魔王の子育て日記

教祖

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波乱

誰がために鐘は鳴る その13

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 「無様な姿を見せびらかして同情でも誘う気か? ……何を仕込んだ」
 女中の嘲笑はすぐに止んだ。視線が総雲の半身へと吸い寄せられる。
 炭化し、元は生身の身体であったとは思えぬ断面に月明りを反射する鉱物が埋まっている。
 「討魔石とうませき――――彼はそう呼んでいた。貴様のような卑しき魔族が触れれば身を亡ぼす聖なる力を宿した石だ」 
 総雲の言葉に女中は目を見開いた。しかしそれも一瞬のことで、何かを悟ったように細く息を吐いた。
 「……そう。その石もそうだけど、お前の存在が何よりも異常だってことはわかった。よかったわね、この幻想でその姿・・・の意義が見い出せたじゃない」
 「……幻想だと?」
 「ええ。この世界は幻に過ぎない。間もなく幻は消え、お前は再び魔王様の御前へ拝謁する。その奇跡を享受できたことに感謝なさい」
 「知ったことか。それよりもどうだ? 羽虫如きに一矢報いられる気分は。次は首でも刎ねてみるか? もっとも自慢の御髪を割かれても良ければだが」
 「忌々しい限りだけど遠慮しておくわ。幻を見せるときは引き際が肝心なの」
 女中はそう告げると総雲に背を向け陽炎のように揺らめく平原へ歩みだした。
 「待て貴様! 女中!」
 「次に会うときは不快な思いをする前に消し炭にしてあげる。それから――――」
 ――――私はヴィエルよ。羽虫でも名前を覚える頭はあるでしょ?
 振り返ることも無く女中――――ヴィエルは揺らめきの中へ姿を消した。
 それを待っていたように世界は暗転し、総雲の意識は途絶えた。
 意識が闇に溶けるその刹那、総雲は強く誓った。
 ヴィエル――――貴様のあぎとを噛み千切るまで、私は不死身・・・であり続ける。
 魔王が膝をつけば従者が黙っていないだろう。ならば魔王を斃した先にはヴィエルとの再戦が見える。
 闇が晴れた先、眼前の敵を討つ――――!
 
 闇に包まれたのは刹那か、はたまた悠久か。
 己の輪郭さえも曖昧に感じる浮遊感。それが晴れた時には総雲の身体は魔王の元へ走り出していた。
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