魔王の子育て日記

教祖

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波乱

誰がために鐘は鳴る その16

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 風圧とともに轟音が襲う。風切り音ではない。圧倒的な力で空気を薙ぎ払った音だ。
 夏輝も思わず距離を取る。
 朱雀は体勢を立て直し振り返った。視線の先に見据えているのは総雲ではない。不敵――――いや、好奇心に満ちた笑みを浮かべた魔王の姿だ。

 ――――咲け白百合。 

 地面を転がる最中、轟音にかき消されながらも確かに聞こえた魔王の言葉。初めて聞いたが朱雀は本能的にの続きであることを悟った。それは夏輝も総雲も同様だった。
 三方向から視線を向けられる魔王はその表情を崩すことはない。視線は数歩先の床。無機質な白が広がるばかり。
 静寂が満ちる。鐘の音も漆黒の刃が駆けることも無い。音の無い時間。
 はったりだったのかと夏輝が大太刀に力を込めた時、魔王が見つめる床から何かが飛び出してきた。それは膝丈ほどの高さまで伸びあがると一拍置いて先端が開いた。六股に分かれたそれは淡く光り、どこか荘厳な佇まいを見せた。
 「疲れたし花でも愛でようかと思ってな。良い花だろ?」
 魔王は咲いた白百合に歩み寄ると、静かに手折る。ぽきりと小気味の良い音を鳴らして、白百合は魔王の手に収まった。
 「今のは俺が最初に覚えた魔法だったんだよ。先生には難しいからやめろって言われたんだがな?」
 指のねじりに合わせて白百合は花弁を回転させる。無造作に回されながらも、どこか優美な様は無邪気な少女を思わせるようであった。
 夏輝が動く。我慢の限界だった。どの戦場で敵前で花を愛でる者があろうか。挑発以外何物でもない行為に夏樹が咆哮する。朱雀と総雲も援護に奔る。
 「先に言っとく。気をつけろよ」
 真正面から切り込む夏輝に魔王は無造作に手中の白百合を放った。それは夏輝の神経を逆撫でるには十分だった。
 白百合もろとも魔王を切り伏せにかかる夏輝。無慈悲にもその刃は阻まれた――――放られた白百合によって。
 
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