魔王の子育て日記

教祖

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波乱

誰がために鐘は鳴る その12

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 刹那の瞬きで総雲が目にできたのは、己の身体に飛び込んできた紅い閃光のみ。
 がちゃり。ぼとっ。あれだけの戦闘の中でも音一つ立てなかった総雲の傍らで鳴った金属音。
 己の咆哮でその生生しい音は届かない。だが、右肩の刺すような熱さと右半身の軽さで総雲は己の惨状を悟った。
 総雲の右腕は肩口から切り取られ地に落ちていた。炭化し、燻ぶる断面から微かに黒煙が上る。
 「叫ぶ暇があるのならさっきの言葉を訂正しなさい。次は左腕を飛ばすわ」
 女中は淡々と告げる。そこにもはや感情は残っていなかった。
 総雲に残されたのは先の発言を撤回し首を垂れるか、残された左腕を賭けて再び剣を振るうかの二択。しかしその選択さえも出来ぬように見える。
 「訂正はしないのね。望み通りにしてあげる」
 妖艶な言葉には似合わない冷徹な眼差しで女中は総雲に告げる。そして再びこの惨状を作り出した言葉を紡ぎ始めた。
 
 「彼の者に憐れみを――――。ん?」
 
 手のひらを上に向け、慈しむように総雲に向けた右手。その指先の輪郭がぼやけるように背景に透過している。
 女中はふと青い瞳を左に寄せた。そしておもむろに己の髪を掬い上げる。一房の髪が半ばで切れている。
 
 「自慢の御髪に何かあったか? せっかくなら切りそろえてやろうか?」

 その声は先ほどの姿からは想像もつかないほどに挑発的な口調だった。
 女中は声の主である羽虫――――総雲の姿を視界に収めた。
 隻腕となった無様な姿。それなのにどこまでも憎たらしい嘲笑を浮かべている。
 「なにをしたあああ!」
 女中は激昂する。自慢の髪が切られたことも、それを嘲笑されたことも不快だが、なによりもそれを羽虫と蔑んだ人間風情にされたことが我慢ならなかった。
 「私は何もしてはいない。その髪は貴様自身が切り裂いたようなものだ。まあもっとも、私自身にその確証はなかたが」
 「なにを言っている! もういい、この体でもお前の首は5回飛ばせる」
 「これだよ」
 炎髪を蠢かせ臨戦態勢となった女中を静止するように、総雲は切り落とされた右半身の断面を向けた。
 
 
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