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波乱
誰がために鐘は鳴る その17
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「「「っ!?」」」
三人は目の前の光景を信じられなかった。研ぎ澄まされた刃を一輪の花が阻んだのだ。それも得物を扱う人間をはじき飛ばすほどの圧倒的な力で。
「気をつけろって言ったろ。成長したらこれじゃ済まねーぞ」
幼子の悪事を諭すように笑みを浮かべる。魔王だけがこの空間で表情が変わらない存在だった。
その時、三人の視界がぐらりと揺れた。
頭部だけではない、足元から全身を揺さぶられる衝撃に視線は落ちる。見れば辺り一面の床が無数に隆起している。日差しを受けた植物が大地から顔をのぞかせるように、無機質な床から先程刃を阻んだ花が芽吹く。
本来生命の力強さを象徴するはずの光景は、三人には真逆のものに見えた。さながら墓場から死者の骸が這い出てくるような、形だけの存在が生命のまねごとをしているような嫌悪の象徴。
「ここで問いかけを一つ。さっきの花は剣を弾いた。咲いて間もなくへし折られた花だ。今咲いてるのは同じ花。しかも成長を続けてる。さて、これが身体に触れたらどうなるでしょう」
魔王の言葉を合図に三人は駆ける。
「正解を知りたくないなら俺を止めてみろ」
さながら断頭台で罪人の首を落とそうと吊り上がる刃のように、魔王の目が見開かれ口角が吊り上がる。断頭の時は近い。
波打つ足場を縫うように魔王との距離を詰める三人。先に魔王に刃を向けたのは夏輝だ。大太刀に薙がれた空気が風切り音を鳴らすも、驚異的な速度で咲き伸びた花が魔王を守るようにその一閃を遮った。
逆側面から朱雀が滑り込む。刃は水平に魔王の体を捉えたが、図ったように刃の行く末に花が伸びる。そして刃は――――己の意思で静止した。刹那、刃が翻り朱雀の左肩から左袈裟に真の一閃が放たれた。
淀みのない、すさまじい緩急から放たれた斬撃に魔王は眼を見開く。その右肩に朱雀の刃が初めて届いた。確かな肉を断ち、生物の体内に刃が入り込んでいく忌まわしい感覚。幾度となく体に刻み込まれ、その度に不快感だけを感じていたこの行為。だが、朱雀はこの瞬間初めて別の感情を抱いた。これを形容する言葉を自分は持ち合わせていない。近しい感情を無意識に探したが、その時間はすぐに終わってしまった。
魔王は右肩の熱さに顔をしかめ、後方に飛びのき距離を取った。熱さはすぐに痛みに変わる。執務服の右肩が徐々に湿度を高めていく。その感覚に懐かしさが込み上げる。
「痛ってえ!」
叫ぶ魔王の声音はどこか嬉しそうで、無邪気に笑っている。その背後に巨大な影が獲物を振り上げていた。うねる空気を巻き込み、大剣が縦一文字に振り下ろされる。
三人は目の前の光景を信じられなかった。研ぎ澄まされた刃を一輪の花が阻んだのだ。それも得物を扱う人間をはじき飛ばすほどの圧倒的な力で。
「気をつけろって言ったろ。成長したらこれじゃ済まねーぞ」
幼子の悪事を諭すように笑みを浮かべる。魔王だけがこの空間で表情が変わらない存在だった。
その時、三人の視界がぐらりと揺れた。
頭部だけではない、足元から全身を揺さぶられる衝撃に視線は落ちる。見れば辺り一面の床が無数に隆起している。日差しを受けた植物が大地から顔をのぞかせるように、無機質な床から先程刃を阻んだ花が芽吹く。
本来生命の力強さを象徴するはずの光景は、三人には真逆のものに見えた。さながら墓場から死者の骸が這い出てくるような、形だけの存在が生命のまねごとをしているような嫌悪の象徴。
「ここで問いかけを一つ。さっきの花は剣を弾いた。咲いて間もなくへし折られた花だ。今咲いてるのは同じ花。しかも成長を続けてる。さて、これが身体に触れたらどうなるでしょう」
魔王の言葉を合図に三人は駆ける。
「正解を知りたくないなら俺を止めてみろ」
さながら断頭台で罪人の首を落とそうと吊り上がる刃のように、魔王の目が見開かれ口角が吊り上がる。断頭の時は近い。
波打つ足場を縫うように魔王との距離を詰める三人。先に魔王に刃を向けたのは夏輝だ。大太刀に薙がれた空気が風切り音を鳴らすも、驚異的な速度で咲き伸びた花が魔王を守るようにその一閃を遮った。
逆側面から朱雀が滑り込む。刃は水平に魔王の体を捉えたが、図ったように刃の行く末に花が伸びる。そして刃は――――己の意思で静止した。刹那、刃が翻り朱雀の左肩から左袈裟に真の一閃が放たれた。
淀みのない、すさまじい緩急から放たれた斬撃に魔王は眼を見開く。その右肩に朱雀の刃が初めて届いた。確かな肉を断ち、生物の体内に刃が入り込んでいく忌まわしい感覚。幾度となく体に刻み込まれ、その度に不快感だけを感じていたこの行為。だが、朱雀はこの瞬間初めて別の感情を抱いた。これを形容する言葉を自分は持ち合わせていない。近しい感情を無意識に探したが、その時間はすぐに終わってしまった。
魔王は右肩の熱さに顔をしかめ、後方に飛びのき距離を取った。熱さはすぐに痛みに変わる。執務服の右肩が徐々に湿度を高めていく。その感覚に懐かしさが込み上げる。
「痛ってえ!」
叫ぶ魔王の声音はどこか嬉しそうで、無邪気に笑っている。その背後に巨大な影が獲物を振り上げていた。うねる空気を巻き込み、大剣が縦一文字に振り下ろされる。
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