魔王の子育て日記

教祖

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波乱

来訪者への極意~魔王監修~ その6

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 「あんたに用は無いわ。退きなさい」
 「これ、おろす、しろ。つぎ、する、なら、ころす」
 両者に退く気などない。
 通訳の背後には、不気味なほど微動だにせず、ただ真っすぐに総雲を見つめる赤髪の女中。腕の中で変わらず寝息を立てる赤子の姿に、反応できなかったのではなく、反応しなかったのだと朱雀は確信した。
 再び鎧男へ視線を戻す。傍観者に徹し、顔だけを向けて行く末を眺めている。
 「総雲! 刀を収めろ!」
 「私は目の前の女を殺すためにここに来ました。此奴こいつの死に顔を見た後にお話を聞きます」
 朱雀の声は届かない。
 過去の清算――――総雲が魔界ここに来ることを決心したときの台詞が蘇る。
 今がまさにその清算の時なのだろう。だが、こんなところで即断先行は許されない。未知数の相手に最大戦力で挑まなければ、戦いの土俵にも上がれない。
 鎧男もいつ傍観の姿勢を崩すとも分からない。――――なぜかこちらと会話を試みているがあるのも気にかかる。
 まさか和解を求めているわけではないだろうが、心理戦に長ける術を持っているのなら厄介だ。
 あの様相、とても一筋縄でどうにかできる相手ではない。
 「総雲! 私の命令を聞かないのなら、お前を処分する」
 最後通告ともとれる朱雀の言葉に返答はなかった。
 「##%&$%%***」
 「たたかう、おまえ、たち、のぞみ、なら、あいて、する」
 僅かに眉をひそめた後、通訳の女中は鎧男の言葉を訳した。それはこちらの返答次第で開幕の狼煙となる問いであった。
 兵士達も葛藤する。自分が止めるべきか、行ったとてあの巨躯を抑え込むことができるか。いっそのことこのまま総力を挙げて赤子の奪還へ向かった方がいいのではないのか――――いや、だが、しかし。衝動で前のめりになった上体を理性で戻す、集団心理の具現化された様がそこにあった。唯一――――最も小柄な兵士を除いて。
 その兵士は構えをそのままに疾駆する。体躯と相まって小型の捕食獣の如き姿。
 紅き捕食獣――――夏輝は、睨み合う総雲の首元に刀を突き付ける。
 総雲は気配で自らの置かれた状況を悟ったようであった。
 「総雲さん、得物を収めて下がってください。朱雀様のお言葉を蔑ろにするなら、自分の首に別れを告げてください」
 「……っ」
 一拍置いて総雲は得物を背後の鞘に納めた。通訳の女中もだらりと手を下ろす。手のひらには傷一つなかった。
 総雲の手が下げられたのを確認して夏輝も刀を収めた。そこで初めて柄巻が汗で湿っていることに気づいた。
 それは初めての体験で、見知った人間に刃を向けることがどういうことなのか痛感するのだった。
 「夏輝…‥」
 後方で朱雀が呟く。安堵の色が見える声だった。
 「下がってください。次はありません――――」
 ひゅん――――
 総雲に告げた瞬間、擦れるほど小さな高い風裂音が夏輝の耳に届く。
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