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波乱
誰がために鐘は鳴る その11
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星明りの下で艶消しの黒鎧は闇に溶ける。
それがどれほどの巨躯であったとしても、身体に刻み込まれた敵の死角を奔る術をもってすれば可能となる。
女中の炎髪は辺りを照らし出すと同時に闇を深める。総雲にとっては好都合だ。
闇に紛れ女中の背後に回ると音もなく跳躍した。人体の死角――――後頭部へ向け総雲の全体重を乗せた必殺の一撃を振るった。空気を割く轟音が響き総雲の大剣は確かに女中を捉えた。
「やっぱり羽虫ね」
その声には侮蔑が籠っていた。
そう、確かに捉えた。女中は背後を見ることも無く、迫った刃を掌で受け止めている。
女中の手を振り払うように総雲は逆方向に剣を振った。面に包まれた表情に曇りは無い。もとより先の一撃で形勢が変わるなど毛頭考えてもいない。
眼前の怪物はこの場を戦場とは思っていないのだ。そうでなければ、ただの一度も奴から動いたことがない事に説明がつかない。
だから――――。
再びは総雲は体を闇に溶かす。
「何度繰り返せば気が済むのかしら――――」
ひどく鬱陶しそうに女中は顔を顰めた。さながらそれは、いつまでも付きまとってくる羽虫に向けられる表情に違いなかった。
「――――しかし、貴様の主も大したものだな。侍らせた女に男の相手をさせて見物するとは」
闇に紛れた総雲の言葉に女中の炎髪が火力を増す。表情は侮蔑から苛立ちの色を見せ始める。
「羽虫風情が魔王様を形容する言葉を口にするな。お前ごときがあの方の為されることに対して言葉を述べることは、死などでは到底贖えない罪だ。撤回しろ」
「勘違いするな、これは賛辞だ。まさに卑しい魔族の王としてあるべき姿だろう。怠惰にして淫蕩を体現している。それでこそ――――」
「彼の者に憐れみを――――」
不思議にも慈悲深い声音であった。言葉を遮るというより一方的に放たれた言葉――――そして炎。
追いかけるように空気を割く甲高い音が辺りに響いた。
一瞬の静寂。それを破ったのは総雲の咆哮にも似た苦痛の叫びであった。
それがどれほどの巨躯であったとしても、身体に刻み込まれた敵の死角を奔る術をもってすれば可能となる。
女中の炎髪は辺りを照らし出すと同時に闇を深める。総雲にとっては好都合だ。
闇に紛れ女中の背後に回ると音もなく跳躍した。人体の死角――――後頭部へ向け総雲の全体重を乗せた必殺の一撃を振るった。空気を割く轟音が響き総雲の大剣は確かに女中を捉えた。
「やっぱり羽虫ね」
その声には侮蔑が籠っていた。
そう、確かに捉えた。女中は背後を見ることも無く、迫った刃を掌で受け止めている。
女中の手を振り払うように総雲は逆方向に剣を振った。面に包まれた表情に曇りは無い。もとより先の一撃で形勢が変わるなど毛頭考えてもいない。
眼前の怪物はこの場を戦場とは思っていないのだ。そうでなければ、ただの一度も奴から動いたことがない事に説明がつかない。
だから――――。
再びは総雲は体を闇に溶かす。
「何度繰り返せば気が済むのかしら――――」
ひどく鬱陶しそうに女中は顔を顰めた。さながらそれは、いつまでも付きまとってくる羽虫に向けられる表情に違いなかった。
「――――しかし、貴様の主も大したものだな。侍らせた女に男の相手をさせて見物するとは」
闇に紛れた総雲の言葉に女中の炎髪が火力を増す。表情は侮蔑から苛立ちの色を見せ始める。
「羽虫風情が魔王様を形容する言葉を口にするな。お前ごときがあの方の為されることに対して言葉を述べることは、死などでは到底贖えない罪だ。撤回しろ」
「勘違いするな、これは賛辞だ。まさに卑しい魔族の王としてあるべき姿だろう。怠惰にして淫蕩を体現している。それでこそ――――」
「彼の者に憐れみを――――」
不思議にも慈悲深い声音であった。言葉を遮るというより一方的に放たれた言葉――――そして炎。
追いかけるように空気を割く甲高い音が辺りに響いた。
一瞬の静寂。それを破ったのは総雲の咆哮にも似た苦痛の叫びであった。
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