魔王の子育て日記

教祖

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聖護と源太

集会所の外にて その2

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 『魔族がさらったって、なんでだよ!?』
 『理由はわかりません。ですからここで事情を説明し、皆さまのご理解とご協力を頂くべくお願いを申し上げております。』
 『うっ……』
 『また、私の口調につきましてはご不快な思いをさせてしまったことは、心よりお詫びいたします。しかし、あえて申し上げます。私は一刻も早く娘をこの手に取り戻したいのです。その為には涙を見せ皆さまに私の誠意をお伝えするのではなく、事実を正確に迅速にお伝えし、皆様の協力を仰ぐ事こそ最善であると判断した次第でございます。より良い方法があれば、知恵の足りぬ私にご教示いただければ幸いでございます」
 もはや冷淡とも思えるほどに、美雪は返答した。呼びかけの形をとっていたが、紛れもなく源次に対する言葉。
 それは源次本人が誰よりも理解していた。
 『美雪よ。お主は少々子供の監督に欠ける点があった。しかし、今回の事件はお主の落ち度だけではないところもあるようじゃ。もし、お主の娘が魔族にさらわれたのなら、早急に対処せねばなるまい。私もできることをしよう。だが、まだ魔族の仕業と決まったわけではない。村の者に無用な心配をさせぬよう、呉々くれぐれもこの事は口外せぬよう頼むぞ。皆も頼むぞ』
 『『はい!』』
 『分かりました。何卒よろしくお願いいたします』
 美雪は流麗な所作で頭を下げた。
 『美雪、お前は母親としての自覚が足らん。どんなものであったとしても、子を守るのが親の務めであろう。だが、さらわれたお前の娘には何の罪もない。お前の娘のために、俺も大工頭としていろんな人間に話を聞いてみよう。何かわかるかもしれん』
 『ありがとうございます』
 『ふんっ。なぜお前が礼を言うのだ。俺はお前の娘を心配したのだ』
 美雪の礼に鼻を鳴らしてかえすと、緊迫していた集会所の中が僅かに柔らかな雰囲気に包まれた。
 『では皆、今日はこれにて解散!』
 村長が締めくくると、皆玄関へと向かった。
 
 「終わったぞ」
 「やべっ。さっさと裏に回るぞ」
 2人は礎から飛び降りると、足早に集会所の裏へとまわった。
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