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魔王とパイン
人間界に憧れる魔王 その3
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魔王は、本来の椅子の座り方に戻ると深いため息をついた。
それから昔を思い出しているのか、部屋の奥に貼られた12の歴代魔王の肖像画のうちの最も左――一番新しい肖像画である父のものに目を向けるとゆっくりと話し始めた。
「かつて父は言った。奴らの歴史は差別と迫害の歴史。肌の色や瞳の色、些細な違いでさえも許容できず、集団から異なるものを排除しょうと必死だった。だが、あくまでそれは一面に過ぎない。相反するように、違いを許容し、思いやり、尊重することもまた、人間が営んできた歴史だ。未だに人間嫌悪の考えは根強いが、暗い部分だけを切り取るのではなく、全体を見渡せば見え方も違ってくるのだ。とな」
言い終えると魔王はどこか遠い目をしていた。
パインは言葉を咀嚼するように一呼吸置いたあと、魔王の正面に歩み出た。
「善と悪は表裏一体、暗い部分だけ見ても仕方がないと? それは生物として存在している限り、完全な悪など存在はしません。どこかには善と呼べる部分もあるでしょう。ですが奴らは悪の面が余りにも広く、深すぎる。魔王様もご存知ではないのですか……?」
「……」
真っ直ぐ魔王を見据え、パインは語りかける。
本来従者の身で主人の話を真っ向から否定する事などありえない。場合によっては処罰を受けても文句は言えないのだ。
それでもパインは魔王の言葉をただ肯定することは出来なかった。過去の自分がそれを許さなかった。
沈黙した魔王は目を伏せ、口元を微かに開閉させる。
言葉を紡ごうと思案しているように見えた。
しばらくその姿で固まっていたが、ふと口が動かなくなったかと思えば、ゆっくりパインに向き直り小さく頷いた。
「だったら、この目で確かめるしかないだろう。パインのその思いも、俺の思いも、確かめるには、直接見るしかないだろう。人間界に行こう」
「魔王様……。残念ながらそれとこれとは話が別です。さらに言えば、今までどうにかもっともらしい理由をつけて人間界に行くような話に持っていこうと必死なのが目に見えていました。」
顔を上げたパインは冷徹に告げた。
「バレた、だと!?」
思わぬ返答に魔王は椅子から立ち上がった。
「百歩譲って、魔王様が純粋に人間界のことを知りたいだけなら、考えなくもないです。ですが――」
「なんだよ」
突然言葉を切ったパインを魔王は訝しげに見つめた。
全くここの領主である俺を疑うなんて。けしからん。
確かに人間界の様子が見たいためだけにこんなにごねている訳では無いが、そんなのパインに分かるわけがない。
何せアレは、俺の寝室の壁に付けられた掛け時計の裏に隠してあるのだ。見つかるわけがない。
圧倒的自信の元、魔王は毅然とした態度でパインと対峙した。
「これは何ですか?」
しかし、パインがどこからか取り出した紙の束によって魔王の自信は粉々に打ち砕かれたのだった。
それから昔を思い出しているのか、部屋の奥に貼られた12の歴代魔王の肖像画のうちの最も左――一番新しい肖像画である父のものに目を向けるとゆっくりと話し始めた。
「かつて父は言った。奴らの歴史は差別と迫害の歴史。肌の色や瞳の色、些細な違いでさえも許容できず、集団から異なるものを排除しょうと必死だった。だが、あくまでそれは一面に過ぎない。相反するように、違いを許容し、思いやり、尊重することもまた、人間が営んできた歴史だ。未だに人間嫌悪の考えは根強いが、暗い部分だけを切り取るのではなく、全体を見渡せば見え方も違ってくるのだ。とな」
言い終えると魔王はどこか遠い目をしていた。
パインは言葉を咀嚼するように一呼吸置いたあと、魔王の正面に歩み出た。
「善と悪は表裏一体、暗い部分だけ見ても仕方がないと? それは生物として存在している限り、完全な悪など存在はしません。どこかには善と呼べる部分もあるでしょう。ですが奴らは悪の面が余りにも広く、深すぎる。魔王様もご存知ではないのですか……?」
「……」
真っ直ぐ魔王を見据え、パインは語りかける。
本来従者の身で主人の話を真っ向から否定する事などありえない。場合によっては処罰を受けても文句は言えないのだ。
それでもパインは魔王の言葉をただ肯定することは出来なかった。過去の自分がそれを許さなかった。
沈黙した魔王は目を伏せ、口元を微かに開閉させる。
言葉を紡ごうと思案しているように見えた。
しばらくその姿で固まっていたが、ふと口が動かなくなったかと思えば、ゆっくりパインに向き直り小さく頷いた。
「だったら、この目で確かめるしかないだろう。パインのその思いも、俺の思いも、確かめるには、直接見るしかないだろう。人間界に行こう」
「魔王様……。残念ながらそれとこれとは話が別です。さらに言えば、今までどうにかもっともらしい理由をつけて人間界に行くような話に持っていこうと必死なのが目に見えていました。」
顔を上げたパインは冷徹に告げた。
「バレた、だと!?」
思わぬ返答に魔王は椅子から立ち上がった。
「百歩譲って、魔王様が純粋に人間界のことを知りたいだけなら、考えなくもないです。ですが――」
「なんだよ」
突然言葉を切ったパインを魔王は訝しげに見つめた。
全くここの領主である俺を疑うなんて。けしからん。
確かに人間界の様子が見たいためだけにこんなにごねている訳では無いが、そんなのパインに分かるわけがない。
何せアレは、俺の寝室の壁に付けられた掛け時計の裏に隠してあるのだ。見つかるわけがない。
圧倒的自信の元、魔王は毅然とした態度でパインと対峙した。
「これは何ですか?」
しかし、パインがどこからか取り出した紙の束によって魔王の自信は粉々に打ち砕かれたのだった。
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