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波乱
誰がために鐘は鳴る その3
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「届かないか」
面の奥から抑揚のない声が漏れる。朱雀の刃は暗銀の小手に阻まれた。
「いや、危なかったぜ」
「!?」
朱雀が飛びのいて距離を取る。面の奥には驚愕の表情が浮かぶ。
「今は俺の箱庭にいる。意思疎通が取れるのはそのおかげだ」
鎧男の口ぶりは、朱雀の表情が透けて見えているかのようだ。
「そうか。伝わるというのなら名乗っておこう。私は朱雀。貴様が攫った赤子の親から依頼を受け、この場にいる者だ」
「おお、これが人間の名乗りってやつか。本物はいいな。俺も名乗ろう。この城の主で魔族の長、魔王だ」
「…‥やはりか。大戦で聞いたのは先程の鐘の音だった」
――――この光は変幻自在の魔法だ。大地を割り、人間の屍の山を築きながら魔物を癒す。魔王にふさわしい力だ。
朱雀は既に眼前の男が何者であるか見当がついていた。大戦の折に耳に入ってきた言葉と既視感を覚えた一閃、それらを印象付ける鐘の音。それらが重なったとき、朱雀の腹は決まった。これから対峙するのは魔界を統べる者なのだと。どれほど信じられないことが起きようと、目の前のことが現実であることを忘れるなと自分に言い聞かせた。
「そうかよ。しかし、俺が言うのもなんだがよくあの囲いから抜け出せたな」
「幻術に惑わされるようでは私の立場は務まらないのでな」
「そいつはすげえ。んで、どうするよ。チャンバラしたいんなら相手するぜ。それとも俺とおしゃべりしてくれんのか?」
「もとより平和的解決は想定していない。チャンバラに付き合ってもらおう」
「いいぜ。ヴィエル、赤ん坊を奥に頼む。お前の連れは端に逃がしとくぞ。これで気兼ねなく動けるだろ」
赤髪の女中――――ヴィエルは赤子を抱え再び壁の中へ溶けた。続けて魔王が左右に手を払うと、兵士の包まれた球体が部屋の端に整列する。
「決着がついたら赤子をこの場に戻してもらおう。兵士たちも解放しろ」
「もちろん。お前の相手は俺がする。周りのやつは一切手を出さねえ。好きだろ? 一騎打ち」
魔王の声を聞き従者たちはヴィエルと同じく壁の中へ溶けていった。
「ああ。よく知っているな。先の大戦で見たか」
「いや、俺は好きなんだよ。人間が」
「そうか。俺は魔族が嫌いだ」
「それでいい。いや――――それがいい」
暗銀に覆われた魔王の顔など窺い知ることはできるはずがない。だが、朱雀には魔王が笑っているように思えた。
「参る」
「来い!」
面の奥から抑揚のない声が漏れる。朱雀の刃は暗銀の小手に阻まれた。
「いや、危なかったぜ」
「!?」
朱雀が飛びのいて距離を取る。面の奥には驚愕の表情が浮かぶ。
「今は俺の箱庭にいる。意思疎通が取れるのはそのおかげだ」
鎧男の口ぶりは、朱雀の表情が透けて見えているかのようだ。
「そうか。伝わるというのなら名乗っておこう。私は朱雀。貴様が攫った赤子の親から依頼を受け、この場にいる者だ」
「おお、これが人間の名乗りってやつか。本物はいいな。俺も名乗ろう。この城の主で魔族の長、魔王だ」
「…‥やはりか。大戦で聞いたのは先程の鐘の音だった」
――――この光は変幻自在の魔法だ。大地を割り、人間の屍の山を築きながら魔物を癒す。魔王にふさわしい力だ。
朱雀は既に眼前の男が何者であるか見当がついていた。大戦の折に耳に入ってきた言葉と既視感を覚えた一閃、それらを印象付ける鐘の音。それらが重なったとき、朱雀の腹は決まった。これから対峙するのは魔界を統べる者なのだと。どれほど信じられないことが起きようと、目の前のことが現実であることを忘れるなと自分に言い聞かせた。
「そうかよ。しかし、俺が言うのもなんだがよくあの囲いから抜け出せたな」
「幻術に惑わされるようでは私の立場は務まらないのでな」
「そいつはすげえ。んで、どうするよ。チャンバラしたいんなら相手するぜ。それとも俺とおしゃべりしてくれんのか?」
「もとより平和的解決は想定していない。チャンバラに付き合ってもらおう」
「いいぜ。ヴィエル、赤ん坊を奥に頼む。お前の連れは端に逃がしとくぞ。これで気兼ねなく動けるだろ」
赤髪の女中――――ヴィエルは赤子を抱え再び壁の中へ溶けた。続けて魔王が左右に手を払うと、兵士の包まれた球体が部屋の端に整列する。
「決着がついたら赤子をこの場に戻してもらおう。兵士たちも解放しろ」
「もちろん。お前の相手は俺がする。周りのやつは一切手を出さねえ。好きだろ? 一騎打ち」
魔王の声を聞き従者たちはヴィエルと同じく壁の中へ溶けていった。
「ああ。よく知っているな。先の大戦で見たか」
「いや、俺は好きなんだよ。人間が」
「そうか。俺は魔族が嫌いだ」
「それでいい。いや――――それがいい」
暗銀に覆われた魔王の顔など窺い知ることはできるはずがない。だが、朱雀には魔王が笑っているように思えた。
「参る」
「来い!」
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