魔王の子育て日記

教祖

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波乱

誰がために鐘は鳴る その4

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 朱雀の身体が前に倒れる。そのまま地に伏せるかと思われるほどの角度に達したとき、傾きはそのままに前進した。いうなれば倒れかけた身体を起こすために一歩踏み出す、という行為を継続しているようであった。
 それが生んだのは、驚異的な初速と加速。3歩目には最高速度に乗った体はそこから前傾し体重が乗るほどに加速する。
 一直線に魔王との距離を詰める。最中朱雀の口から言葉が漏れた。
 ――――ほむらと共に
 朱雀の身体を紅の光が包み、さながらそれは炎のように見えた。
 光を纏った朱雀はそのまま魔王の横を疾風の如く駆け抜けた――――魔王の胴を横一線に薙ぐ神速の一撃を残して。
 眼前に迫った壁を蹴り身を翻した朱雀は、魔王の左側面に対する形で再び距離を取る。光は既に無い。
 朱雀の斬撃は確かに魔王を捉えた――――
 「おお。直前に加速したな。さすがに止められねえよ」
 が、暗銀の胴は鈍く光るばかりで傷一つ見えない。しまいにはそれをわが子を労わる妊婦のように擦っている始末。
 防具の力か着用者の力か、或いは両方か。何にしても、今まで対峙した中で程度の違いはあれど今の斬撃を受けてその場に留まることができた者はいなかった。
 「理解しようとすること自体が無駄なのか」
 独白じみた呟きだった。朱雀のそれはなにかを悟ったような声音だ。
 「ん? どうした」
 「いや、こちらの話だ」
 目の前の出来事を事実として受け止める。そして深く考えない。それが全てなのだという結論に至る。
 「そうかよ。今のはお前の技か?」
 「そういうことになるな」
 「やっぱり魔術を使える人間っているんだな。門を開いたのもお前か朱雀」
 「そうだ。私たちが使うのは魔術ではなく聖術だ。名の通り聖なる術だ」
 「なるほどな。聖なる力で悪を罰するためにここまで来たと」
 「無論だ」 
 朱雀の答えを聞いた途端、魔王の雰囲気が変わった。
 「お前の悪の定義はなんだ」
 「まずは他人の赤子を拉致するような者は悪だろうな」
 「では、根拠のない罪を被せる奴はどうだ」
 「その者が他者を陥れんと動いたのなら悪だ。だが、火のないところには煙は立たない。罪を被せられた時、それを周囲が受け入れてしまうのなら、被せられた側にも問題があるのだろう」
 「……よくわかった。お前はきっと正しいんだろうよ」
 魔王の声音はどこか寂しそうに聞こえた。
 すると今までの話の流れを断ち切るようにわざとらしく肩を回し始めた。
 「さて、再開すっか。今度は俺から行こうかね」
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