魔王の子育て日記

教祖

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母と娘

昔話をしましょう

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  ふと見れば、時計の針が午後10時をさしている。
  時間が経つのは早いものだ。
  希望のぞみを寝かしつけてから一時間が経ってしまった。
 そろそろあの人が帰ってくる時間。夕食を温め直さなきゃ。
 眺めていたアルバムを閉じて、本棚に戻すと、ゆっくりと後ろのドアが開いた。
 振り返るとドアの隙間から、申し訳なさそうにこちらを覗き込むどんぐりおめめと目があった。
 「どうしたの? いらっしゃい」
 「……うん」
 おずおずという言葉がぴったりな我が娘は、促されるままに私のベットに座った。
 
 「寝れなかった?」
 「ごめんなさい……ママ」
 優しく問いかけて見たものの、やはり予想通りベットシーツを握りしめて泣き出してしまった。
 まったくもう……。なんでこの子はこんなにも
 「可愛いのかしら……」
 「え?」
 「なんでもないわよ希望。そう、なんでもないの。ふふふ」
 「ママこわい……」
 希望は、いつの間にやら部屋の角に設置したベットの隅っこでちっちゃくなっていた。
 いけないいけない。私としたことが、思わず口に出してしまった。おかげでさっきとは別の意味で娘を怖がらせてしまった。自重しなければ。
 「希望。眠くなるようにママがお話してあげる」
 「ほんとっ!?」
 この世のどんな宝石よりも光り輝く瞳にみつめられ他のにもかかわらずよだれを一滴も垂らさずに笑顔で返した私を誰か褒めて。
 「ええ。さあ、あなたの部屋へ行きましょう」
 「うん!」
 元気なお返事の希望を連れ、私の寝室の隣ーー希望の寝室へと向かった。

 「さて、何のお話をしましょうか」
  希望を部屋の左奥のベッドに寝かせて、私はベッドの正面にある勉強机の椅子を持ってきて希望の頭側に腰を下ろした。
 「お母さんがしてくれるお話ならなんでもすきだよ」
 「そ、そお!?」
 素っ頓狂な声をあげてしまったけど、口元のにやけとよだれは防いだわ。
 我が娘ながらなんという破壊力。
 「あっ、でも一つ聞きたいお話あるんだ」
 「なに?」
 「魔王様のお話!」
 「また? もう何回話したか分からない位お話したじゃない」
 「また聞きたいの! ねぇ~いいでしょ~」
 「分かったわ」
 半ば呆れ気味に返してしまったが仕方が無いのだ。
 希望が聞きたいと言っている話は、希望がまだ3歳の時に話してから3年経った今でもことあるごとにせがまれては話をしているのだ。どれだけ話せば気が済むのだろう。
 「早くっ! 早くっ!」
 「はいはい……」
 でも、お話をしている時以外でこんなにワクワクしている希望はほとんど見たことがない。そう思うと自然と微笑みがこぼれてしまう。
 さて、では話すとしようか
 「昔々」
 ――――と言ってもそう遠くはない
 「あるところに」
 ――――と言ってもよく知っている
 「魔王がおりました」
 あなたとよく繋がっている人の話を――――。
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