも知れない。美子が愛した慎介はそんなありふれた青年だった。これという特徴もなく、スタイルだけが少し良いだけで、取り立てて言うこともない平凡なる顔であり、その目は腫れぼったく、ぶ厚い唇だった。
しかし、そんなむさ苦しい顔でも美子は好きだった。自分もそうだと思ったし、二人はお似合いだと思っていた。
(好きになるのは、顔などではなく心だもの、心さえつうじれば)そう美子は思っていた。
その頃が美子にとって、また慎介にとっても本当の幸せだったのかもしれない。だが、その極々平凡なる幸せもそう長くは続かなかった。それは醜い顔を持ちながらも慎介が持つ儚い野望とエゴイズムであり、その為に二人の愛は永くは続くことはなく、脆くも崩れ去っていった。その非は慎介の一方的なものであり、美子には何の落ち度もなかった。
その慎介には誰にも知られたくない過去があった。
彼には一人の弟がいて、その弟は美しい母の血を引いて女のような美しい顔をしていた。それに比べ何故か慎介は無骨な父に似て、何処から見ても弟とは違っていた。その家は地方で地味な土地柄だったが、そんな中でも彼等の家は比較的裕福な方かもしれない。
母はいつも彼女に似ている弟を溺愛し、あまり可愛くもない慎介を可愛がらなかった。それを肌で感じていた多感期の慎介の心は寂しく蔑まれ、痛んでいた。
母の素直な愛を感じられない慎介は、そんな母を憎んでいた。(何で母は弟だけを可愛がるのだろう……それは僕のせいなの? 僕がこんな不細工な顔をしているから? どうして?)多感な少年の心はいつもそんなことを思い、悩んでいた。
(こんな家にいても、今の僕の居場所なんかないんだ、こんな家なんか……)
ある時、どうにも居たたまれなくなった慎介は家の金を盗んで家を飛び出した。どうしても、その家を出たかったのだ。そして、ここではない違う街でなんとか自分で生きてみたいと思っていた。しかし、親が彼の捜索願を出すことはしなかった。
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寂しがり屋の慎介もそんな美子を少しずつ好きになっていった。それは共通した寂しい気持ちを持つ二人の必然的な結び付きだった……と言えるのかも知れない。美子が愛した慎介はそんなありふれた青年だった。これという特徴もなく、スタイルだけが少し良いだけで、取り立てて言うこともない平凡なる顔であり、その目は腫れぼったく、ぶ厚い唇だった。
しかし、そんなむさ苦しい顔でも美子は好きだった。自分もそうだと思ったし、二人はお似合いだと思っていた。
(好きになるのは、顔などではなく心だもの、心さえつうじれば)そう美子は思っていた。
その頃が美子にとって、また慎介にとっても本当の幸せだったのかもしれない。だが、その極々平凡なる幸せもそう長くは続かなかった。それは醜い顔を持ちながらも慎介が持つ儚い野望とエゴイズムであり、その為に二人の愛は永くは続くことはなく、脆くも崩れ去っていった。その非は慎介の一方的なものであり、美子には何の落ち度もなかった。
その慎介には誰にも知られたくない過去があった。
彼には一人の弟がいて、その弟は美しい母の血を引いて女のような美しい顔をしていた。それに比べ何故か慎介は無骨な父に似て、何処から見ても弟とは違っていた。その家は地方で地味な土地柄だったが、そんな中でも彼等の家は比較的裕福な方かもしれない。
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